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Nora
01話.[勉強をしようよ]
仲のいい男女を見ながら登校するのはもうごめんだ。
現実逃避をするために女の子同士で仲良くしている組み合わせを探したけど、残念ながら見つかることはなかった。
どうして男の子とばかり過ごすのか、悪いというわけではないとしてももう少しぐらいは同性に意識を向けてもいいと思う。
「
「はぁ、なんで私には女の子が近づいてきてくれないんだろう」
「え、それは秋が露骨だからでしょ、男の子と女の子で分かりやすく態度を変えていたらね」
こちらのことなんて全く考えてはくれていなかった、考えてくれているのであればこんなに酷いことは言ってこないだろう。
「士郎には女の子の友達がいっぱいいるんだから紹介してよ」
「うーん、どうせ僕がいないとまともに話せないでしょ?」
「敬語……にはなるけど話せるよ」
「じゃああのグループの子達も友達だから話しかけてみてよ」
「い、いまは盛り上がっていて邪魔をするのも悪いから今度にしておくよ」
彼は呆れたような顔になってから「ほらね、無理でしょ」と。
どうしてこうなった、小学生時代はどんどんと話しかけることができたのにどうして歳を重ねたいまこれなのだと内で叫ぶ。
「先輩でも後輩でも同級生でもいいんだよね?」
「うん、女の子と仲良くできればそれでね」
「付き合いたいとは絶対に言わないよね」
「そりゃまあね、同性のことを受け入れてくれる人は滅多にいないでしょ」
そういうつもりで自分が女の子のことを好きなわけではなかった、私はただただ仲がいい女の子二人組を見られればそれで十分だと言える。
だけどさ、そこまで仲良さそうな女の子達っていないんだよね、と。
表面上はにこにこしていて一瞬だけおっ……と期待できるのはいいけど、すぐに実際のところが分かって駄目になる。
離れた瞬間にその子の悪口を言うような子ばかりではないものの、実際にそういうところも見てきてどうせという考えが強くなっていくわけだ。
「まあいいや、士郎、今日もよろしくね」
「うん、よろしく」
今日は体育と移動教室がないからここでゆっくりしておくことができる。
教科書なんかも忘れていないし、日と同じだから指名される、なんてこともないから放課後まで一直線だ。
とはいえ、適当にやっているとテストのときに泣くのは自分だから一時間一時間しっかり集中して向き合った。
「秋、ご飯を食べよう」
「どっちの机を使う?」
「秋のでいいよ、秋の周りの子はお昼休みになると出て行くから自然と借りやすいんだよね」
「そっか」
自作のお弁当を食べつつ士郎の顔をじっと見ていると「なにかついてる?」と聞いてきたから首を振る。
彼は私にとって必要な存在だからこういう時間がこれからも続けばいいと考えていただけだ。
「さて、どうしようかな、親友が一人でいるところを見たくないんだよね」
「私だけの話じゃなくなるから問題なんだよね」
「急に秋を連れてこられても相手としては困るだろうしなあ」
後輩でも先輩でもどちらでもいいけどはっきり迷惑だなんだと言われたら心が死ぬ、メンタルが強い方ではないから多分そうなったら二度と自分から動くことはないだろうな。
ただ、それでも相手が悪いということにはならないからね、うん。
「自然と関われるようななにかがあれば……」
「行事も特にないよ? あるのは十二月のテストぐらいかな」
もう既に友達とかそういう状態であったならクリスマスなんかを使って仲を深めるなんてことができるけどゼロだからそんな特殊カードは使えない。
「テストじゃ関わらないよね、その後は球技大会があるけどそこでも期待はできない、と」
「もういいよ、士郎が来てくれれば十分楽しいから」
見たい私にとっては頑張らなければいけない状態になると逆効果というか微妙だ。
絶対に慌てることになるからできないだけとはいえ現状維持が一番だと思う。
「あー」
「ん?」
「……実はさ、彼女からあんまり秋といないでって言われちゃっているんだよね」
