街と鬣犬

水無月はつか

誕生

そこに1人幼い少女が立っていた。

長いまつ毛に彩られた瞼は閉じられていて、まるで眠っているよう。


その瞼がゆっくりと開く。

虹色のような煌めく瞳が不思議そうにただ広がる荒野を見つめる。


彼女はそこに少しの間ぼんやりと存在していた。

しかし、ふと、手を見つめてゆっくりと動かし、自分の存在がそこにある事を自分で確認するように体を見回した。


「おや、ここにも『街』が生まれたんだね、おはよう」


少女の後ろから声がした。


彼女が振り返ると、そこにはパルドューシカに跨ったボロをまとった男がこちらを見つめていた。


「『街』……?」


小さな唇から小さく聞き返す。


「そうだよ、 人々が集落を成すその根源にいる存在だ。

君が生まれたからには、もうすぐ人が住むに必要なものが芽吹くだろうね」


「……あなたはだぁれ?」


「僕は『旅人』、世の理に反して『街』に居着かない輩だよ。そうだな……君も生まれたばかりだし、分からないことも多いだろう、少し話をしていこう」


そう言うと、彼はパルドューシカから降りて、少女の近くまでくると、彼女の近くに腰を下ろした。

少女も倣い、横に座る。


「これも何かの縁だからね、大まかだけど君のこれからについて話していこうと思う」


それから旅人は『街』に纏わる話を彼女に話して聞かせた。


『街』は人が集まる根本、集落の概念体であること。

街が栄えていくとともに『街』は成長していくこと。

ただ、人々とは違い膨大な時間の流れで生きていくこと。

それでも、死にゆく定めであること。


そして『鬣犬ハイエナ』という存在のこと。


「彼らは、少し悲しい存在なんだ……君ならきっと良き隣人になってくれると思う」


そう言いながら彼は少し寂しげに笑った。


彼女は、その姿をみて不思議そうに見つめた。

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