僕のしょうもない後悔を聞いてほしい。

下洛くらげ

1. 出会い

僕のしょうもない後悔を綴りたいと思う。


高校3年間。

僕は1軍と呼ばれるグループにいたわけではなかった。

ただ暗いキャラでもボッチというわけでもなく、まさにどこにでもいるモブキャラというのがお似合いだった。こう書いてしまうとなんだか楽しくなさそうだが、そんなことはなく充実した3年間だった。


僕の地元には高校がなく、中学を卒業すれば地元の友だちとは離れ離れとなる。

そのため高校では地元の友だちがいない状態が僕の地元では当たり前だった。

僕も例外ではなく入学した高校は知り合いが一人もいなく1年生の最初の頃は後悔しながら登校していたのを覚えている。


しかし、若いというのは素晴らしかった。

時が経つに連れ友だちが増え、授業が終われば連日遊ぶ機会が増えていった。

社会人になると中々新しい友だちを増やすということは難しい。

あれほど輝いていた時間が本当に懐かしく思える。


そして1年、2年とそれなりにバカをして、時には友達と喧嘩しながらも友情を育み青春を謳歌していた僕にも高校最後の年がやって来る。

就職か進学か。

18歳の子供に重すぎる選択に周りが真剣に悩んでいる中、僕は卒業なんてまだ先のこと。と気にしてなどいなかった。

友達と毎日顔を合わせて、勉強して遊んで、たまに怒られながらも毎日がやってくる。


そんな子供のような事を思っていた僕の前に彼女が現れた。


長谷川はせがわ 杏果きょうか


3年生に初めて同じクラスとなった彼女は僕の前の席だった。

長谷川は所謂1軍グループの一人で、美人で背が高く、おそらく160後半はあったと思うが、とてもスタイルが良かった。

こんな子がこの高校にいたのかと、初めて見たときに思ったのを覚えている。


彼女からするとこの高校は地元で、いつもギリギリに家を出ているのだろう。

チャイム寸前にやってきてはバッチをいっぱい付けたカバンを机の横にあるひっかけにかけそのまま突っ伏して眠る。そして休み時間はいつも1軍の男女グループで集まりながら喋るという、まさにリア充の中のリア充だった。


もちろん僕も仲良くしたかったが、声を掛ける勇気もなくいつもグループで喋っているのを横目に見ていた。そんな毎日が1ヶ月経ったある日、転機が訪れた。


それは英語の授業中。

僕は恥ずかしながら英語が大の苦手で内申点は捨てる覚悟で授業中はいつも寝ていたのだが、たまたま前から後ろへ紙が配布されるタイミングでいつもどおり寝ていると、頭が重くなっていることに気がついた。


何かが乗っていると感じた僕は頭に置かれていた物を掴みながら起きると彼女がこっちを見ていた。


「ようやく起きた」


そう言って笑う。

思わず見惚れた。たぶん顔も赤くなっていたかと思う。

それほどの破壊力のある笑顔。


「筆箱、返して」

「え、ああ……。ご、ごめん……」


頭に置かれていたのは筆箱だった。

彼女は僕が寝ている間に紙と一緒に筆箱を置いていた。

道理で重いはずだ。

筆箱を返すとそれっきり彼女は前を向いてしまう。


しかし、これがきっかけだった。

翌日から朝礼の前、授業後の短い休憩時間、終礼の後など、短い時間ではあるが少しずつ彼女と仲良くなっていった。

そして仲良くなっているにつれ、彼女についていくつか分かったことがある。


・家から徒歩で15分の所に家がある。

・去年までは自転車で来ていたが、最近盗まれたので徒歩できている。

・実はゲーム、アニメ、ラノベといったオタク趣味が好き。

・弟が一人いる。

・複雑な家庭環境で中学から名字が2回変わっている。

・大学生の彼氏がいる。


彼氏がいる。初めて聞いた時はだいぶショックをうけたがこんなに美人な長谷川である。

いてもおかしくなく。むしろ当たり前だ。と思うようにして心に蓋をしていた。

ただ、オタク趣味な彼女とは話があい、よく深夜アニメや、ゲームの話をしながら1日を過ごす事も多くなっていった。

そしていつの日か学校だけではなく、学校外でも遊ぶことも多くなっていきカラオケや、ボーリング。夜にはオンラインでゲームをする日もあった。


ただそうなると必然的に1軍グループと話す機会がなくなり、基本ビビリな僕からすると今までの立場とかそのへん大丈夫なのかと心配していたのだが、彼女は何も気にしてなどいなかった。


彼女は強かった。

力的にではく、人間的にだ。

正義感が強いとでも言うのだろうか。

ある日イジメという程ではないのだが、イジりが女子生徒の中であったらしく一人の女子生徒が泣いてしまったのだ。

それに気づいた彼女はその場で泣かした女子使徒に詰め寄るとそのまま言い合いを始めてしまい、教師が止めるほどまでの騒ぎになってしまった。

こうなると彼女を避けようとするのが普通だと思うが、全然そんなことはなく、むしろ中学生の時からそんな感じだったから懐かしいと、長谷川と同じ中学に通っていた奴が言っていた。



今となっては本当に恥ずかしい話だが、僕は彼女のことを分かった気がしていた。

もちろん長谷川には彼氏がいて、優先順位的にも彼氏が優先だったのだと思う。

しかし、学校の中では僕が一番仲がよく、誰よりも理解していた。そんな風に思っていた。


一言でいうと、好きだった。


僕は彼女ことが本当に好きだったのだと思う。

最初は容姿が良かったから。ただ仲良くなるにつれ内面的にも知ることが増え、彼女の何もかもに惹かれていた。


そんな矢先、1つ目の後悔する出来事が起きた。


夏休み明け、長谷川が顔に怪我をして登校してきたのだ。


「長谷川、お前……顔大丈夫か?」

「うん。大丈夫大丈夫、来る途中自転車で転んで擦りむいただけだから」

「いやいや、擦りむいたとかの怪我じゃないだろこれ。病院行って来い」

「いいから。ケガのことはほっといてよ」


その後も心配して病院をすすめるがほっといての一言。

もちろん僕は気づいていた。そしておそらく僕だじゃなかったはずだ。

あれは殴られた跡だ。

右頬は痣になっていて、痛々しくガーゼを顔に巻いていた。


これが僕の1つ目の後悔だ。

僕は彼女の言葉で引いたのはない。

首を突っ込む事が怖かったから引いたのだ。

もともと複雑な家庭環境だとは知っていた。

今回の怪我がそれによるDVだったのか、今となっては知る由もないが、少なくとも僕は彼女を救うことを諦めた。あの時、無理矢理にでも病院や家庭環境の相談機関にでも連絡させておけば……。


僕は彼女自身を知ることはできたと思う。

しかし、彼女の環境までは知ることができなかった。

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