第35話 この停滞、もはや仕様のせいとしか思えない
先日の出来事は俺とユーリスの中で無かった事にした。
そもそも何も出来なかったので。
なので宿泊先に帰った時も、仲間達と平然と話す事が出来たよ。
ウィシュカが白々しかったのはちょっと気になったけれど。
それで迎えた翌日。
「悪い皆、今日も休憩日にしようと思う。もう少し街を堪能したいんだ」
俺は唐突にこう告げては、返事も聞かずに街へと繰り出した。
ウィシュカを強引に引っ張り、二人きりで。
「ちょ、ちょっと!? 一体どうするつもりなのよ!?」
「いや、どうするつもりもないよ。ウィシュカにも感謝しなきゃいけないからな」
「えっ……///」
というのも、先日の白々しさがなんだか気になってな。
もしかしてユーリスとの差別を感じているんじゃないかって。
実際に言えば、一番活躍したのはウィシュカだ。
ユーリスはただ使われただけに過ぎない。
だったらウィシュカにも感謝しなきゃいけない。
でも気持ちがハッキリしないのなら、こうやって連れ出した方が良いと思ったんだ。
もし間違ってるなら二人きりで事情も伝えられるし、周囲に気兼ねしなくて済むし。
「もしかして不公平感とか感じてないかなって思ってさ。俺は別にユーリスだけを優遇したいって思ってる訳じゃないからな」
「そ、そうなんだ……私、てっきり翔助は彼女の事が好きなのかと思ってた」
「どう見たらそうなるんだ」
「どうって、出会ったばかりの時とか?」
「ウッ、それは反論出来ない……」
まぁウィシュカに限っては気兼ねなんて必要無いんだけどな。
彼女だけは俺相手でも対等に話そうとしてくれるから。
まるで友達みたいに感じられて、とても話し易いんだ。
「あの時は第一印象が違い過ぎたんだ。一番まともに見えたのがユーリスってだけでさ」
「やっぱり翔助の世界の人って見た目が大事、なのかな」
「それだけじゃないが、ある程度は大事だよな。初見だと特にね」
俺自身、そこまで女性と話した事がある訳じゃない。
経験のほとんどが
それでも彼女とたくさん接したから、多少なりには向き合う事ができる。
彼女もウィシュカと似て、少しツンツンしてる所があったからな。
「ま、でも今は二人ともいい仲間とも、友達とも思ってるよ。もちろんダウゼンもな」
「友達、かぁ……」
「不服だったか?」
「え? あ、や、その、ちがい、ます」
「なぜそこで敬語になる」
こうやって突くとしおらしくなる所も似ている気がするよ。
わかりやすいって思えるくらいにね。
……いや、比べるのは失礼か。
ウィシュカはウィシュカ、だってね。
「だったら、友達らしく買い物にでも付き合って欲しい、かな?」
「うん、そのつもりで出て来た。昨日あらかた回ったなら行きたい所とかあるんじゃないかって思って」
「うん、ありがと。一人じゃ入り難いお店があったから」
「へぇ、ウィシュカがどんな買い物するか楽しみだな」
それに、今日は彼女と一日一緒にいてあげたい。
彼女もそれを否定しないでくれているから。
もちろん俺も嫌な訳は無いさ。
俺はどちらかと言えば見た目より中身を好むタイプだからな。
特にウィシュカみたいな真っ直ぐな娘はね。
でも、あくまで友達としてさ。
それ以上の関係を築くつもりはまだないよ。
邪神を封印するまでは、愛し合ってる暇なんてきっと無いだろうからさ。
――なんて軽く思っていたんだが。
俺はなぜか今、ウィシュカと共にピンクな宿の一室にいる。
たった一つしかないダブルベッドの上に腰かけて。
しかもあいつは美声を奏でながらシャワーを浴びているという状況だ。
どうしてこうなった。
何をどう間違えたらこうなる。
その経緯を思い出したいのだが、一切記憶が無い。
またか、まさかまた仕様なのか!!
おい宿屋仕様ゥ! なんでこういう時だけサービス満点なんだ!
しかも否応なしにその気にさせるのかよ!
強引にサービスシーン展開するんじゃないよ! 齟齬すごいから!
やっべーよ、本気でこうなっちゃったよ……!
薄々恐れてたけどさ、どうするんだよこの先……!
ウィシュカの裸がどうなっちゃうかわからなくてマジ怖いんだけど。
実はレッドドラゴン事件、結構トラウマだったんだよ。
また吹き飛ばされるの勘弁なんだけど?
けど、そう頭を抱えてる間にシャワーの音が消え、ウィシュカが前に現れた。
湿気を帯びた髪と、タオルを巻いただけの肢体。
それだけでもうゴクリと唾を飲む程に綺麗で。
――ンン、イッツソゥ、ビューティフォウ……!
ユーリスのロリボディとは比較にならん破壊力だ!
つか、なんでこんな時だけ装備紐づけ普通なんだ?
タオル巻いた姿は完璧美女ウィシュカじゃねぇか!!
なんなのこの世界の創造主、エロだけは抜かり無しかよ……!
おかげでこちらは大興奮だ。
表振りは冷静さを保たせているが、結構もうハイテンションだったりする。
「ねぇ翔助……前、私が貴方に訊いたでしょう? 裸になって見せようかって」
「うん」
「なったら私、どうなると思う?」
それでも、俺はハッキリと答えられなかった。
間違えたら怖くて、気分を害させたくなくて。
けどそれは彼女も同じだったのかもしれない。
だからだろう、彼女もまた何も答えなかったんだ。
ただ静かに、巻いたタオルを落としただけで。
だがどうやら、創造主のエロ本気度は本物だったらしい。
そこには疑うべくもない、人らしい彼女の肢体があったのだから。
そうだよな、当然だよな。
じゃなかったら生まれてきた時、大変だもんな。
ここだけは例えバグってたって変わるはずがない。
だからそう思うままに、俺とウィシュカは勢いよく体を重ねたんだ。
ただただ互いの想いをも重ね、交えたいと願うままに。
――そして第八の街ネクスディンはこの日、崩壊した。
天突く巨大クジラ型神獣【セディナウテス】に押し潰された事によって。
なお原因は、俺のタオルがウィシュカの身体に触れたためである。
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