第7話 告白

週末になりサッカー部の練習試合の日になっていた。サッカーのルールは1チーム11人で前後半合わせて90分ということくらいしか知らない。細かいルールなどについてはその都度、紗羅さんが解説してくれた。私達はサッカー部の応援をした。根戸君はベンチスタートで後半まで出場はなかったが残り20分でフォワードとして途中出場した。

 得点は1-2でうちのチームが負けていた。残り時間が少ないということもあり相手が防御に徹し、根戸君たちが果敢に攻めているが決めきれず時間だけが過ぎていった。残り数分というところで根戸君がペナルティエリア内で倒されPKを獲得した。   

 PKを蹴るのは根戸君だった。根戸君はゴールを決めた。その後すぐに試合終了のホイッスルが鳴った。なんとか同点で終わることが出来た。サッカー部は練習試合後に今日の反省会が、あるみたいで終わるのがいつになるか分からないということだったので私達は少し遅めの昼食をファミレスで食べて解散をした。

 練習試合の翌日からテスト勉強週間に入り全ての部活は休止なので放課後などに皆で勉強を行った。最後の教科のテストが終わるとその日は午前中で学校が終わったためファミレスで打ち上げ会を行った。今回のテストでは、皆手応えがあったみたいで勉強会のおかげで得意科目以外でも良い点が取れたかもしれないと話していた。早速翌日からテストの返却が始まると皆良い点数だった。昼休憩の時にテストの点数を見せあっていたが結構点数が高かった。

 テストが終わった後奏君から


『土曜日デート行かない?』


デートのお誘いのメッセージが来ていた。その日はカウンセリングに行く予定だったため無理だったが病気のことは話せなかったので、つい


『その日は茶道部の人達と有名な抹茶屋さんへ行くので厳しいです。』


嘘をついて断ってしまった。

 土曜日になりカウンセリングを受けに病院に行き先生に話した。


「先生、最近では複数人のグループの中に男性が少しいる状態ならある程度話せるようになりました。でもまだ、1対1で男性と話すのは怖くて、私彼氏と一緒にデートなど2人で色々なことをしたいです。でも2人になるのが怖いというのもあるのですが彼のこと好きなのに、体が拒絶しているということが一番辛いです。」


「そうですか。これからのカウンセリングでは男性の先生と話す練習も入れていきましょうか。彼氏さんの件は荒療治にはなってしまうのですが、1度事情を全て話して関係を友達に戻って貰い積極的に話して治療していくという方法があります。そしてトラウマの原因である実際に襲われた現場に行き克服するということが良いかと。」


「分かりました。少し考えてみます。」


「これは私の個人携帯の電話番号だから不安なこと等あったら電話して貰っていいからね。」


そう言って電話番号の書かれた紙を渡してくれた。

 帰宅後、私は今後どうすべきを悩んでいた。理想は荒療治で早く治す方が奏君とも早く話したり出来ることは分かるがもし失敗して、悪化などしてしまったら今までの努力が無駄になってしまうし、私は今度こそ立ち直れないだろう。結局日曜日の夜まで悩んでいた。1度先生に相談することにした。


「先生、私清水です。私荒療治を行って早く、治したいと思ってます。でも失敗して悪化してしまったらと思うとなかなか決めきれません。」


「清水さん、荒療治で失敗しても今までと違い理解者が増えていますし、私も最大限フォローします。清水さんが今1番した方が良いと思うことを、私は尊重します。」


「先生、ありがとうございます。明日奏君に、話します。」


先生の言葉に勇気が無かった私に勇気をくれた。香さんと林先輩にも明日のことと先生と話したことを伝えた。

 翌日、奏君にはどのように伝えようか考えていた。気付けば授業も終わりHRが始まりそうになっていたので、私は急いでメッセージで


『今日の放課後、大事な話があるので4階の美術準備室に来てください。』


奏君から『了解』と一言返信があった。


一応林先輩に伝えた。


『今日の放課後に4階の美術準備室で、奏君と話します。』


携帯だけ持って、HRが終わり急いで準備室に行くと流石に誰もいなかった。深呼吸をして、奏君を待っていると鞄を持った、奏君が来た。やっぱり二人きりになると体が萎縮してしまい上手く喋ることが出来なかった。何か喋らないとと思い、ようやく出た言葉が


「奏君、私と別れてください。」


だった。奏君はあまり驚きもせず、


「最後に一つだけ確認したいことなんだが、誰かに脅されてこんなことを言っている訳じゃないんだな?」


「はい。実は」

私は事情を説明するために口を開いた瞬間、奏君は何かを悟ったような顔をして準備室から走って出ていってしまった。一瞬何が起こったのか分からず固まった。しかし、奏君が走り去ったことを理解してすぐに準備室を出てから「奏君」と大きな声を出しながら追いかけた。

