第114話 小さな船に乗って

月の光が煌めく夜に

あたしは小さな船に乗る

この胸に

「さようなら」の言葉を携えて

そして

静かな海に漕ぎ出してゆく


月の光が

あたしに降る言の葉たちに

きらきらと降りそそぐ中を

ゆっくりと

船を漕いでゆく



静かな波間にも言の葉たちは浮かび

月の光に照らされている


ゆらゆら きらきらと

言の葉たちが月の光を映して煌めく


それを見るあたしは

どうしようもなく、乞い願ってしまう



 どうか

 あたしのこの「さようなら」にも

 光をください、と



何処にもやれない

この「さようなら」を

せめて

美しく煌めかせることができれば


この胸に抱いたままでも

いられるかもしれないのにと


そんな風に思いながら

あたしは

静かな海を漕ぎ進んでゆく





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