39話。美少女ふたりと街にデートに行って、絡まれる

 城下町に少女ふたりと出かけた。

 だが、俺はブティックで手持ち無沙汰で、ぼぉーっ、とするハメになった。


 シルヴィアは試着室に山ほど服を運び込んだ。そして、きゃあきゃあ言いながら、ルーチェを着せ替え人形にしだして、かれこれ1時間が経過していた。


「マスター、シルヴィアに服を選んでもらいました。いかがでしょうか?」


 試着室から姿を出てきたルーチェは、純白のワンピース姿だった。彼女の清純な顔立ちを引き立てる清楚な装いだ。

 かわいい。思わずドキリとしてしまう。


「あ、あぁ、似合っていると思うぞ……」


 女の子は服装で、こうも変わるモノなんだな。

 店員や他の客たちからも、「天使だ!」というどよめきと賞賛が聞こえてきた。


「理解しました。シルヴィア、これでもう決めてしまって、大丈夫なようです」


 ルーチェが鈴を振るような美声で告げる。


「うん、じゃあ、これで1着は決まりだね! あと、2、3着は選ぼう!」


 後ろから顔を出したシルヴィアが、満面の笑顔で空恐ろしいことを言ってくる。


「はぁ? いや、もうここには1時間以上もいるんだし、もう適当で良いだろう?」

「マスターの意見に完全に同意します」


 それはルーチェも同じだったようだった。感情の起伏に乏しいルーチェの顔には、若干の疲労があった。


「ダメだよ、お兄ちゃん! もっと真剣に選ばないと! はい、ルーチェ、今度はこれを着てみようね。きっと、すごく似合うと思うから」

「シルヴィア、協力には感謝しますが、服は身体を保護する機能を果たせれば良いと考えます」


「そう、例えば俺のマントとか……」

「女の子がそんないい加減な格好で、良い訳ないでしょ? ここは私に任せておいて!」


 そう言って、シルヴィアはルーチェを試着室に拉致して、さらに30分は出てこなかった。

 俺としては退屈だが、シルヴィアは楽しんでいるようだし……まあ、良しとするかな。


 最初はルーチェに喰ってかかったシルヴィアだったが、今は妹の面倒を見る姉のような顔になっていた。

 シルヴィアがルーチェと仲良くしているのを見るのは感慨深いものがあるな。


※※※


 服と靴と装飾品を揃えて、さらに美少女としての磨きがかかったルーチェと、シルヴィアを伴って歩く。

 道行く人々が歩みを止めて、俺たちを振り返った。


「お、おい、とんでもない美少女ふたりだぞ!」

「ちくしょう! あの真ん中の冴えない野郎は何者だ?」


 傍から見たら両手に花の俺は、嫉妬の視線で針のむしろだった。


「……まずい。目立ちまくっているな」


 正体を隠す必要がある俺として、注目を浴びるのはできれば避けたかった。

 だけど、車椅子の妹と生まれたばかりのルーチェを守るために、彼女たちとしっかりと手を繋ぐ必要があった。


「あっ、お兄ちゃん、これこれ! 王都で流行っているようで、食べてみたかったの!」


 途中でシルヴィアがクレープの屋台を発見して、おねだりしてきた。

 思えば妹と街を散策するなんて、久しぶりだ。


「しょうがないな……どれでも好きなものを頼んで良いぞ」

「やったぁ! お兄ちゃん大好き!」


 シルヴィアは手を叩いて喜んだ。

 ルーチェの教育のためにも、いろいろな経験を積ませるのが望ましい。


「おっ、兄さん。かわいい娘をふたりも連れちゃって、モテる男はうらやましいね!」


 屋台のおじさんの軽口に、俺は苦笑する。


「この娘たちは家族なんです」

「かっー! こんな美少女ふたりが妹なんて、兄さんは果報者だね」

「うわっ、おじさん、お上手! よし、じゃあ、バナナクレープにトッピングを追加で頼んじゃおう。ルーチェは何が良いの?」

「……私には判断材料となる情報が不足しています。シルヴィアと同じモノをお願いします」


 ルーチェは困ったように首を傾げた。

 今回の外出で、ルーチェもシルヴィアを姉のように慕い始めているように見えた。年上の女性として、良い手本にしてくれているようだ。


 屋台のおじさんから、生クリームたっぷりのクレープを3つ受け取って、ベンチに腰掛ける。

 ルーチェは恐る恐るクレープを口にした後、瞳を輝かせた。


「これは……おいしいです」

「ホントだね!」

「ルーチェが気に入ったようで良かった。これが王都で人気のデザートかぁ。疲れた脳には最適だな」


 最近は、錬金術工房に籠りっぱなしだったので、俺としても良い気分転換になった。


 【聖竜機バハムート】の開発は、これまでにない魔導システムを搭載するために難航していた。閃きを生むために、ぼーっとする時間というのも必要だ。

 外に連れ出してくれたシルヴィアには、感謝しなくちゃな。


「良かったぁ! 私もお兄ちゃんと、一緒にクレープが食べられて幸せ! 最高のデートだね!」


 シルヴィアが俺に寄り添ってくる。

 うん? 妹と外出することはデートなのか?


 ルーチェは慌ててクレープにパクつくあまり、鼻にクリームがついてしまっていた。

 俺はハンカチで、それをそっと拭ってやる。


「……マスター、ありがとうございます」


 失敗にはにかむルーチェは、ふつうの女の子に見えるな。

 

 ホムンクルスが短命なのは、錬金術では肉体を生成できても、生命の本質である魂までは作れないからだ。


 この問題をクリアし、かつ【聖竜機バハムート】の力を引き出すために、ルーチェには特別な処置を施してあった。

 今のところ、言動におかしなところもなく、魂と肉体の結びつきは安定しているようだった。


「……マスター、私の顔になにか?」


 俺がじっとルーチェの顔を見つめていたため、彼女はキョトンとした。


「ちょっとお兄ちゃん、何、ルーチェと見つめあっちゃっているの!? やっぱり、ルーチェはお兄ちゃんの性癖ドストライクなんでしょ!?」

「いや、違うって! ルーチェの体調におかしなところがないか、観察していただけだって!」


「観察……? では裸になりましょか?」

「ぶぅうううう! こんなところで、脱ごうとするな!」

「きゃあ! なにやっているのルーチェ!?」


 慌てて俺とシルヴィアは、ルーチェの手を押さえる。

 ルーチェは外見に反して生活知識が不足しているため、良く見張っていないと、やっぱりマズイ。


 だが、どうやら心配していたことは起きなさそうだった。

 生後3日を過ぎたホムンクルスが怪物と化して、錬金術師を喰い殺してしまったという逸話がいくつかある。


 これは降霊術で喚び出した魂を、無理やり肉体と結合させたためだ。死後、成仏できずにさまよう魂を使えば、このような結末に至る危険が高い。


 ルーチェの場合は、まったく異なるアプローチを試しているが、どんな異変が起きてもおかしくはなかった。

 その時……


「ヒャッハー! お前がレナ王女の相棒だとかいう、Eランク冒険者のロイか? クソ雑魚の分際で、両手に花はとは良いご身分だなぁ、おい!?」


 ガラの悪い冒険者風の男が、俺に絡んできた。

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