元カノそっくりさんは同じ名字

 新たなライフスタイルは僕にとって大きな変化となった。

 朝はみんなで揃ってご飯を食べたり、四人で買い物に行ったり。それは前よりも有意義で楽しい日常で僕にはそれが、とても輝いて見えた。

 だけど、僕の義妹こと柚木美雨ゆずきみうは大嫌いな元カノにそっくり似ている。彼女が悪いわけでもなく、まだ忘れられないでいる僕が原因なのだ。わかっているのだが。


「柚木さん。お醤油とってくれるかな」

「あ、はい!」


 考えるな。彼女は柚木美雨。元カノなんかじゃない。


裕理ゆうり。美雨さんはもう柚木じゃなくて山下なんだぞ」

「「あ、そっか……」」


 そうか。もう家族になったんだから名字も同じになるのか。

 それじゃあこれから僕はなんて呼べばいいだろう。


 ――普段の生活での疲れを癒やすために、僕はよく通っている銭湯に行った。


 銭湯にいる時は誰にも邪魔されたくない僕だけの時間――

 まず最初に、入浴料を支払い。着替え、持参したシャンプーを持ってシャワーまで行く。身体を洗って湯に30分浸かったら上がる。

 ここからが僕の快感を増幅させる。


「コーヒー牛乳を一つ」

「はい。こちらで入浴されドリンクを購入した方にはライトノベル・コミックが無料読み放題でございます」


 そう。僕がここに来た理由はラノベを時間いっぱい読み漁るためだ。ここには図書館や書店にはおいていない古い書籍や新たに入荷された本が沢山眠っているのだ。風呂に入って水分を取ったら本を読む。これが僕のルーティーンになっている。


「――ご利用されますか?」

「「はい!!」」


 重なった声に反応して隣を振り向くと、そこにはこっちを驚いた様子で見ている義妹。まさかこんなところで会うとは。

 だけど喋ることは何もないので会釈してそのままいつもの席へ向かった。


 ――二人用のテーブルにはライトノベルが5冊とコーヒー牛乳が一本。そして目先には義妹。

 他にも空いている席は沢山あるのに、何故か対象に座っている。


「ねぇ、そのぉ。……なんでここいるの?」

「本を読みに来たら偶然山下くんがいたから。ちょっと話してみたいなぁーっと」

「そうなんだ。あと君も山下ですよ」

「あ!そうだった!!それじゃあ呼び方どうします?」


 おぉ!!展開がスーパーヒーローの変身シーンよりも速い。初めは結構大人しくてあまり喋らなさそうにみえたんだけど。わりと社交的だった。


「それじゃあ、美雨さんって呼ぶね!あと、兄妹なんだしタメ口で大丈夫!」

「わかりまし……わかったです うぅ慣れてない……」


 僕らは少しずつかもしれないけど義理の兄妹としての良い関係が築ける。そんな気がした。




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