かすりきず

目に入ると痛いから

そんなものなんてないと

目をそらしていた


見えないものは いつか

存在しなくなる気がしていた


けれど 忘れた頃に滲みるから

いつまでも忘れられなくて

庇うように歩いて

もう随分 おかしな具合だ


窓に映った姿が惨めで

夜通し泣いた

狭い空に

とうに忘れた星を見た


あの星を もう一度捕まえたいから

まずはそれなりに痛いと認めて

きずを探した

それはただのかすりきず

それでも確かにそこにあるきず


消毒液は ものすごく滲みた


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

つかのま 束井ツカ @tsuka_itsuka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