 しかし彼の足が早くすぐに見失ってしまったので彼に電話をかけたが出てくれなかった。メッセージを入れて再度電話をかけたが電源が切られているのか繋がらなかった。すぐにゆうかさん達のグループに


『大切な話があるので部活が終わった後校門に来てください。駅前のファミレスで大切な話があります。』


そう伝えると、ゆうかさんから


『部活切り上げてすぐ向かう』


と返信が来た。その後香さんと林先輩にも


『話したいことがあるので出来るだけ早く駅前のファミレスに来て貰うことは出来ますか?。』


香さんが『分かった』と言ってくれた。急いで校門に行くと、紗羅さんと根戸君が待っていた。


「すいません、部活の途中だったのに抜け出して来て貰って。私のことで大切な話が」


「おーい、待たせてゴメン」


「私が急にお願いしたので来てくださってありがとうございます。」


私たちは駅前のファミレスに行った。改札の奥から香さんが来るのが見え、香さんもこちらを見つけたのか走って来てくれた。


「皆さん、この方は山本香さん。私が呼んで無理して来てくださいました。」


香さんを紹介して各々軽く挨拶を済ませたところでファミレスに入った。店員に席を案内され皆が座ったのを確認して、私は話し始めた。


「今日は集まって貰いすいません、ありがとうございます。実は私、だ、だ」


男性恐怖症のことを伝えようとするとあの日のことがフラッシュバックして過呼吸ぎみになり上手く話せなかった。その姿を見て香さん以外の皆がただ事では無いことを察して真面目表情になった。香さんが私を宥めながら私の代わりに伝えようとしたのでそれを止めて、


「香さんすいません、もう大丈夫です。私は皆さんとボーリングに遊びに行った帰りに男性に襲われました。」


それだけ伝えると胃液が込み上げて来たので急いでトイレで吐いた。吐き気が収まり水道でうがいをした後、席に戻ると香さんがある程度のことを説明してくれていた。


「凛、私も凛と同じことされたら同性の友達にだって言いづらいし心配掛けたくないって気持ちも分からんことは無い。でも本音を言うと雄二には無理でも私たちには相談して欲しかったかな。」


ゆうかさんがそう言うと沙也加さんと紗羅さんも頷いていた。


「すいません。それよりも症状については香さんが説明してくださった通りでして今ではグループでしたら男性とも話すことは出来るようになったのですがまだ男性と二人で話すことは出来ない状態です。1番辛いのが奏君と恋人なのに一緒に過ごすことが出来ないことでした。その事をカウンセリングの先生と話して最終的に荒療治ではあるが、1度事情を話して恋人から友達に戻ってから友達として積極的に接して克服するという方法を選びました。今日の放課後、奏君にその事を話そうと美術準備室で別れの話をしたところ事情を話す前に消えてしまいました。」


根戸君が質問してきた。

「もしかしてなんだけど近くに林先輩いた?」


「いえ、いなかったと思います。場所は伝えましたが、私は見ませんでした。どうしたんですか?」


「話を聞いてから思ったのが今日の部活に林先輩、少し遅れて来たからもしかしてそっちにいたのかなって。なんでか知らないんだけど奏って清水さんと林先輩が両想いだと勘違いしてそうなんだな~」


タイミング良く林先輩が来たため、香さんが


「俊平、あんた今日の放課後清水さんのところに行った?」


「何かあったらいけないと思って行ったけど影からこっそり見守ってたぞ。斎藤とは少し目があった気がするg」


「あんたのせいかあぁぁぁ!」


林先輩が言いきる前に香さんが叫んだ。


「今までの話から考えるに清水さんが俊平と付き合うために斎藤に別れ話をして、俊平と清水さんが付き合うことの報告を聞かされると思って逃げ出したわけね。」


話を聞きながら奏君と連絡を取ろうとしていたゆうかさん達は


「あいつスマホの電源切ってるわ、全然連絡着かないわ。あいつに対してはまた明日学校で事情を話すとして、問題は凛の男性恐怖症の治療だな。明日からは雄二を中心に人畜無害な男子と話して克服するしかないな。」


ゆうかさんが今後の予定を話していると私のスマホが鳴った。名前を見ると奏君からだった。


「はい、もしもし奏君?」


「あ、凛ちゃん?奏の母の裕子よ。」


電話に出たのは奏君のおばさんだった。


「あのおばさん、奏くんのスマホからどうしたんですか?奏君と変わって貰えますか?」


「凛ちゃん、冷静に聞いてね?奏は事故に遭って意識不明の重体で病院にいるの。」


その言葉を聞いて私は意識を失った。







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