2. 思い出
後悔ばかり思い出すが、もちろん楽しかった思い出もある。
例えば体育祭、文化祭だ。
体育祭は二人三脚で出場して見事1位を取ることもできた。
お互い帰宅部だが、運動神経が悪かったわけではなく、練習を数回もやれば50メートルを止まることなく走り抜ける事ができた。
放課後残って練習する体で体育館裏でゲームしながらサボったのはいい思い出だ。
そして文化祭ではバンドを組んで演奏をした。
長谷川がボーカル、僕がギターでベースとドラムは経験者を入れた。
最初長谷川から誘われた時は流石に無理と断ったが、最後の文化祭だからと何度も言われて渋々始めた。
ただこれが思いの外面白く、今になってもギターを続けている。
長谷川も声が透き通っており、楽器の音に負けることなく歌い上げる。
何を演奏したのかすっかり忘れてしまったが、横で歌っている彼女はとても楽しそうにしていたのだけはよく覚えている。
しかし、何よりも楽しかったのが毎日の雑談だ。
何を話していたのかはもちろん覚えていないが、実は笑い上戸の彼女は僕のしょうもない話でよく笑っていた。
僕もその笑顔が好きで、中学での思い出や友達とのバカ話を多少盛りながら話していた。
そんな楽しい日常も終わりが近くなる。
夏が明け、風も少し冬を感じさせる冷たい空気を運んでくると、クラスもいよいよ卒業後について強く意識し始める。
僕はまだ考えていた。
就職か進学か。
地元から離れた高校とはいえ、まだ全国から見れば田舎の方だ。
都会の高校生と比べると、まだ就職を考える生徒が多い。
僕もその一人で、地元は好きだしできれば実家に住みながら働けたらと考えていた。
ただ、まだ働きたくないという気持ちもあるが、進学となるとお金が必要となるので両親に対して申し訳なさがあった。
この時、長谷川も同様に絶賛悩み中だった。
「はせがわー、お前結局どうすんの?」
「どうすんのって、進路のこと?」
「そそ、お前も前まだ考えてるって言ってたよな? 周りのやつがそろそろ進路決めだしてるからさ、そろそろ俺も決めねぇとなと思って」
「うーーーん、まだ考え中かな」
「だよな~~、決まったらまた教えて」
しかし、就職か進学かに悩む僕を見かけてか、両親が今のままで働いても続くか分からないから、進学して就職先を悩みなさいとのお言葉をいただき進学へと舵を切った。
少し遅いかも知れないが、この時から本気で勉強を始め少しでも金銭面での心配をさせないように国立を目指すことにした。
大の苦手だった英語は、英語が得意な長谷川に頼み、放課後に時間をもらって教えてもらう事もあった。
ようやく学生の本分らしい姿を見せ始めたある日、長谷川から相談を受けた。
夕暮れ迫る放課後の教室、英語を教えてもらっている最中だった。
「進路なんだけどさ……」
「お、ようやくお前もようやく決まったのか?」
「うん。……聞いてくれる?」
「おう、どうした」
「よかったらさ、一緒の大学行かない?」
それはなんとも嬉しい提案だった。
僕もできれば一緒の大学に行きたいと実は思っていた。
ただ彼女の目指している大学と僕の目指している大学では大きな違いがあった。
文系と理系だ。
英語が苦手な僕だが実は数学が得意、というか好きなのだ。
そのため目指す大学は理系を志望しており、すでに選択肢は2,3で絞っていた。
逆に彼女は文系。
特に外国語を覚える事が好きで、英語以外にもフランス語を覚えようとしていたりなど、独学で頑張っているのをよく聞いていた。
その日は長谷川には一晩考えさせてくれと言い帰路についた。
その晩、僕は大いに悩んだ。
どこの大学に行こうかと悩むよりも頭を悩ませた。
彼女との大学生活、そんなの絶対楽しいに決まっている。
しかし、決して裕福ではない家庭の中で大学を行かせてくれる両親に対しての感謝があった。
特に彼女が目指しているのは私立、学費の面でも大きな差異がある。
それにようやく将来に対して考える事が増えていた。
勉強していく中で将来は研究職に就きたいと、漠然だがぼんやりとした将来像が頭の中にあったのだ。
考え抜いた結果、僕は断った。
その日事はよく覚えている。
ごめんと頭を下げると、「残念だなぁ」とつぶやき彼女は泣いたのだ。
放課後で誰もいなかったのが唯一の幸いだったが、彼女は僕の胸に飛び込み嗚咽を漏らした。
続けて、寂しくなるね。とつぶやく。
この頃、彼氏と別れたという噂があった。
仲が良くなったとは言え、中々彼氏の話なんて出来ない僕はその話を聞きチャンスだと思っていた。
そしてまさに今が告白のチャンスだった。
しかし、僕には出来なかった。
その噂が本当かどうかもわからない。
もし噂だった場合、告白して振られてこの関係が崩れることの方が怖かった。
正直僕はカップルじゃなくてもよかった。
ずっと彼女とこうした関係を続けたかった。
ただ彼女は違ったのかもしれない。
もしかしたらこの時彼女は僕からの告白を待っていたのかも知れない。
これが僕の一生後悔する出来事である。
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