《日報》小学生の私(2022/09/10)
小学校の頃のXXXを見つけた。
かけがえのないものではあるから、捨ててはいけないと思っていた。
でも、もういいだろう。
何が書いてあるかは、覚えている。
それでも、最後だからともう一度だけ開く。
小学生の頃の私は、
明るく元気で優しく面白く、おまけに頭も良くてお洒落な可愛い子だと思われていたらしい。
知っていた。
まあ、可愛いについては知らないがその他については。
明るくあろうとした。
元気であろうとした。
優しくあろうとした。
賢くあろうとした。
可愛くあろうとした(結果、お洒落に見えたのかもしれない)。
結果どうだったかというと、苦しかった。
無理をして笑った。笑顔を練習した。
自分の笑顔が怖いと思っていた。クラスメイトにも言われた。
だからもっと鏡の前で笑顔を練習した。
どんなに口角をあげても笑顔に見えなくて、目尻を下げるのがポイントだと気付いた。
今でも人に会う前、思い出したとき、鏡の前で復習する。
笑顔で、どんなときも笑顔で、笑顔で。
大人しく読書をしているのが好きだった。
でも外で遊ばないと怒られた。
だから嫌々活発な子に合わせて、外に出て行った。
大嫌いなドッチボールもした。
全力で人に物をぶつけて、痛がる様や悔しがる様を見て勝ち誇り、笑い、時に煽り、そしてそんな風にして傷付けた側を勝者として当然の如く評価して、誰も注意なんかしない、そんな地獄のようなゲームに参加させられた。
出来るだけ離れ、参加せず、時には授業だというドッチボールからも逃げ出して、先生に怒られた。
人に物をぶつけて遊ぶなんて良くないと何度言っても「授業だから」「そういう遊びだから」と取り合ってもらえなかった。
苦しんでいる人の話を聞いた。
沢山聞いた。
嫌になるほど聞いた。
いじめ、家庭環境、姉妹との不仲、どの先生が嫌い。
聞いてもらえて楽になった、と彼女らは礼を言う。
私は聞いて、辛くなった。
今でも覚えている。
誰が誰をいじめていた。
どんな理由で親と喧嘩した。
あの先生の授業が嫌だ。
「二人でいれば嬉しさは2倍、悲しいことは半分こ」
そんなことを言ったのは誰だったか。
嬉しさは良いとしよう。一人じゃ出来ない遊びもある。
でも悲しさだって2倍だ。
むしろ無かったはずの悲しみを持ち込まれて、いい迷惑だ。
でも"大人"は「優しくあれ」と言う。
大好きな本たちは「優しくあれ」と言う。
だから、「私が苦しむことは、正しいこと」。
だって「私が苦しむことで、救われる人がいるのだから」。
沢山考えた。悲しむ人を救いたくて。
でも私なんかじゃ良いアイデアも浮かばないし、出来ることはそれこそ"話を聞く"くらいだった。
救えていないのだからと、お礼を言われてからも考え続けた。
いっぱいいっぱい考えた。
ああしたらどうか、こうしたらどうか。
考え、伝えても、返ってくるのは「ありがとう」のみ。
まだ、まだ救えていない。
彼女たちは、私が親身になって考えてくれたことに対してお礼を言っているだけ。
まだ救えていない。
まだ何も出来ていない。
塾に通わせてもらった。
沢山馬鹿にされた。
人が蹴られていた。
壁に穴が開いた。
教室を追い出された。
沢山勉強した。
いっぱい我慢した。
でも終わらなかった。
馬鹿だからだと、また怒られた。
頭が良い人はちゃんと出来ていると。
体調を崩すとさらに怒られた。
体調管理も出来ないようだから駄目なのだと。
熱が出ても喉が痛くても怪我をしても、勉強は出来ると言われた。
そもそも万全な状態を保てない自分が悪いのだから、勉強をサボる理由にはならないと。
サボってない。
ワザとじゃない。
宿題を減らして欲しくて、体調不良を伝えたんじゃない。
私が馬鹿だからいけない。
馬鹿だから馬鹿だと言われ、馬鹿だから宿題は終わらず、馬鹿だから遊ぶ時間なんて無くて、馬鹿だから駄目な奴であり、馬鹿だから諦めなくちゃいけない。
「周りを見ろ」って。「いい加減無理だって、身の丈に合った目標を持て」って。
「夢を見るな」って。
可愛い人には可愛い人が、格好良い人には可愛い人が、相応の人たちが居るべきだと思った。
だから好きな人の隣に立つたために、好きな人に好きだと言ってもらえるように、可愛くならなくちゃと思った。
可愛いものを可愛いと思った。
可愛いと思って自分で試してみたら、みんなに笑われたりした。
でも私はそれを可愛いと思っていたから、好きだったから、またやった。
また笑われた。
「なんでそんなのしてるの?」って言われても。
「可愛いでしょ」って自慢した、胸を張った。
家族だけが、可愛いと言ってくれた。
家族以外の大人の人は、「ありのままの子供らしい子」を可愛いと言った。
小学生なんて、自分と違う価値観を受け入れることがまだ難しい時期だと思う。
誰も"私の思う可愛い"を、可愛いと言ってくれなかった。
親は、親馬鹿でいてくれたのだろうか。
ありがとう。
たくさん泣いた。
たくさん怒った。
たくさん疲れた。
もう戻りたくない日々。
今でもたまに近所で、小学校の頃の同級生を見かけることがあるが、絶対に声などかけない。
連絡など取りあっていない。
最後に会ったのは、成人式だろうか。
さようなら。
どうせ話すこともないし。
ありがとう。
たくさんお話ししてくれて。
さようなら。
出来れば、もう話したくないし、顔も見ずに居られると良いな。
どうか私を忘れて下さい。
それか、どうかその"めちゃくちゃ良い子の私"を、そのまま覚えていて下さい。
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