陽だまりの教室で
モモは、教室の窓の外をボーっと眺めている。ふたつの目の焦点はどこにもフォーカスされていない。思考は完全に停止状態だ。モモのいる教室は、L字形をした3階建ての校舎の3階にあり、校庭をよく見渡せる。何といっても窓際のモモの席は、校庭を眺めるのには特等席である。校庭の真ん中には、高さ20mを超える大きなケヤキが沢山の緑の葉を身に纏い凜と立っている。幹の太さは3、4人が手をつながないと、グルリと一周できないほどだ。モモの通う女子高は創立100年を超える、いわゆる伝統校である。学校のシンボルであるケヤキは、樹齢が数百年、もちろん学校が出来る前から存在している。全ての教室からケヤキを見ることが出来るが、モモのように授業中にボーっと見つめている生徒はきっと数人だろう。開いた窓から入る初夏の気持ちいい風が、カーテンをそよがせる。青葉のすがすがしい匂いに、心は癒される。5時間目の授業は歴史、担当は荒木先生だ。黒縁の眼鏡をかけた小太りの教師である。ゆったりとした口調が、昼の弁当で満腹感の人間には眠気を誘い、自然とまぶたが重くする。モモは、授業を聞かなければならない使命と睡魔の狭間に揺られ、まどろんでいる。プルプルっと頭を小刻みに軽くゆらしたモモは、パラパラっと教科書のページをめくって、歴史の時計を早送りしてみる。しかし、抵抗虚しく睡魔が勝り、机にのせて組んだ両手の甲の上にアゴを乗せて完全に昼寝モードになる。そしてついに、家康が日本を統一したのと同時に力尽きつつある。江戸時代のページが開かれた歴史の教科書の上にモモは頭を乗せる。教科書には将軍の似顔絵が載っている。距離が近くて焦点が合わないのか、眠気なのか、その姿はぼやけて見える。
(名前は存じ上げませんが、将軍様お許しを。)
モモは漆黒の眠りの闇に落ちていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます