26話。王宮がテロリストに襲われる

【大貴族アゼル視点】


「アヒャヒャヒャッ! バカめぇえええ! なにが【機神の錬金術師】だ! この俺様を敵に回したことを、たっぷり後悔するんだなぁああ!」


 俺様は大貴族、ヴァルム公爵の子息アゼルだ。

 本来なら、美しいレナ王女をはべらせ、みんなから祝福と賞賛を浴びる婚約パーティの主役は、俺様だったハズなのだ。


 それがヘルメスなどという、どこの馬の骨ともわからぬ平民に姫を奪われ、殴り飛ばされるという屈辱を味わった。

 居合わせた者どもは忍び笑いを漏らしていやがった。


「許さん! 許さんぞぉ! 俺様をコケにしやがってぇええええ!」


 たが、調子に乗るのもここまでだ。

 俺様はひとりになりたいと家臣たちを遠ざけて、単独で王宮の倉庫にやって来ていた。


 懐から、禍々しい装飾をされた短刀を取り出す。

 これは先日、俺様の屋敷にやってきた老魔導師から受け取った魔導具だ。

 くくくくっ、これを使って、あのヘルメスに復讐してやるのだ。

 俺様は先日のことを思い出す。


『アゼル様、レナ王女を奪ったヘルメスが憎くはございませんか? これを王宮内に設置していただければ、我が手の者が王宮に侵入し、ヘルメスを討ち取ってご覧に入れます。その代わり、私をよろしくお引き立てのほどを……』


 そう言って、老魔導師はこの魔導具を差し出した。

 うさんくさいヤツだとは思ったが、レナ王女との婚姻は、ヴァルム公爵家の栄華のために必要なことだ。

 なにより、この俺様に取り入ろうとするとは、先見の明があるヤツだ。気に入った。


 計画を詳しく聞いたところ、婚約パーティを狙って暗殺を仕掛けるということだ。


『国内外の貴族が集まる婚約パーティが台無しになれば。万が一、ヘルメス暗殺に失敗しても、やはり王女殿下と平民の結婚など許すべきではなかったと、国王陛下もお考えを改めましょう』

『なるほど、おもしろい! 成功したあかつきには、お前を召し抱えてやる!』

『ありがたき幸せでございます』

 

 まぁ、あの老魔導師が失敗したところで、俺様がヘルメス暗殺の黒幕だという証拠は出ない。

 シラを切れば良いだけの話だ。俺様には、なんのデメリットも無かった。


「アヒャヒャヒャッ! ヘルメスを潰せば、レナ王女は今度こそ俺様のモノだ!」


 俺様は上機嫌で、短剣を倉庫の床に置いた。すると、輝く魔法陣が床に浮かび上がる。その魔法陣から武装した男たちが、次々に飛び出してきた。


「ほぅ~っ! これは本格的じゃないか!? よし、お前らヘルメスを殺せ! クソくだらない婚約パーティをブチ壊しにしてやるんだ、アヒャヒャヒャヒャ!」


 男たちは爆笑する俺様を無視して、外に駆け出して行った。

 大貴族である俺様に、あいさつもせんとは無礼な連中だ。


 やがて外から、何やら爆発音と衛兵の悲鳴が聞こえてきた。

 う、うん……? 俺様は違和感を覚えた。

 暗殺というのは標的に気づかれないように、静かにやるモノじゃないのか?


「お、おい、何を……!?」


 倉庫の外に出ると王宮に火が放たれ、夜空が赤々と炎に照らされていた。

 武装集団は誰彼構わず攻撃して、大混乱を引き起こしている。明らかにこいつらの目的は、ヘルメス暗殺などではなかった。

 これは王宮への……つまりは王国への攻撃だ。


「な、なんだ、これは。お前らは一体、どういうつもりだぁ……!?」


 俺様は戦慄した。

 そうこうしている間にも、倉庫から次々に武装集団が出現し、雪崩を打って王宮に攻め込んで行った。

 その数は、もはや100人以上。これはもう暗殺集団ではなく軍隊だぞ。


「待て! やめろ! これではまるで謀反ではないか!?」


 俺様は絶叫したが、ヤツらは止まらない。

 ここまで騒ぎが大きくなっては、王家はこいつらを手引きした者を血眼になって探すだろう。反逆罪で処刑される未来が頭に浮かび、背すじが凍った。


 するとヤツらのひとりが、俺様に剣を振り下ろした。とっさに身を引いて防御したが、肩を斬られた。


「ぎゃあああああ!? 痛い! 痛いぃいいいい!?」

「おやおや、アゼル様。まだ、生きておいででしたか。もうアゼル様のお役目は終わりましたので、ご退場ください」


 俺様に取り入って魔導具を渡した老魔導師が、目前に立っていた。


「お、おおおお前、俺様を騙して……!?」

「これは人聞きが悪い。お約束通りヘルメスめを殺し、レナ王女との婚約を阻みます。その対価に、アゼル様のお命も含まれていたというだけです」


 老魔導師は虫けらでも相手にするように告げた。

 その手には、古式ゆかしい魔法使いの杖が握られていた。ヘルメスのタブレット型スタッフ【クリティオス】に駆逐されて、もう誰も使わなくなった杖だ。

 その杖が俺様に向けられ、強烈な【ファイヤーボール】が撃ち出された。


「誰か、助け……っ!」


 俺様を一瞬で黒焦げにできる威力を持った魔法であることが、直感的に理解できた。


「……させるかっ!」


 突如、俺様の前に立ちはだかる人影があった。

 その声はヘルメスだ。


「ぬっ!? 我が魔法を弾いただと……!?」


 【ファイヤーボール】はヘルメスが振った右手に弾かれた。

 俺様はヘルメスによって、九死に一生を得たのだ。

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