あ、そういえば依然としていてくれているから忘れてしまっていたけど彼には年上の彼女さんがいる、高校生ではなくて大学生という点で教えてもらったときは驚いたぐらいだった。
一緒にいるようになったきっかけは向こうから話しかけてきたからで、教えてもらえたときにすごいねと語彙のなさを晒すことになった日のことをよく覚えている。
「それなのによく誘ってくれたね?」
「せめて秋に友達ができるまではって話をさせてもらったんだ」
「大丈夫だよ、余計なことで別れてほしくはないから言うことを聞いておいた方がいいよ」
最近になって急に出てきた問題ではないのだから彼は大袈裟だった。
私だって彼と同じ高校生だ、しかももう二年だからわがままは言うべきではない。
これは結局それを守れていなかったからこその反応なので、これからは頑張って抑えていけばいい。
正直、一人であっても可愛いや奇麗だったり、真面目な子や人だったら見ていて楽しめるからそれで十分だと言えた。
「お風呂ー、お風呂ー、おふーろー」
「ちょっと待った」
食べることや寝ることと同じぐらいお風呂に入るのも好きだから邪魔をしないでほしかった。
敢えてこのタイミングでなくてもいいだろう、両親の入る時間が遅くなってしまうからさっさと入ってしまった方がいい。
「いまからお風呂に行くから出た後でもいい?」
「だから止めているだろ、その前に話を聞いてくれ」
やれやれ、私の弟はいつもこうだ。
「それなら早く言ってよ」
「勉強を教えてくれっ」
「えぇ、それならお風呂から出た後でよかったじゃん」
それだったら寝る一時間前までぐらいは付き合ってあげた、そこまでいいわけではないけど一年生の内容ぐらいは余裕で分かるから問題もなかった。
でも、タイミングが悪い、ここで待ったをかける意味がない。
弟で近くでよく見ていて分かっているはずなのになにをしているのか、分かっていてもそれがどうでもいいぐらいには慌てているということ?
「友達と今度のテストで勝負って話になってさ、で、勝った方が先に告白――」
「はあ? 告白をするなら普通にしなよ」
自分の意思であることには変わらないけどそれでは相手の女の子が可哀想だ、弟や友達のどちらかを好きであるならなおさらそうだと言える。
やめろと言われても続けるのであればその女の子が他の子を好きでいてくれていた方がいい。
「そ、そういうあれがないと進めないんだよ」
「多分友達の彼女さんになるだろうねー」
「いや、あいつだって同じだからこんな話になっているんだぞ?」
「女の子的にはありえないことだからやめておいた方がいいよ、はぁ、勉強だったら出てからね」
脱いで洗って湯船へ、自然とはあ~と息が溢れる。
「なあ姉貴、俺の友達は士郎先輩みたいな奴なんだけどさ」
「士郎か、それじゃあ余計に難しくない?」
みんなに優しくてよく行動できる子ということだから、私だったら好きな子は諦めて応援するよとか言ってどうしようもない気持ちを他のなにかで発散させることしかできないだろうな。
「だよな、だから最近はやめておいた方がいいのかなとか考えたりするんだ」
「中途半端な告白はやめておいた方がいいよ」
「中途半端、か」
「私にこんなことを言われたくはないだろうけど、うん」
私に聞いてしまうぐらいには追い詰められているというか余裕がない状態ということか。
お風呂の時間が好きでも長時間派ではないためそこで終わりにした。
風邪を引かないようにしっかりと拭いて、しっかり着込む、廊下に出たら弟がいたから一緒に部屋に移動する。
「やっぱりなしでいいわ、確かにその程度だったら告白なんかするなって話だよな」
「まあ、それはとりあえず忘れて勉強をしようよ」
「……テストも近いからやっぱりそうするわ」
「うん、分からないところがあったらどんどん聞いてよ」
うん、年頃の姉弟なのにこうして仲良くやれていることはいいことだと言えた。
部屋にだって入らせてくれるし、遊びに行こうと誘ってくれるし、これから先もそうであったらいいと思う。
