STAGE EX-2 第三種接近早漏



 何だか正気を失いかねない光景を見ちゃった気もするが、気を取り直して次だ次。

 ……学生は駄目だな、まるで参考になりゃしねぇ。もっと活きのいい社会人っぽいのを探そう。


 ん、あれは~……? 珍しいな、男の方からヒトメスの集団に話し掛けに行ったぞ。場所は高級ブティック。視姦の文句でも言いに行ったか、それともまさかの逆ナンか? でも何かを指差してるな。……ああ、届かないのか。そうだよね、ひとりでの買い物ってクッソ不便だよね。俺は激しく同意した。


 だがそれにしては少し妙というか……。人に物を頼む立場でありながら態度がクッソデカいのは今更として、取らせた商品を買うでもなく戻すでもなく、そのまま女性に持たせ続けている。キープってことか? いや違うな、別の女にも持ってこさせて、それも積み上げ始めた。それが結構な数に達したところで──何故か女性が財布を取り出した。男の方はドヤ顔で突っ立ったままだ。


 ──こ、これはまさか……!?


「み、貢がせてやるくん!? あの伝説の『俺様のために貢がせてやるから、光栄に思え!』くんじゃないか……!?」


 なんというテンプレ……! てっきり分からされ過ぎて絶滅したと思ってたのに!


 これには流石のヒトメスも……おっとニッコリ! 花咲く笑顔とはまさにこのこと。でもその花弁って回転しません? 

 そこからはまさにヒトオス無双。我儘三昧であれもこれもと買わせて、更には従者のように荷物持ちまでさせる始末。こ、これ大丈夫か……? そりゃまあこの世界で結婚となると、男に不自由をさせない金と権力の比重が大きい部分はあるし、興味を引くため働きアリのように貢ぐ女性も少なからず存在するのだろうが。

 しかしそれも「いつか絶対この生意気オス分からせてやるっ♡」というモチベーションありきな話なのでは……?


 ──だが彼女たちにそんな感情は微塵も見られなかった。男性に尽くせて嬉しいです! と言わんばかりに次々と買い与え、その上で誰もがニコニコと聖女のように優しげな微笑みを浮かべている。乳イラまんイラどころか、まさに幸せの絶頂に居るかのような様子であった。


「あ、移動した」


 この後もまだ貢がせる気なのか……。え、あの態度でも分からされないって、何がどうなっているの……?

 俺なんて紳士的に振る舞った結果、おっぱい揉まされたりしてるんだが???

 一体どういうことなのかと世の理不を尽嘆いていると、


「──男性が一、女性が四、それも男を中心に女四人が周囲を固める配置。一見すると周囲の視姦から守っている風を装っているけど、その本領は男性の逃げ道を塞ぐことにある。外出し防止の絶対包囲網──あれこそ『インパコりヤるクロス』の陣形」


「なにそれ、すごくつよそう。……ってか荷物持ちまでさせてるってことは、自分から部屋の中に招き入れるのと同じなのでは……?」

 

 だって自分じゃ運べないもん。これが店側の配送サービスなら「簡単に女を部屋に入れたらこうなるに決まってんじゃ~ん♡ 子宮にミルクをお届けするのはお前だオラッ♡」の手口は店側の詐欺もいいところだから責任問題に発展するが、自分から連れ込んだとなると……。


「ん、彼女たちはデキ婚確定。この後全員で美味しくいただくつもり」


「あ、やっぱりそうなる? よかった~」


 何がよかったなのか、もはや自分でもよく分からないが……。しかしこの俺を差し置いて勝手に幸せになる男なぞ基本は敵だ。VTuber化計画抜きなら、いっそ全員分からされてしまえばいいんじゃないかなとさえ思っている。


「あの逆ナン男性が具体的に何を考えていたのかまでは不明。……しかしそれがどうあれ、彼女たちが男性を満足させられる甲斐性を示したのは紛れもない事実。要求を叶えた分の対価を得る権利はある」


「まさかの逆ナン扱い!?」


 そんな竹取の王子じゃねーんだから。あれは単に自分は至高! 女は自分に尽くすための存在! っていう何も考えてないただのアホでしょ……。それはそれで今時レアかもしれんけど。


「……今のはちょっと盛った。流石に男性が声を掛けただけでそうはならない」


 盛るなや。こっちはベースの常識が曖昧だから信じちゃうだろ。まあそんな目が合ったら即結婚! みたいなパペ紋トレーナー(※パペット紋すたぁ。なんと最新作では目が合っても襲ってこないらしいゾ!)じみた世界観になったら、男が女をガン無視するようになってヒトメスの心は死ぬと思うが。 


「しかし、そこに『貢がせ』『服』『部屋に入れる』という複数の要素が加わると……?」


 ハッ……!


