第17話 強敵出現!
「見えてきました、あれがバレバール街道洞窟ですぞ」
「なんか入口が軽い町みたいになってるな」
第五の街へと向かう俺達は今、例の街道洞窟の傍へと辿り着いた。
最初はただの山を抜ける為の道かな、なんて思っていたのだけど。
予想を超えた発展の仕方に驚きを隠せない。
もしかして第四の町の人達、ここに移り住んだんじゃないの?
「第五の街まで遠いからね、自然とこう中継地点が増えたのよ」
「やたらゲームっぽい世界だと思っていたけど、滅んだり発展したりする所は結構リアリティあるのな」
強いて言うなら【四.五の町】と言った所か。
とはいえ、聞くに宿屋と雑貨屋、酒場くらいしかないそうだが。
でもこの世界を旅するのにそれ以上は必要も無いだろう。
「まだまだ今日はぁ時間がありまっす。洞窟の先にもぉ中継地点があるのでぇ、抜けてから休んだ方がいいかもしれまっせん」
「そうだな。ユーリスの足腰が持つならその方が良さそうだ」
「こ、このカモシカの如き丈夫な美脚ならその程度、なんの問題無いのでっす!」
安全地帯でもあるし、食事がてら少し休んでいくとしよう。
ユーリスの膝が既に、生まれたての小鹿のごとくガクガクしているくらいだしな。
無理は良くない。
そう悟り、目前に見える町へと歩を進める。
他の皆も休憩出来ると知ってか、少しだけ足取りが軽快だ。
「――むッ!?」
「どうしたダウゼン?」
だがその時一瞬、空が輝いた気がした。
陽光とは違う強い瞬きが。
その異様さに気付いたダウゼンが立ち止まり、巨躯を身構えさせる。
先程の緩さなど一欠片も残らない、鋭い眼光を空へと向けて。
そんなダウゼンを前に、俺達もまた釣られる様に低く身構えた。
すると途端、空から何かが真っ直ぐ落ちて来る。
まるで火の玉の様な、隕石の様な。
それがたちまち大地へと落ち、炸裂する。
膨大な熱風を周囲に撒き散らし、俺達を強く煽りながら。
今までに無い雰囲気のシチュエーションだ……!
シスメさんが反応しないって事は緊急イベントでもないのか!?
「――ククク、ようやく見つけたぞ。勇者ショウスよ」
「なに……ッ!?」
しかも落ちた先からこんな声までが聴こえて来た。
いかにも冷徹で、悪どさを感じさせる低い声が。
そんな謎の声が俺達の緊張を誘う。
つい武器を取り、切っ先を向けてしまうまでに。
その中で砂煙が晴れ、とうとう声の主が姿を現した。
「フハハハッ! 我が名は邪神王子ギュリウス! 勇者と呼ばれる貴様の顔を拝みに来てやったぞ!」
――とシリアスに思ってたら変な奴来ちゃったァ!!
イケメンだけどォ! ツンツン青髪とゴツイ黒鎧づくめでカッコイイけどォ!!
なんなの邪神王子って!?
邪神は神じゃねぇの!? その子どもが王子になるのォ!?
まだラスボスが魔王ならわかるけどもォォォ!!!
またしても現れた支離滅裂な設定を前に、笑いをこらえるので必死だ。
相変わらず仕事していないネーミング班へのツッコミで気を紛らわせるしかない。
「クッ、まさか邪神の眷属がここで現れるとは……!」
けどダウゼン達は至って真面目。
突如現れた強敵(?)を前に顔を強張らせ、シリアスを貫いている。
もしかして、本当にそれだけマズい相手なのか……?
「だが、俺より弱ければ何の価値も無い。ゆえに私自身が実力を試させてもらおうと思ってな。こうして我直々にお前達の前へと現れた訳だ」
なので真面目そうな雰囲気の中、堂々とファンタジースマホを弄ってみる。
誰一人ツッコミを入れないし、いいかなって。
だから俺もツッコミは入れんぞ。
コイツ一人称が安定してない、なんて絶対にな!
もちろんスマホも何の意味も無しに弄った訳じゃないぞ。
あの邪神王子とやらの実力を調べておこうと思って。
ちなみに奴のステータスは現状でこんな感じだ。
//////////////
邪神王子ギュリウス
職業:フリーター
Lv:20
HP:?????/?????
MP:?????/?????
攻撃力:120
防御力:102
瞬発力:97
知性力:127
精神力:93
運命力:52
//////////////
やはりイベント系なのか、レベルが恐ろしく高い。
こっちはまだ平均レベル8だぞ!?
ステータスも同様に高く、現行の軽く二倍以上ときたもんだ……!
