36話。幼馴染、ロイにパーティに戻って来て欲しいと頼むも断わられる

 俺は冒険者ギルドに戦利品を届けると、待ち合わせしていたティアと合流した。


「それでね! 私の大活躍によって、ヘルメス様は大逆転勝利したのよぉお! もう最高にカッコ良かったんだからぁ!」

「……そ、そうか」


 さっきから繰り返されているのは、王宮を襲った武装集団を撃退したヘルメスがいかにカッコ良かったのかと、ティアがいかにヘルメスの役に立って感謝されたかだ。


 かなり誇張され、一部事実が隠蔽、捻じ曲げられ、ティアがメインヒロインのごとく脚色された話を聞かされていた。


「あんまり詳しくは言えないんだけどね! ヘルメス様の新兵器がどう考えても聖女である私のために作られたとしか思えないのよ! くふふふッ!」


 それは【聖竜機バハムート】のことか?

 ティアはすっかり、ヘルメスが自分のための機体を開発していると思い込んでいるらしい。

 否定したくてもできないのが、辛いところだ。


 一応、ドラニクルの機密情報について、ギリギリ触れないでくれているのは、ありがたいけど……

 うーん、さすがに1時間以上も同じ話を聞かされているとゲンナリしてきた。


「ヘルメス様の仮面の下の素顔はどんな感じなのかしら? きっと、すごくカッコいいに決まっているわ!」


 ティアは恋する乙女の瞳になって、うっとりしている。

 公衆の目前で婚約破棄されたのに、まったくヘルメスへの想いをあきらめていなかった。むしろ、ヘルメス熱がさらに高まったような……

 もしかすると、逃げられると追いかけたくなる、という心理だろうか?


「多分、平凡な顔だと思うけどな……」

「はぁ? なんでそんなことアンタにわかるのよ! 失礼しちゃうわね! ああっ、みんなを守るために戦う天才ヘルメス様! やっぱり私の理想の男性だわ!」


 ティアにヘルメスをあきらめさせる作戦は、完全に失敗していた。


「……そ、それで、結局、大事な話というのは?」


 単なる妄想と自慢話が目的であれば、そろそろ帰りたい。

 今はとにかく【聖竜機バハムート】の開発に没頭したかった。


「そうよ、ロイ! あんたはやっぱりヘルメス様じゃなかったわね! あんたが嘘をついたせいで、私は余計な気苦労をしたのよ! 責任を取って、私ともう一度パーティを組みなさい!」

「はぁ……!? いや、俺は追放されたんじゃなかったけ?」


 そもそも責任を取ってパーティを組めとは、ど、どういう理屈なんだ?


「それで私がA級ダンジョンをクリアできるように協力して欲しいのよ! あんたはバフの達人なんだから、できるでしょう?」


 それから、ティアはすまなそうに顔を伏せて、ボソボソと告げた。


「……あ、あんたのおかげで、今まで私が活躍できていたことには……すごく感謝しているだから」


 声が小さくて、後半は良く聞き取れなかった。


「ふ、ふたりで、また一緒にがんばってAランクを目指すのよ! 知っているかもだけど、私はDランクに降格して大変なことになっているの……ッ! ロイの力が必要なのよ!」


 ティアは羞恥からか、顔をリンゴみたいに真っ赤にしていた。


「お願いよ、ロイ!」


 彼女はギュッと目をつぶって、頭を下げた。


「……いや、悪いけど断る。ちょっと俺は今、忙しいしんだ」

「はぁ……? 私が頭を下げているのに、ま、まさか、レナ王女の方が良いとでも言う訳!?」


 ヘルメスの出したドラニクル入隊の条件をクリアするために、俺の力をあてにするようでは困る。

 それに余裕が無いのも事実だった。


「レナ王女の方が良いもなにも。パーティを組んでいる彼女の承諾も得ずに、こんな話を受けちゃマズイだろう?」

「ぐっ……た、確かにそうだけど! 実は、お父さんからも手紙で、ロイと仲直りしなさいと言われているのよ」

「えっ、おじさんから……」


 ティアの両親は、俺を引き取って育ててくれた恩人だ。

 さすがに、無下にはできない。

 ティアは手紙を俺に渡してきた。


『今すぐロイと仲直りしろ! お前が今、抱えている問題の原因はすべてそれだ!』


 と書いてあった。


「お父さんにロイをパーティから追放したこと、ヘルメス様に婚約破棄されたことを手紙で伝えたらね。それが返ってきたのよ」


 おじさんは俺がヘルメスであることを知っているか。

 俺の正体を隠すこと、錬金術の探求をすることに様々な面で協力してくれた。


「だから、私はロイと仲直りしなくちゃいけないの! ふんッ! か、感謝しなさいよね」


 ティアは顔を真っ赤にして告げた。

 なにか、きまり悪そうにソッポを向いている。

 うーん、相変わらず素直じゃないな。

 ヘルメスに対して告げた言葉を、ロイにも聞かせてくれたら考えたんだけど……


「仲直りも何も……ティアが大切な幼馴染であることは、これからもずっと変わらないぞ」

「ほ……っ! よ、良かった。そうよね! ロイは私のことが好きなんだから、当然よね! じゃあ、さっそくだけど……」

「でも、もうパーティを組むことは断る」


 ロイとしても、今後はティアとあまり親しくしない方が良いだろう。

 俺の正体が万が一にも【薔薇十字団(ローゼン・クロイツ)】にバレた場合、ティアは確実に狙われる。それでは、ヘルメスとしてティアと婚約破棄した意味がない。


「はぁ!? な、なんでよ!」

「なんでも何も、俺はレナ王女のパーティメンバーだしな」


 おじさんには後で、俺から話を通しておくべきだろう。おじさんもティアの身を危険にさらしたくないハズだ。


「だけど、あくまでA級ダンジョンに挑戦するというなら。俺の作った新しい魔導具があるから、渡しておくよ。良かったら、使ってくれ」


 俺は鞄から箱を取り出して、ティアに渡した。

 最近のティアは暴走気味になっている。この前は、王宮に乱入した上に、武装集団と戦おうとした。

 いきなり高難易度ダンジョンの攻略などしたら危ないので、念のための保険としてだ。


「じゃあな。もうしばらく会うことはないだろう」

「えっ!? ちょ、ちょっと、ロイ! 待って、待ちなさいよぉおお!」


 ティアが慌てて俺を引き留めようとする。

 だが、俺はそのまま冒険者ギルドを出て行った。

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