絶対に【攻略できない】最強ダンジョン その2

 世界各地に現れたダンジョン――、地下があれば塔があり、山の中の洞窟があれば海の中の建造物もある……、そしてそれらのダンジョンの最奥には、巨大な爆弾が仕掛けられている――。

 その爆弾は世界の四分の一を破壊する威力を秘めており……、

 過去に爆発した回数は、一回のみ。


 それは歴史に残る、大災害であり――死者数も最多だ。


 そして人間社会の崩壊を引き起こした。


 サリーザたち、翼王族が住む浮遊島の墜落も、爆発が原因なのではないか、と言われている……。およそだが、仕掛けられた爆弾の期限は、百年――。


 同時期に発見されたダンジョンが爆発し、世界が欠けるタイムリミットは、百年と、少し多めに減らして、八十年ほどではないか、と言われている。


 もちろん正確ではない。


 人間が発見した時期から数えているだけで、生まれた瞬間からではない。ダンジョンは既に九十九年前に誕生しており、一年後には爆発する、という可能性だってあるのだ。


 それに爆発期限が百年、というのも曖昧だ。ダンジョンによって違うと言われてしまえば、このダンジョンを攻略できていない以上、タイムリミットなんて正確じゃない。


 今すぐにでも、爆発してもおかしくはないのだ。


 嘘でもいいから期限をつけることで、心の安定を得ようとしている……のか?


「ミナト、攻略本を見ながらいくわよ」

「うん――って、あれ?」


 攻略本を片手に、絶対に失敗をしないルートを進んでいたと思えば――、


 なにをどう間違えたのか、攻略本とまったく一致しない光景が目の前にある。



 トラップ――、


 周囲の壁を埋める剣山、その切っ先が、俺たちに向いていて……。


「ミナト!? 道を間違えたの!?」


「違う、そうじゃない! 間違えるわけがない、だって入口からちゃんと確認して地図通りに歩いてきたら、ここに辿り着いたんだ――間違えるわけが、」


 そう、道は合っていた。


 だが通路の先が、意図的に『間違った情報に書き換えられている』――。


 誰かが修正したわけじゃない。書き換えた痕跡がないのだから、最初から攻略本自体が間違った情報を載せていると考えている方が正しい……――マッピング詐欺、だ。


 嘘の情報で俺たちは即死トラップへ誘導させられた……!?!?


「あの、おっさん……ッッ!!」


 なにがダンジョン攻略を待っている、だ――俺たち処理班をはめて殺す気満々じゃねえか!


「ミナトっ、剣山がくるよ!」

「覚えてろよあいつ!! 戻ったら海に突き落としてやる!!」


「先のことより今! さらに罠っぽいけど、ぽっかりと空いた一コしかないあの穴に飛び込むしかないんじゃない!? たぶん絶対に罠だと思うけど!! 串刺しよりマシでしょ!」


 サリーザに手を引かれ――ああもう! いくしかねえじゃねえか!!


 これこそが攻略への道だと、信じるしかねえ!!



 ―― ――


 壁に背を預け、男が呟いた。


「ここは別名・『絶対に攻略できない最強ダンジョン』って呼ばれてる――っつうのは分かってただろ……お前ら人間が決めたことじゃねえか。

 なのにそれを忘れて攻略本を信じる? おかしな話だな。

 攻略本に頼るから攻略できねえんだよ。内容が合っているわけねえじゃん。俺はそうやって誘導する役目を担ってるんだぜ? ……ここは疑うヤツが進める世界だ。

 ……素直なヤツは生き残れないダンジョン――。

 ちなみに爆発までは残り二年だ。他のダンジョンも同様に、近い年数だぜ?

 適材適所、だ。

 ダンジョンの性質を見抜いて、それに合った人材を送り込まねえと、優秀な人間が次々と死んでいき、人材不足になるぜ――そうなれば世界はあっという間に消える……大爆発で、だ」


 白髪交じりの黒髪の男が、手の中の冊子をぺらぺらとめくりながら……、


「翼王族を差別している場合かね。今、世界はダンジョンに喰われようとしている……、のん気なもんだ人間ども。

 俺たち【化身】は誰を助けようとしているのか、考えてみるべきだな――」


 そして、新たな人間がダンジョンに辿り着いた。


「よお、処理班か? こんなものがあるんだが、買っていかねえか?」


「そんな胡散臭いボロボロの冊子を買うバカがいるわけないだろ――どけ」


「攻略本だぜ?」


「攻略本? 尚更いらねえな。自分の目で見たことしか信じねえよ。視線を前と下に移動させている時点で注意力が散漫になる。死亡率を上げてどうすんだ――オレには必要ねえ。

 それによお、その中身に書いてあることが事実であれ、そうでなかったところで、他人の意見に流されて決める選択を、オレは認めねえんだよ」


「そうか……なら、頑張って自力で攻略するんだな」


 そう、それが正解である……、

 白髪交じりの黒髪の男がふっと笑い。


 強気な彼の背中を追いかける少女へ、目線を移す。

 その少女は冊子を欲しそうに見ていたが、それは事前に情報を仕入れるくらいならいいかも、と言った程度である。冊子と景色を見比べるような攻略方法は、死を早めるだけ、ということには賛成の様子だった。


 新たな処理班の二人がダンジョン内部へ消えていく。


 さっきの二人よりは期待が高まるが……しかし。


「別に嘘の情報で誘導しなくとも、普通に難しいからな――死ぬなよ、人間ども」




 世界爆殺まで、残り――約二年。


 ダンジョン数は、まだ三つもある。

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