10話。魔獣ケルベロスとの対決。幼馴染に決別を告げる

「ケルベロスとは、確か200年前にたった一体で王国を壊滅寸前まで追い込んで、勇者に封印された大型魔獣ですよね?」

「さすがロイ様、博識でいらっしゃいますね!」


 レナ王女がうなずいた。

 まずいな……

 創造神に選ばれた勇者が、殺し切れずに封印した魔獣だ。


 騎士団が討伐に向かっても、死体の山と化すだけだろう。ここは俺が機神ドラグーンで出るしかない。


 幸いにして、このヴァレンヌの街はドラゴンの襲撃も想定した堅固な防壁に囲まれている。ケルベロスがやってきても、簡単には突破できないだろう。


「レナ王女、ティアを連れて空間転移で王城へ戻ってください。王城なら、おいそれと手出しはできないハズです!」

「はい! その後、わたくしは作戦司令室に向かいます! それと【海竜機リヴァイアサン】の最終チェックも終了しています。いつでも出撃できますわ!」

「ありがたいです!」


 俺は鞄から仮面を取り出して、顔を隠した。この仮面にはボイスチェンジャーも仕込んでおり、声も中性的なモノに変化する。

 さらに黒いコートを着て、変装した。


「【筋力増強(ストレングス・ブースト)】!」


 【クリティオス・カスタム】を取り出して、バフ魔法を俺とレナ王女にかける。身体が風と化したかのように軽くなった。


 ズドォオオオオン!


 その時、魔獣ケルベロスが、一撃で防壁を突き破って姿を現した。3つの頭を持つ、山のような巨体の犬型モンスターだ。


「なにッ!? いくらなんでも早すぎるぞ!」

「ケルベロスを復活させた者がいるなら、もしかして特別な強化が施されているのでは!?」


 あり得る話だ。

 もしかすると、あの男が──8年前に俺たち一家を襲い、両親の命を奪った暗殺者が関わっている可能性もある。

 あいつは、悪魔や魔獣の召喚を得意としていた。この前のドラゴンも召喚された個体だった。ヤツの特徴に一致する。


 もしそうだとしたら、絶対に負ける訳にはいかない。

 機神ドラグーンは、表向きは王国の防衛用だが、本当の目的はあの男を倒すことだ。

 もし小手調べのつもりだとでも言うのなら、俺が8年間で得た力を見せてやる。


「ば、ばば化け物だぁあああ!?」

「騎士団に出動を要請しろ!」


 家々をおもちゃのように蹴散らして、魔獣ケルベロスが迫ってくる。


 街は一瞬にして大混乱になった。

 無理もない。街を覆う防壁──最大の心の拠り所が、あっけなく破壊されたのだ。


「くっ、予想以上にデカい!」


 ケルベロスが咆哮を上げると同時に、巨大な火炎弾を発射した。

 その先にいるのはティアだ。このままだと、直撃する。

 クソッ、やはり狙いはティアか……ッ! 


「ティア、伏せろ!」

「えっ……!?」


 俺はティアの前に壁となって立ち塞がって、火炎弾を右手で弾き飛ばした。


 俺の右手を覆う手袋は、【空間歪曲(ディストーション)グローブ】といって、空間を歪めてあらゆる攻撃を弾く魔導具だ。この技術は機神ドラグーンの防御兵装にも応用している。

 火炎弾は街の外に飛んで行き、岩山を吹っ飛ばす大爆発を起こした。


「はぁあああああ!? 山が砕けた!?」


 ティアと街の人々が呆然とする。

 早く対処しないと、この街が壊滅するぞ。


「そ、そのお声! まさかヘルメス様……!? 嘘! あんなスゴイ攻撃を片手で弾いた!?」

「そうだ! ティア、あの魔獣の狙いはお前だ。レナ王女と一緒に、避難するんだ!」

「はい! ティア様、こちらへ! 王城まで空間転移いたします!」


 レナ王女がティアに寄り添う。


「待ってください! どうして、私を婚約破棄したんですか!? 私はヘルメス様のことが、ずっと好きで、あなたに憧れて!」


 ティアは俺にすがりついてきた。


「すまないが、問答をしている時間はない。俺のパートナーにふさわしくないと思ったから、ティアとは婚約破棄した。今後、俺たちは一切、無関係だ」

「そ、そんな……!?」


 ティアは愕然とした様子で、目を見開いた。

 魔獣ケルベロスを操っている者がいるなら、俺たちを監視しているハズだ。

 そこで、あえて冷たく突き放す言い方をした。


 敵の目的が俺なら、これで敵がティアを狙うのをあきらめてくれると良いのだが……


「納得できません! 理由を! もっとちゃんと理由を話してください!」


 ティアが食い下がってくる。


「ヘルメス様! ケルベロスがこっちに来ます!」


 レナ王女が警告を発した。

 ケルベロスが建物をなぎ倒しながら、こちらに突っ込んできた。もう一刻の猶予もない。

 

「レナ王女、さあ早く! ティアを安全なところへ!」

「嫌! どうして、私のことを突き放しながら、私のことを助けるんですか!?」

「それは……っ!」


 ティアが幼馴染だからだが、それは言えない。

 ここで俺の正体を明かせば、それこそティアが危険にさらされる。


「すまないが、俺のパートナーはレナ王女だ!」

「はい! ヘルメス様! ああっ、うれしいぃいいい! 大好きですぅ!」

「あっ、あぁああああ……!」


 ティアは絶望に打ちひしがれ、レナ王女が喜びのあまり悶絶していた。


「さあ、ふたりとも避難してくれ。来ぉおおおいっ! 機神ドラグーン!」

『応(おう)!』


 俺は【クリティオス・カスタム】をかかげ、機神ドラグーンを召喚した。

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