アトラクション【プシャメッス・コースター】
ひとしきり暴れ回った蜜水であったが、世界を救った変身ヒロインがその翌週には新シリーズへと身を投じる
「──あっ、バイトの時間だ! 変身……!」
爆誕した新妹系は内手首側に巻いた腕時計を確認すると、半裸の芸人みたいな口上と共に元気系の"ひびきお義姉さん"へとフォームチェンジ。設定遵守に余念がない。
その場の盛りと勢いの産物故、変身バンクなどある筈もなく……外観的には髪をアップにした程度の変化でしかないが、姿勢を綺麗に保ち、間延びした口調を整えるだけでも纏う雰囲気が大分違う。
そう、颯爽と駆け出す今の彼女はヒロインショーのカリスマお姉さん。司会はおろか、主役を張っても違和感のないオーラがある。ヤれば出来る(子作りではない)の典型っつーか、普段どんだけ気を抜いて生きてんだこいつ……。
「ふたりとも、乗り物系はご飯の前に楽しんでおくのが鉄則だよ! それじゃあまた後でねっ!」
去り行く蜜水がぴょんぴょこ跳ねて、乳揺れしながら無邪気に手を振る。水を得た草木のように伸びやかに、彼女は進むよどこまでも。
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そんなこんなで、結ちゃんと一緒にアトラクションを巡っている。
流石は
比較的多いのは家族連れで、旦那一人につき妻と娘が五人ずつとかザラである。次点がヒトオスだけの若者グループ。
蜜水の助言が普通に有用だったので、俺と結ちゃんは上下に焦らしながら上昇して一気にオチる【フリーオホール】や、心許ないサイズのカップに包まれてぶん回される【空中ブラ紐】といった定番どころの絶頂系──もとい、絶叫系から制覇して行く。今は【プシャメッス・コースター】で盛大にぶっかけられた水飛沫を乾かしている最中だ。やっぱ絶頂系だわこれ。
「でさー、折角一緒に来たのにゲート潜った途端『男子は男子だけで行動する!』って言ってどっか行っちゃったんだよ~」
「そんな……夢のキャンパコライフというあの触れ込みは嘘だったのですか……!?」
「むしろ背中に『ご自由にお持ち帰り下さい』って書いてあるレベルだと思うよ、俺は」
──そして陽キャのギャル軍団に絡まれている真っ最中でもある。
「お兄さんそれマ? えー、やば。あの時のうちら、ドッグラン駆け回るワンコ見てる気分でめっちゃチルってたんですけどー」
「ってか、妹ちゃんは余裕で勝ち組でしょ。一緒にランド来てくれるお兄さんとか、実は幻のパペ紋じゃね?」
「ホントそれな~」
……放って置くと無限に喋り続けそうな彼女らは、同じコースターに乗り合わせた女子大生。俺達が大型の熱風機でレボリューションしていたところ、下着の透けた濡れ姿で取り囲んで来た方々だ。最初は質の悪いナンパかとも思ったが、
「お兄さんさー……気付いてないのか知らんけど、さっきから周りにガン見されてるかんね? 何かそっちの子がハムスターみたいになってるし、服乾くまでうちらで勝手に壁作っとくから」
ただの良い奴だった。
「あんましビビらんでもろて~。うちらの大学、Gスポで有名なガチ共学なんで。男子とか全然見慣れてるんで~」
「そーそー。こう見えてハイパーエリートだかんね、うちら。マジ淑女み溢れるわ~」
「ハムスターじゃないですけど! ……え、もしかして都内でも最難関と噂のあの大学ですか!?」
「本当にエリートが通うやつじゃん」
男は男子校行きのこの世界──だが何事にも例外はある。一部の大学には男女入り混じった共学が存在し、つまりそこに通う彼女達は紛れもない才媛ということになる。ギャルすげぇ。
ちなみに、男子校や自宅学習でぬくぬくとしていた男共が一体何故ぬぷぬぷと淫望渦巻くヒトメスの園に通うのかと問われれば、それは単純に資格のため。いくら女性が主力の現代といっても男手が必要な職種はあるし、望めば即尺or即採用されるヒトオスとて、流石に無知のままでは通せない分野もある。
教職や医療系なんかは分かりやすいだろう。下半身を女医の手に委ねることに抵抗のある男性は少なくないし、多感な時期の男子を一番理解出来るのは同性だ。無論、男の下半身を一番気持ち良く出来るのはヒトメスであるとの主張は揺るがない。
ユニゾ(※ユニコーンリゾートの略)もそうだが、こういった女性が偶然に頼らず男性と出会える数少ない場所を差して、界隈では
服を乾かしながらJD達と駄弁っていると、唐突にきゅうん……と仔犬のような可愛らしい音色が響く。
「……っ!? あうぅ……」
発生源に視線を向けると、お腹を抑えながら恥ずかしそうに俯く結ちゃんが。……今朝は早かったし、もしかすると食事は軽いもので済ませただけなのかもしれない。
そこまで思い至ったところで、俺は何も聞こえなかった体で言葉を作った。
「よし、服も乾いたし次に──行く前に結ちゃん、ちょっと屋台覗いて行かない? 実は俺、ランドで色々食べようと思って朝飯抜いて来ちゃったんだよね」
「お、お兄様……!」
感極まったようにこちらを見上げる結ちゃんと、何やら小声で悶えるギャルズ。
「は? エモじゃん。てぇてぇかよ……」
「何この兄妹、めっちゃ推せるんですけど……」
「うちもお姉ちゃんになって、間に挟まりたいわー」
やっぱり普通はそうだよね。オギャりたいから妹になる、ってヒトメスの尺度でも尖り散らしてるよね。
今頃は午前の部を頑張っているであろう同期のヤバさを再認識していると、結ちゃんが気を遣った様子で声を掛ける。
「えっと、お姉さん達はどうします? 一緒に行きますか?」
「やー、気持ちは嬉しいんだけど、実はうちらオナサーの友達と合流する予定でさー」
「大学の男には興味ないから行かないーとか言ってたのに、いきなり『我、膣内センサーに感あり。急行する』ってBOINが来たんよ。何かおもろいから皆で待ってるトコー」
「ほーん、俺の友達も似たようなこと偶に言うけど、案外どこにでも居るもんだなぁ。そういう奴って」
……いや本当に何処にでも居るか? ま、まあ今気にするような事じゃないし、別にいいか……。
「ってことで、うちらのことは気にせず楽しんでもろて~」
「学祭の時期には絶対来てねー。コスプレ研究サークルをよろちゃんでーす」
あ、オナサーって同サーのことなのね。てっきりオナニーサークルの略かと。
しかもオタクちゃんの巣窟じゃん。そこはテニサーとかじゃないんだ……ギャルなのに。
「妹ちゃん、分からせは有無を言わさず押し倒せるようになってからだよ〜」
「しーまーせーんー!」
はっはっは。これこれギャル共、俺の未来を脅かしかねない助言を与えるのは止め給え。
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