最悪家族とだけは仲良くできればなんだかんだ問題もなく時間というのは経過してくれるというものだ。
「ちょいちょい、聞いてきておくれよ」
「あ、一応やっているから分からないところは……あ、これはどうやるんだっけか」
「それは……あ、この数字をこうするの」
「やべえ、テストまでにちゃんと理解できるか不安になってきた」
「はは、ちゃんと付き合うから大丈夫だよ、それでも不安なら士郎に頼んでおくからいつでも言ってね」
私ではなく弟のためだったら迷いなく動いてくれることだろう、彼女さん的にも不安になることはないはずだ。
同性にまで警戒するような人だったらもう知らない、勝手に一人で疲れておけばいいとしか言いようがない。
なるべく理想通りになるように考えて動いているのに悪くなんて言われたらブチ切れる自信があった。
「あっ、で、電話だっ」
「その慌てよう……はは、それじゃあこれで戻るね」
「わ、悪い」
勉強なら、分かる問題なら教えてあげるからどうすればそういう風にできるのかを教えてもらいたいよ。
「なんてね」
放課後になったらすぐに帰れるということをいいことだと捉えておこう。
たくさんいてもそれはそれで大変だからこれでいい、誰に迷惑をかけているというわけでもないのだから気にする必要はない。
問題なのはそうやって片付けても少ししたら出てくることだけど、これで時間をつぶせているわけだからそれもまた、ね。
「あれ、私にも電話……って、早く出ないと」
士郎が電話をかけてくるなんて珍しいな、いつもは直接この家に来るからなんか不思議な感じがする、かなり近いところで彼が話しているというのもないことだからそわそわもしているかもしれない。
「……って、『秋』とだけ言われても困るんだけど」
「いやほら、秋ってお喋りが大好きだからいっぱい喋らせておこうと思ってね」
「いやいや、話しかけられて反応をするスタイルじゃないと無理だよ」
「はぁ、本当に心配になるよ」
大丈夫なんて言ったところで彼からしたら信じられないだろうからどうするべきなのか――ただ、そうやって悩んでいる間に時間だけが経過して気づけば終了となっていたのだった。
「じゃーん、友達の妹を連れてきたよっ」
「超地味じゃん、なにこいつ」
地味か、普通レベルではなかったか。
鏡を見る度にお、いけるな! なんて毎回盛り上がっていたけど、残念ながら他者からしたらそういうことらしい。
意外だったのはショックを受けたりはしなかったことだ、何故かいつも通りのままこうして彼と彼女の前にいられている。
実は強くなっていたのだろうか、大丈夫と言い聞かせている度に成長していたのかもしれない。
「僕の親友の笠見秋さんですっ」
「え、これが親友? ああ、いつものみんなに優しいというやつを現在進行系で発揮しているということか」
そのみんなに優しい存在がこれだ! という相手を作ったのも意外だった。
まあ、年上が好きだということは昔から分かっていたけど、いざ実際に大学生なんかと付き合い始めるとま、マジかという反応になるものだ。
そうして付き合い始めたにもかかわらず遠い感じが全くしないのは彼が頑張ってくれているから……なのかもね。
「違うよ、それに前々から一緒にいないと親友にはなれないでしょ? 僕、みんなに対して適当に親友とか言ったりはしないよ」
「ふーん、じゃあまあ親友だとして、なんであたしはこいつのところに連れてこられたの?」
どうすれば親友になれるのかを考えてしまった。
優しくすればするだけそうなれるというわけではないし、なにかを相手に買い与えてばかりいても効果は薄いだろう。
彼の中でなにがあったのか、私達の間で前に進めるようなそんな出来事があったのかどうか、うーん謎だ。
「女の子の友達がいてほしいみたいなんだ、だからお願い、秋の友達になって――」
「いーやーだ! なんでそんなメリットもないようなことを受け入れなければならないの!」
うんうん、そりゃいきなり言われてもこうなるよ。
例えば私の場合なら弟が友達をいきなり連れてきて「友達になってやってくれ」と頼まれたようなものだ、全然知らない子が相手なのに分かった! なんて言えるわけがない。
