あの映画の主人公

珠愛

本編

気付いたら彼女は私ではなくなっていた。


さっきまでの意識はもう私ではなく


私が見ている彼女のものだ。



彼女が笑えば、苦しくなり


彼女が泣けば、遠い涙をもう一度流し


彼女が虚しくなれば、彼女は気付く。



物足りなかったようで、十分だったと


これからも続くようで、最後だったと


囲まれていたようで、一人だったと


もう戻れないとわかった時には


彼女もまた、ここに来る。




彼女が笑えば、あの子は笑った


彼女が泣けば、あの子も泣いた


彼女が虚しくなれば、あの子は気付く。



物足りなかったようで、十分だったと


これからも続くようで、最後だったと


共にいたようで、一人だったと


もう戻れないとわかった時には


あの子はここから消えていった。




彼女はもう一度振り返った。


落ちた貝をもう一度拾おうと手を伸ばした。


当たり前に彼女は掴めると信じていた。



あの子は気付いたのだ。


自分が彼女の手の上で転がされていたことを。


自分のいる場所はここではないことを。




手を伸ばした先の貝は海に流されていった。


手で転がすと心地良い貝だった。


無くなるなんて考えたくなかった。



爽快なエンディングが流れた。



彼女は自身の心情とは違うエンディングに心底気分が悪くなった


そして彼女は気付いたのだ。



自分はあの子の物語の中の悪者に過ぎなかったことを



夕日も沈み明けない夜が始まった


あの子の悪者としての人生も終わったが


彼女の人生はもう閉ざされていた。



もうこの日は明けない


この映画が未だに終わっていないように。



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あの映画の主人公 珠愛 @Kotony04

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