25話。幼馴染との最後の対決。後編
俺がレナ王女と共にパーティ会場に入ると、割れんばかりの拍手が轟いた。
「レナ王女殿下、ご婚約おめでとうございます!」
「あれが、アーディルハイド王国の英雄。【機神の錬金術師】ヘルメス殿か!?」
「凛々しいお方ですな、レナ様がうらやましい!」
「ヘルメス様! レナ王女殿下、万歳!」
皆が俺たちを祝福し、褒めそやす。
レナ王女はにこやかに歓声に応えて、手を振っていた。さすが王女だけあって、他人から注目を浴びることに慣れている。
俺はあいさつのために用意された壇上に上がった。
貴族や各国からの使者たちは、俺の言葉を聞くために、しんと静まり返った。
「ヘルメス様!」
その時、パーティ会場に、鬼気迫る勢いでティアが乱入してきた。
警備の兵たちには、彼女を刺激せずにそのまま通すように伝えてあった。
「な、なんだ、あの娘は……っ!? 刃物を持っているぞ!」
「乱心者だ! ひっ捕らえろ!」
貴族たちが騒ぎ立てる。
「ご安心ください、みなさん! 彼女は俺が招待した客人です。危険はありません!」
ティアを重罪人にしないために、俺は宣言した。
貴族たちは口をつぐんだが、ティアはその一言に激しく反発した。
「客人……? 違いますヘルメス様! 私はあなたの婚約者です!」
「……では、あらためて告げよう。この俺、錬金術師ヘルメスは聖女ティアとの婚約を破棄する!」
ティアは絶望に顔を染めた。
「そして、アーディルハイド王国の第2王女レナ殿下との婚約を、ここに宣言する!」
「はい! ヘルメス様、うれしいです!」
「うぁあああああんッッッ! ど、どうしてですか、ヘルメス様!? 一度は私を婚約者に選んでくれたのに!」
床に崩れ落ちたティアは、大泣きしながら俺を見上げた。
ここは心を鬼にしなくてはならない。
「理由は単純だ。俺のパートナーにふさわしいのは、戦場で俺を支えてくれる者だ。キミには、その資格が無い。だが、レナ王女にはそれがある!」
「はい、ヘルメス様とは、すでに合体も経験済みです! 最高の体験でしたぁ!」
レナ王女が両手を頬に当てて、はにかんだ。
だから、合体って人前で大声で言わないで欲しい。
「ぐぅうううう! そんなことは無いです! 確かに海竜機は動かせませんでしたが、風竜機シルフィードなら!」
「そうか……なら、テストだ。この俺の【クリティオス】に触れてみてくれ」
俺はティアに近づいていって、【クリティオス・カスタム】を手渡した。
ティアがそれに触れると、案の定、空中に『不合格』の光の文字が浮かぶ。
「そ、そんなぁ!? 何かの間違いです! だって、私はヘルメス様を心の底から愛して……っ!」
「風竜機はティアを主と認めなかったようだ。わかったら、あきらめて帰って欲しい」
テロリストの存在を抜きにしても、ティアはいつまでもヘルメスに囚われているべきではないだろう。
ヘルメスとは俺が正体を隠すために作り上げた幻影、虚構の存在に過ぎないのだから。
ティアはひとしきり打ちひしがれた後に、呟いた。
「……戦場で俺を支えてくれる者……やっぱりヘルメス様は、私が弱いことを。ロイのおかげで、活躍できていたにすぎなかったことを見抜いていたんですね」
「……そうだな」
俺はティアを守るために、陰ながらバフ魔法で支援してきた。
8年前、家族を失って悲嘆にくれていた俺を救ってくれたのは、まぎれもないティアだったからだ。
『あなた、お父さんとお母さんを病気で亡くしたんですってね……ぐすぅっ、そ、それなら、私が友達になってあげるわ! 元気を出しなさい』
そう言って、幼いティアは俺に手を差し伸べてくれた。
ティアは出世してヘルメスに認められるんだと励んできた。
彼女が、昔のままの彼女でいてくれたのなら、俺たちの行く末は、きっと明るいモノになっていただろう。
もう考えても詮無いことだが……
「ぐすぅっ……私はそうとは知らずに、調子に乗ってロイを追放して……バカだったて、何もかも失ってやっと気づきました」
「……っ」
まさか、あの傲慢なティアからそんな言葉が聞けるとは思わなくて、俺は驚愕した。
「ロイはいつだって、私にやさしかった。私を守ってくれた。そんな大切な友達を、私はバカにして、見下して、追放して……こんなんじゃ、ヘルメス様の婚約者にふさわしい訳がありませんよね。他人を支えるどころか、支えてもらいっぱなしだったんですから」
そこで、ティアは涙を拭って決然と告げた。
「私はもう一度、ちゃんと努力して、Aランク冒険者にまで登りつめます。そしたら、ヘルメス様のお側に……ヘルメス様の【ドラニクル】の一員に加えていただけませんか? お願いします!」
その時、外から爆音と悲鳴が聞こえてきた。
「なんの騒ぎであるか……!?」
会場を仕切る国王陛下が怒鳴った。
「一大事です! 正体不明の武装集団が王宮に攻撃をしかけています!」
衛兵が飛び込んできて、驚愕の報告をした。
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