それから関わって少しだけでも知ることができたらいいよとなるかもしれないけど、少なくともなにも知らない状態では怖くて無理だ。
「お、お菓子を買ってあげるからさ、ね? だからちょっとぐらいは付き合ってよ」
私のために動いてくれているのはいいものの、なんか怪しいおじさんに見えてきたからもういいと止めておいた。
で、解放された彼女が戻るかと思えばそうではなく「あ、士郎とだったら付き合ってあげてもいいよ!?」と興奮気味に口にした。
「あ、僕には彼女がいるのでそういう意味で付き合ってほしいわけではないです」
「なんで敬語なの! つか、どこの誰なの!」
「大人でしっかりしていて格好いい人かな」
「あたしだって大人だよ!」
「僕は誰かと誰かを比べたりはしないよ、
駄目だな、そういう風に返してしまったら余計に止まらなくなる。
士郎が悪いことをしているわけではないけどね、それと恋なんて誰かが喜ぶ裏で誰かは泣くことになるのだ。
だけどどうしよう、こちらのためにしてくれているわけだから一人だけ戻るというのも微妙だ。
とはいえ、ここに残ってもこちらにできることなんてなにもない、そもそももう彼女の中からは消えているはずだ。
「あんたっ、士郎と付き合っている女のことを知っているなら教えなさい!」
「あ、私も知らないんだよ、警戒はされているみたいなんだけどね」
「会ったこともないのに?」
「うん、一緒にいてほしくないんだってさ。ま、そんなものだよね、彼氏の近くに異性がいたら気になるものだよね」
くそ、男女は普通なのにどうして女女の組み合わせはないのか。
なんでもいいから手を繋ぎながら歩いている二人を見られたら喜べるというのに全くこの目で見ることはできない。
「なっ」
「ん?」
「……なんでそんな顔をしているの、あたしが偉そうに言ったから?」
え、どうして急にこうなった、私は単純に理想通りにならないことに対してもやもやしていただけでしかないわけだけど。
だってちょーっと見せてくれればいいのにそれすらもないんだからね、どういう顔をしているのかは分からないけどそりゃ表に出てしまうわけですよ。
別に自分が女の子と付き合いたいとか女の子を抱きしめたいとかそんなわがままを言っているわけではないのだからもうちょっと考えてもらいたいところだけどねと止まらない。
「……あ、士郎、彼女はどうしちゃったの?」
「はは、優惟はそんな感じなんだよ、普段のあれは無理やり装っているようなものなんだ」
「ぜ、全部じゃないけど?」
「無理をしなくて大丈夫だよ、僕も秋も馬鹿になんてしないんだからさ」
やれやれだ、もっと意地が悪い存在と比べたら彼女なんて可愛すぎるから気にならない。
だからそのまま気にしなくていいと言っておいた、正直、それよりも内で叫ぶことの方が大事だったからお礼を言って別れた。
「秋、あの子の名字は
「そうなんだ……じゃない、だから一緒にいちゃ駄目でしょ」
いつ襲撃されるか分からないから気をつけておいた方がいい。
さすがに敵意むき出しの状態でこられたら悪い癖というやつが出るだろうからそうならないように自衛をしなければならない。
いやあのね、あの情けないところを直視することになるのは本当に辛いのだ、あれを見なくて済むなら長く一緒に過ごしてきた相手とだって距離を……。
「学校だからセーフ、そもそも秋と一緒にいられないのは嫌だよ」
「私なんてこうなってほしいああなってほしいと言うくせに動こうとしないけど」
「いいじゃん、こうなってほしいという考えを口にしているだけでしょ?」
ここまでくるとなんか裏があってほしいな、真っ直ぐすぎるのも相手をする側としては不安になるわけだ。
向こうの柱の陰から見てきているあの子が相手でもこうだろうからずっと諦めきれないでいるのかなと想像してみた。
でも、偉そうにやめなよなんて言う権利もないから君らしいねと言って終わらせたのだった。
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