再会コンプレックス
一週間なんてあっという間で。今日が終わればまたいつも通りの職場に戻る。
「ミラちゃんとも今日でお別れかぁ……。何だか寂しいね〜……」
「ふふん。しょうがないからたまには遊びにきてあげてもいいよ」
「本当? やったぁ!」
「その代わり将来パパにめいわくかけるようなことはしないでよねっ。パパが困るとママが心配するんだからっ!」
「は〜い、頑張りま〜す」
本当にしっかりした良い子で、こんな子ならずっと居ても良いぐらい。忙しない職場には癒やしが必要だと思う。とか言って弟に会えてない寂しさを自分勝手に埋めてるだけなんだけど。
その証拠にミラちゃんが私に懐いてるんじゃなくて私がミラちゃんに懐いてるのよね。困ったものよ。本当に寂しくって朝から心が痛いもの。
「頑張るから絶対遊びに来てね? ね??」
「あんまりミラにひっつかないでくれる? あなたの彼氏にシットされるの。すっごくこわいんだから」
「ご、ごめん……」
そう。全くその通りなの。
私は幼女を可愛がっているだけなのに一体何が気に入らないのか、ノア様はこの一週間ずっと機嫌が悪い。
ミラちゃんは自分に嫉妬しているって言うけど、それは流石に無いと思う。だって相手は5歳の女の子なのよ? いくら私のことを好いているといえど、5歳の女の子に嫉妬なんかするだろうか。
(いやぁ……しないでしょうねぇ、普通なら……)
恐らくまだフレッドさんとの関係でも疑っているのだ。
触らぬ神に祟りなし。ここは知らんぷりしてやり過ごそう。殿下の婚約者だった頃に培ったスキルもいつかは役に立つもんだ。
「そういえばあなた。寂しい寂しいっていうけど、来週のしゅうまつにパーティーがあるじゃない。それですぐまた会えるわ」
「え! ミラちゃんも来るの!?」
「そうよ! ママといっしょにね! だからあなたにかまってる暇なんてないかもしれないわ!」
「ふふふ、本当に大好きなのね。そんなに家族から愛されるママはきっととっても素敵な方なんでしょうね!」
「とーーぜんよっ!」
そう胸を張るミラちゃん。
今度のパーティーは宮廷で働く人を労う為に開催される。爵位を持っていなくとも、その家族ならば参加出来るのだ。
因みに研究所職員も昔からの慣習で招待されるから、“当然”ノア様も
(とか言って私はノア様が出張したとき手紙のひとつさえ出さなかったんだけど……)
──そしてパーティー当日。まさかのノア様が至急対応しなければいけない仕事が入ったので遅れるとのこと。こんな戦場でわたし一人でどうしろと。フレッドさんとの関係だって疑われてるっていうのに、見ず知らずの男性とちょっとでも話しているところを見られたら殺されのではないか。
(同性の友達が居ない身には苦しい状況だわ……。とりあえず壁の花になって腹ごしらえでもしましょうか……)
そう思って料理を数品小皿に取って、壁際で椅子に座ってひっそりワインを飲んでいたのだが、普通に目立ってるしヒソヒソ話まで聴こえてくる。
なんだか私ったら婚約破棄された瞬間から馬鹿になった気がするわ。
本当、自分で言うのも悲しいけれどこんな目立つ存在が壁の花になれるわけ無いじゃない。王子妃から解放されてワンナイトするつもりがノア様と婚約して将来大臣になろうとしているのよ。そりゃ目立つわよ。何やってるのよ私。本当に本当に馬鹿だわ。
はあ、と溜息をついて、追加の料理でも持ってこようかしらと席を立てば、どこからともなく「お姉さま……!!」と聴こえてくる。
この私が聞き間違えるハズがない。これは、この声は正しく。
「ミゲル……!?」
「おねーさま!! 会いたかった!! お姉さまっ!!」
「ミゲル! 我が愛しき弟……! 一体どうして此処に!?」
「もちろんお姉さまに会いにだよ!!」
「ミゲルぅう……ッ!!」
久し振りの再会に抱き合う姉弟。
嗚呼なんて可愛い弟。幼い弟が来ているならきっと両親も来ているはず、と思い辺りを見回すと、やはり居た。優しく微笑み手を振る両親。
「お父様、お母様、お久し振りです!」
「元気そうで良かったわぁ」
「我が娘ながら目立つから直ぐに分かったよ」
「ええ……目立ってたの……? でもミゲルがすぐに見つけてくれるなら目立ってても良いわっ! こうして抱き合うのは何年振りかしら!」
「八ヶ月振りですよお姉さま!」
「なら私にとっては八年と一緒よ!」
「それじゃあ僕は16歳になっちゃいます!」
「16歳になってもミゲルはずっと私の弟よ!」
「あなた達は相変わらずねぇ」
「ところで婚約者のノア君は何処に?」
両親はノア様に挨拶をしたかったみたいだが、残念ながらまだ来ていない。そう伝えると、「なら来るまで壁の花にでもなろうかな。パーティー疲れるし」と口を揃えて言う。
ちょっと待って。両親に壁の花を発動されると本当に見えなくなってしまうのに。まだ再会の喜びすら十分に味わっていないのに。ノア様との婚約の件について聞き出さなきゃいけないことが沢山あるっていうのに!
「ミゲルはお姉様にぴったり引っ付いてるだろうから心配ないわよね?」
「まぁ姉弟水入らずで楽しんでてよ」
「待って待ってお父様お母様っ!」
「「じゃ」」
「お父様お母様!?」
「あーもー僕見えないーっ。隠れんぼすると絶対負けるもーん」
その言葉を最後に、両親の姿は見えなくなったのだった。
(仕方無い……。ノア様が来るまで弟を存分に抱きしめておこう……)
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