ぬいぐるみ
クレーンゲームに最近流行りの可愛いクマのぬいぐるみが並べられている。その話を友人から聞いて、早速ぬいぐるみを迎えるためにゲームセンターに来た。
ガラス越しに見えるクマは確かに可愛い。ふわふわしていて、柔らかそうでもある。撫で心地も良さそうだ。そこそこ大きいからきっと抱き心地も良さそうに思える。
よし、と意気込んでアームを動かすこと十分。忘れていたけれど、私はクレーンゲームが下手だった。そもそもアームがぬいぐるみを掴むことさえ出来ない。やっと掴めたかと思えば、今度はぬいぐるみの重さにアームが耐えきれず、落下していくクマ。せめて落ちるのは取り出し口の真上であってほしいと何回思ったことか。
これ以上やっても多分取れないとわかっているから、無理矢理自分を納得させて家に帰ることにした。可愛かったからどうしても欲しかったんだけどなあ。
次の日、放課後になって部室に行くと昨日泣く泣く諦めたあの可愛いクマが机の上でちょこんと置かれていた。なぜここにいるんだろう。
「このぬいぐるみ、どうしたんですか?」と先輩に聞くと、「昨日クラスの奴らとゲーセンに行ったら取れた」と返ってくる。思わず、「すごい!」と大きい声を出してしまった。相変わらず先輩はクレーンゲームが得意らしい。私にも少しくらいその腕前を分けてほしい。コツとかあるのだろうか。
そう考えていると先輩はぬいぐるみを手にし、私に差し出して、「貰ってくれ」と言う。素直に受け取ってもいいのか分からずにどうしたらいいのか迷っていると、「貰ってくれると助かる」と言う先輩。
……そういうことなら、受け取ってもいいのかもしれない。
先輩から受け取ったぬいぐるみを抱き締めてお礼を言う。思った通り、ぬいぐるみはふわふわもこもこで気持ち良い。素晴らしい手触りだ。触るとすぐに皆、この抱き心地の虜になってしまうに違いない。
「大事にしますね」
嬉しくなって笑うと、先輩もつられて微笑む。こういうところを見ると先輩は優しい人なんだと思う。たまに意地悪になるけど。信じられないくらい意地悪なことするけど。
「……今なんか失礼なこと考えてないか?」
「全然! 優しい先輩がいて幸せだなあって!」
「俺もそう思う」
「俺もそう思う……?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます