第2話 世界樹育成の初期方針を決めよう!
「うへぇ。何も見えないな」
モニターに映るのは、大量に舞い上がった砂煙だけ。
大気が無く重力も弱い小惑星に、金属殻で包んだ種をぶつけたんだ。そりゃこうなるか。
『着弾した世界樹の種との情報送受信テストに成功。種の全機能、正常に動作中です』
「よしよし」
『コンテナに積んだもうひとつの世界樹の種はどうしましょう。別の小惑星に投下することもできますが』
「いや、そっちは元々うまくいかなかった時の予備だ。今は使わないからそのまま保管しといて」
『承知しました。投下した種の動作状況は順調です。種の外殻を一部開放。
メインモニターに様々な物質名が表示され、その比率が目まぐるしく動いている。
主な成分は鉱物かな。炭素、ケイ素、鉄。
『現時点での小惑星の構成物質は、商品パッケージ同梱の【宇宙盆栽育成キット使用マニュアル.txt】記載内容から逸脱しません。世界樹育成は可能と予測します』
「いやだから盆栽じゃなくて世界樹の種だって」
『ですがマスター。これが使用マニュアルの正式名称なのです』
「ほんとぉ?」
『本当です。私はマスターに嘘をつけないように設計されています。これは本商品のメーカーによって事前に定義されている名称なので、マスターの許可なく名称改変することはできません』
まぁ宇宙船を管理するAIに嘘をつかれちゃ大事故になりかねないし、そこは仕方ないが。
「それじゃ【宇宙盆栽育成キット】って単語は今後【世界樹の種】に自動で変更するようにしといて」
『承知しました』
そんな話をしているうちに、小惑星の調査が進んだようだ。
成分比率の数字の変化がなくなっている。
『マスター。世界樹の種付近の地質調査が終わりました。小惑星の成分に異常値なし。育成樹形の初期設定はトネリコ型ですが、変更しますか?』
トネリコ。世界樹のモデルとしてメジャーな木だ。
「そのままでいいかな。イメージどおりになりそうだし」
『では、トネリコで保存します。その他の育成初期方針の設定をお願いします』
AIが、サブモニターに入力画面とマニュアルを表示させる。
「ちょっと時間もらうよ」
『承知しました。入力完了しましたらお知らせください』
この宙域で最近話題の世界樹育成。
そのメインが、この育成方針の操作だ。
これで世界樹の枝分かれした部分ごとに役割を設定できる。
設定さえやっておけば、ナノマシンがそれに従って世界樹を育ててくれるのだ。
育成方針は人によって大きく2種類に分かれる。
ひとつは、ナノマシンを利用した小惑星からの資源採集や加工。
設定ひとつで、世界樹はナノマシンと小惑星の資源を活用する樹木型生産施設になる。
その生産物を売れば、そこそこ良い
もうひとつは、自分好みの外見の世界樹を作ること。
それこそ盆栽みたいに。
これは半分趣味の領域だけど、完成品がコンテストに入賞すれば宙域で話題になったり、世界樹そのものに高値がついたりする。
私としては好みの世界樹の育成にも興味があるけど、今は資源採集だな。
なるべく高収入を意識しながら入力項目を埋めていこう。
下層は小惑星の鉱物採集をメインとし、一部に加工工場を設置。
上層は有機物合成や植物育成、恒星光エネルギー変換装置をバランスよく、と。
しかし完成予想図を見るに、高収入重視だと味気ない外見になるなぁ。
遠目からは樹木っぽいけど、よく見ると枝や葉の間から人工物が顔を出している。
自然観を重視する世界樹愛好家からはウケないだろう。
私もいずれは、自然感の豊かな自分好みの世界樹を作ってみたい。
でっかい樹木を育てて、そこに家とかいろいろ建てて住んでみたかったり。
だけど、まだ資源も金も足りないんだよなぁ。
今回だって予算の都合上、最小クラスの種を2セット分しか買っていない。
この世界樹で集めた資源を売るか、あるいは世界樹自体を売って、次の世界樹の種を買う資金を作る。
そして、新しい世界樹でさらに資金や資源を集める。
しばらくは、これの繰り返しかな。
「よし、できた。これでいいかい」
『初期方針の入力を確認しました。それではミサイルの発射準備をしますので、完了までお待ちください』
「えっ」
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