17話。再会した妹から好かれまくる。機神ドラグーンの目的

「もう5日もお兄ちゃん会えなくて、私は寂しくて、寂しくて死んじゃいそうだったんだからぁ! なにやっていたの!?」

「うわっと、ごめん、ごめん……ここ最近は、いろいろあって」


 ふくれっ面になるシルヴィアの頭をなでてやる。

 妹とは【クリティオス】の通話機能で、ほぼ毎日会話をしていたが、直接会わないと不満なようだった。

 もう15歳になるというのに、いつまでも甘えん坊の妹だ。


「とりあえず、元気そうで良かった。昨日、連絡した件なんだけど」

「うん! お兄ちゃんとレナ王女殿下の『偽装』婚約のお話だよね? もちろん、お兄ちゃんが王女殿下のお役に立てることは、私の養父母も喜んでいるよ!」


 シルヴィアは満面の笑みを浮かべ、偽装婚約であることを強調した。

 妹は王家のはからいで、田舎に住む老男爵の養女となっていた。老男爵夫妻は、子宝に恵まれなかったため、シルヴィアを実の娘のようにかわいがってくれている。


「シルヴィアさん、初めまして。わたくしは第2王女、レナ・アーデルハイドです。どうぞ、わたくしのことはお姉様と呼んでくださると、うれしいですわ」


 レナ王女が、にこやかにあいさつする。

 シルヴィアは笑顔を消して、完璧な礼節でもって告げた。


「レナ王女殿下、わざわざご足労いただき、恐縮です。しかし、王女殿下をお姉様とお呼びするのは、あまりにも恐れ多いです。兄は正体を秘密にすることを望んでおりますし、あくまで『偽装!』婚約ですので、その儀についてはどうかお許しください」

「……そ、それは残念ですわ」


 シルヴィアがレナ王女を見つめる目には、メラメラと嫉妬が渦巻いていた。

 レナ王女はちょっと引いていた。


「それより、お兄ちゃん! 見て見て! お兄ちゃんへのファンレターが、またこんなにたくさん届いたんだよ! 全部、私の大事な宝物なんだからね!」

「うぉ……っ! これは置き場所に困りそうだな」


 誇らしげに妹が指差した先には、うず高く積まれた箱がいくつもあった。


「ロイ様への感謝を綴ったファンレターですか? すごい量ですね!」


 レナ王女も目を丸くする。

 ヘルメスへのファンレターは、いくつもの偽装ルートを経由して、ここエストアール男爵家に届くようになっていた。


「うん、だからね、お庭に新しく専用の倉庫を建てているの! 特に、私と同じ【魔導車椅子】の利用者からのファンレターが最近は多いんだよ! この手紙は貴族の小さな男の子からだね『ヘルメス様のおかげで、また友達と遊べるようになりました! ありがとうございます』だって! くぅううううっ、お兄ちゃんは世界中の人々を救って、感謝されているんだね。私も妹として、鼻が高いよ!」

「そうかぁ。この【魔導車椅子】は使用者の思念を感じ取って、本人の足と同じように動くようにするのに苦労したからな。評判がいいようで、良かったよ」


 俺はホッとした。

 【魔導車椅子】で事故が起きたというクレームは聞かないし、人々の役にちゃんと立っているようだ。


「うん! 私へのお兄ちゃんの愛がこもった発明品だものね! 評価されないハズが無いよ!」


 シルヴィアの乗っている【魔導車椅子】は、俺が足を怪我をしたシルヴィアのために作った品だった。


「……シルヴィアの足が動かなくなってしまったのは、俺のせいだからな。本当なら、その足を自由に動かせるようにしてやりたいんだが」


 俺は歯噛みする。

 8年前に、俺たち一家を襲った暗殺者の攻撃で、シルヴィアは足に大怪我を負った。


 その怪我には、回復を阻害する呪いがかけられていた。

 この呪いは強力で、高名な聖者に頼んで回復と浄化を何度も試みたが、失敗に終わった。


 シルヴィアの足には障害が残り、自らの足で立つことができなくてしまった。

 それまでは、外で駆け回るのが好きな元気な女の子だったのに……

 暗殺者が狙ったのは俺。シルヴィアは俺をかばって怪我をし、両親は亡くなった。すべては俺の責任だ。


「じ、自分を責めないで、お兄ちゃん! 悪いのは全部、お兄ちゃんを襲ったヤツなんだからね!? 私は、お兄ちゃんの妹として生まれてこれて、最高に幸せなんだから!」


 シルヴィアは俺の腰に、強く抱き着いた。

 もう二度とシルヴィアを危険にはさらせない。

 そのために、俺の正体はやはり秘密にしなくてはならない。


「ああ、大丈夫だ。ありがとうシルヴィア」

「本当……? 最近、お兄ちゃんは、がんばり過ぎているみたいで、ちょっと心配だよ」


 それにシルヴィアの足を治すアテがまったく無い訳ではなかった。


 呪いをかけた人間を探し出して解除させれば良い。あの暗殺者は、Sランク冒険者だった母さんでも敵わないほどの人間離れした手練れだった。

 あいつを探しだして捕らえるために、俺は錬金術を極めて、強大な力を手に入れたんだ。


 機神ドラグーンには、まだまだ強化、改良の余地がある。開発中のサポート機、風竜機シルフィードも、もうすぐ完成する予定だ。今の俺なら、あの男に勝つことができると思う。

 風竜機の操縦者適性を持つ者が、なかなか見つからないのが問題だが……


「大丈夫だ。何も心配するなシルヴィア。その足も、いつか必ず治してやるからな」

「うん、お兄ちゃん! でも絶対に無理はしないでね。私はお兄ちゃんさえいてくれたら、他には何もいらないんだから」


 俺から不穏な物を感じたのか、シルヴィアは心配そうに告げた。

 呪いを解除するためにもっとも確実なのは、呪いをかけた者の命を奪うことだ。俺はシルヴィアのためなら、それを躊躇する気はない。


「……ありがとうシルヴィア、大丈夫だ」


 俺は妹を安心させるために、彼女の頭を撫でてやった。


「それで今日は、俺とレナとの婚約に関する相談で来たんだ。シルヴィアには今後、王宮でのレナの付き人になってもらいたいと思っているんだけど、どうかな?」

「うん! 要するに、お兄ちゃんが私とイチャイチャするための『偽装!』婚約ということだよね!?」


 シルヴィアが手を叩いて喜んだ。

 うん? ……何をどう解釈すれば、そんな発想が出てくるんだ?

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