第27話 夏の夜の記憶

今はもう遠い

あの夏の夜


夜も更けた川のほとりで

彼と

舞うように飛ぶ蛍を見ていた



繋いだ手が

この胸よりも

ドキドキしてるように思えて


きっと

この暗がりでも

あたしの頬が熱いのは知られる気がして



どうかこっちを見ないで、と念じていた


蛍だけを見ていて、と



だって


さっき

唇を重ねたばかりの彼には

向ける顔も

かける言葉も

わからなくて



繋いだ手だけは

どちらからも離さずに

ただ黙って

二人で蛍を見ていた

あの夏の夜



今はもう遠い遠い

あの夏の夜






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