ドリルが無かったら苦戦は必至だろうな。
まぁドリルがあるから負けはしないだろうが。
むしろ疑問なのは、なんで奴が俺の勇者名を知っているのかって事だな。
今、奴は俺の事を「勇者ショウス」と呼んだ。
けどこの名前は最初の王様が呼んだっきりで、俺も仲間達も一切使っていない。
一般に出回っている名前でもないから、知っている理由が見当たらないんだ。
「ダウゼン、なぜ奴が俺を『ショウス』と呼んだのかわかるか?」
「それは最初の街の国王が邪神と裏で結託しているからですぞ」
「想定外過ぎる答えだよ……ッ! そしてお前ら、なんでそんな奴に素直に従ってたんだよぉ……ッ!」
「邪神封印の儀式上、仕方ない事なのでっす!」
それで聞いてみればサクッと衝撃の事実をもたらしやがりましたよ。
最初に「信じてみよう」なんて思ったのが間抜けみたいじゃないか!
こんな事ならあのオッサン、開幕で一発ぶん殴っておけばよかった!
しかしそんな事実はどうあれ、邪神王子はやる気満々。
なんか黒いオーラをバシャバシャと吹き出して、それはもう強そうなのなんの。
これを凌がないといけないってのは随分と酷じゃないか!?
なにせこっちの攻撃力は最大で【52】。
相手の高防御力からして、与えられるダメージは微々たるものだろう。
格上過ぎてユーリスの魔法さえ
これで勝つのは至難の業だろうさ。
どうしたもんか、この状況……ッ!
「……翔助殿、いいですか、よく聞いてくだされ。今から我々がやる事を真似するのです」
「何か策があるのかダウゼン!?」
「えぇ、なので今は何も考えず、従ってくだされ……!」
だけどどうやら仲間達には策があるらしい。
恐らく、日記にも書かれた邪神王子対策法があるに違いない。
そう信じ、頷きで返す。
するとその途端、仲間達が一斉に動き始めた。
「うぐわぁぁぁぁぁ!!!!! なんて強いんだァァァこれが邪神王子の力かァァァ!!!!!」
「何て強さなのォォォ!? もうダメよ、世界の終わりだわァァァァァ!!!!!」
「こんなの勝てる訳ないじゃないでっすかァァァ!! イヤアァアァアァア!!!!!」
いきなり、両膝で跪いて悶え始めたのだ。
それどころか、更には頭を大地へ打ち付けたり、のたうち回り始めちゃった。
三人揃ってわざとらしいくらいに苦しみながら。
(翔助殿ォ、早くゥ!)
(お、おう……)
しかも無駄に息が合ってる。
そう苦しみながらも視線が揃って、唖然とする俺へ。
なので笑いをこらえつつ、俺も渾身のフライング倒身をキメる。
「くっそォォォオ!! これが邪神王子の力だっていうのかァァァァァ!!! 無理だ、こんなの勝てる訳がないィィィィッヒ!!!!!」
体が軽かったので無駄に三回転捻りまで加え、その威力は計り知れない。
ちょっと最後の方こらえきれなかったので減点は否めないが。
こうしてダイナミック敗北宣言をやって見せた訳だが。
それに対する当の邪神王子はというと。
「えっ、何、えっ……?」
めっちゃ狼狽えてる。
闇のオーラが消えるくらいに狼狽えてる。
まぁそりゃそうだよな、普通の奴じゃ理解出来ない事だと思うよ。
「……ク、クク、ど、どうやら我の力がわかったようじゃないか。だ、だが今日は様子見でしかないからな、ここまでにしておいてやろう。しかし次に会った時はこうもいかないから、か、覚悟するのだな!」
こんなニヒルな台詞吐いてるけど、表情はとても複雑だ。
眉は下がってるし涙出そうだし、視線は泳いでるし。
口はひん曲がって震えてるしな。
で、そんな戸惑いを隠せないままどこかへ去っていった。
きちんとイベント自体を受け入れてる所はやはり現地人だなぁって思う。
こうして敵意がシリアスな雰囲気と共に掻き消えた訳だが。
すると仲間達も何も無かったかの様に立ち上がり、街道洞窟へと歩き始めた。
それを空かさず、顔だけを上げて呼び止める。
「待って。とりあえずダウゼン解説よろしく」
「今のはいわゆるライバルイベントですな。不定期に邪神王子とやらが現れ、こうして邪魔しに来るのです」
「なるほど、確定じゃないけどメインシナリオイベントなんだな」
「えぇ、しかもこれは言わば『敗けバトル』。我々が瀕死にならないと終わらない戦いなのです」
「今の敗けバトルだったの!?」
「えぇ。ですがとある勇者が『いちいちゆっくり瀕死にさせられて辛い想いをするのは嫌だ』と、この手段を思い付いて実践したのが始まりと聞きます。いやぁさすが勇者殿達は考える事が凄いですなぁ」
「これで回避できる世界も凄いと思うけどな。ギュリウスさん、完全に感情エラー起こしてたぞ」
それでいつもの解説をしてもらい、納得した上で俺も続く。
過去の勇者の偉業に片笑いを浮かべつつ。
おかげで辛い思いをしなくて済んだのは良かったけれども。
その代償でシリアス展開が全て打ち消されるのはもう諦めるしかないんだろうな。
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