「そんなもの……ドスケベファッションショーのお誘いと、何ひとつ変わらないじゃないか──!?」


Exactlyそのとおりでございます


 なるほどな……。

 先程の女性たちの社会的地位までは分からないが、休日にヒトメス四人でショッピングともなれば、男に縁があるとも思えない「あー、結婚したいな~」「ほんとそれ」「せめて処女だけでも……」そんな風に仲間内で傷を舐め合っているところに、降って湧いたヒトオスくん。


 ──手が届かないのは可哀想で可愛いが、店のことは店員に言えばいいだけのこと。それをわざわざ自分たちに向かって自身のちっこさをアピールした挙げ句、おねだりまでする甘えん坊さんと来た。それも家まで運べ今から家に来る?だって……? やっば~♡ 男に誘われるなんて、そんなエロ漫画みたいなこと本当にあるの~!? まさか一目惚れってこと? それって絶対運命じゃん♡


 ……つまりヒトメス視点、本来は手に入らないような高く止まってるヒトオス様が、激安セール並の超特価でのこのこと食べて貰いに来たようなものなのか。

 確かにそれならあの女性たちが、まるでクリスマスの翌朝にプレゼントを見つけた純朴な少女のようなご機嫌いっぱいの表情になるのも納得だわ。あーこらこら、サンタさんは食べちゃいけません。脱がすな脱がすな。


 俺はまたしても学びを得た。

 いくら相手がそれこそ"何でも"してくれるからといって、それを自分からストレートに求めてはいけないのだと。


 要はスパチャと似たようなものだ。あれもコンテンツとして楽しんだ時間や体験に対して、各々の理由で対価や応援を金銭という分かりやすい形で示すだけであって……。でも受け取る本人からもっと投げろと言われると、その分のリターンを求めたくなるあの感じ。まあそういう芸風で楽しませている人も居るが。


 なんてこと言ってもアラヤくんのアカウントはまだ収益化されてないんですけどね……!

 いや、正確には基準はとっくに満たしているのだが。なんでも到達が早すぎて不正を疑われたのと、本物の男がPako Tubeにいるわけないだろ! いい加減にしろ! とAIちゃんがパラドックスに陥りストライキの最中なんだとか。今はにじこんの運営さんが話をつけているところである。


 ──ともあれ、やはりこの世界の女性関係において最も大切なのは、主導権を維持し続けることのようだ。

 そう、だから……あくまでね。あくまで女性の側からの善意というか、まあ自主的にね? 貢いでいただく的な……。そういう損得を問わない純粋な気持ちが大切なんじゃないかなって……。別にこっちは何も言ってないんですけど、でもプレゼントを拒否するのは良心が痛むっていうか……ねぇ? かといってそちらの都合で贈った物に対して後から見返りを要求するのは、それはちょっと違うんじゃないかなぁ……?


 こんな格好良い車を乗り回してみたいな~、チラッ。

 こういう素敵な場所に一度は住んでみたいな~、チラチラッ。


 まあつまりそういうことっすわ……!


 いやゲス過ぎやろ……。しかも現状で既に恵まれまくってるから、言うほど欲しくもならんし。おねだりした程度でお前らの搾精回数が減ってくれるのなら、この世界の既婚者は誰も苦労してねーんだわ。


 ……とはいえそれはそれ。勿論のこと、いただける物はありがたくただきますけども。──にじこんは所属タレントへのプレゼントを随時募集しております。でも大人の玩具を送りつけるのはどうかお止め下さい。一体どうすればいいのか本気で扱いに困ります。せめてエロ写メレベルにしてください。この世界のエロコンテンツは女性向けばかりでエロゲもエロ漫画も男のイキ顔ばかりなので、悲しいことにお前らヒトメスの自撮りは普通に重宝するのです。デジタルデータは倉庫を圧迫しないし、れーぷの危険もないので。


「っていうか、それでもやっぱり俺と他のヒトオスとで絶対対応が違うだろ……」


「それはそう」


 なんなの? もしかして国ぐるみで「あいつはチョロいから適当言えばおっぱい揉んでくれるぞ」っていう極秘マニュアルでもあるの? そんなのもう虐めなのか忖度なのか分からないよ……。


 もしかして気配とか雰囲気とか、そういうのが漏れていたりするんです? 電車で痴漢が「こいつは触っても我慢して受け入れるタイプだな、へへへ」って品定めするみたいに。いやエロゲかよ……。


 …………。

 ……。


 さて。一通り頭を悩ませたところで、そろそろ現実と向き合うとしますか……。


 チラり。


「……? 心配しなくても、貴方はどちゃエロ。自信を持って」


 なんか居るなぁ……。

 しかもクッソ失礼なんですけど。サムズアップすんな。コーヒーショップのゆるふわ店員共ですら、直接は言わなかったぞ。思いっきり聞こえてたけど。


 俺はさも当然のような顔をして隣で相槌を打つ知らない女に意識を向けた。配信で変な癖が付いてしまったのか、独り言垂れ流してた俺も大概だが……あまりにもナチュラルに混ざって来るせいで、普通に談笑に興じちゃってたわ。


「あの、どちら様ですか……?」


 何ならこの流れ今日二回目やぞ! 何でどいつもこいつも勝手に相席するんだよ、おかしいだろ! 

 すると謎の女は周囲を確認してから、人形のように整った顔をずいっと寄せ──囁くようなダウナー声で、


「……こんシコ~」


 !?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?

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