第18話 高台にある絶景の中で
王都からはずいぶんと離れた場所に連れてこられた。
少し山を登っていたようで、王都全体を見渡すこともできる。
その上、人の気配もほとんどなく、静かな場所だ。
「ここから王都がよく見えるだろう?」
「そうですね」
「上空には素晴らしい結界もはっきりとよく見える。改めて見ると、イデアの作った結界が物凄いものだとよくわかる……。今日はイデアの結界だけ展開されて他の聖女たちは特訓に明け暮れているのだろう?」
「はい……。そうですけれど、あまり私だけを褒めないでくださいね。マリアたちもいてくれるからこそ、私の聖なる力も無理なく使えるのでこれだけ維持できるわけですから」
「そうか。キミは他の聖女たちのことも大事に思ってくれているのだな」
そう言いながらクラフト陛下は満足したような感じで微笑んでくる。
静かな雰囲気も加わっていて、とてつもなく良いムードに思ってしまう。
だが、そういう関係ではない。
私は恋に対する欲望をなんとかセーブして、聖女として冷静に話すことにした。
「クラフト陛下のおかげで、体力もだいぶ回復できました。休むというのがどれだけ大事なことなのか、よくわかりました」
「むしろ、そんなことを教えてももらえないような環境にいたとは……。どうりで最近ブラークメリル王国からの移民者が急増しているわけだ……」
「知りませんでした」
「この勢いはそれだけではないような気もする。もしかしたら、国中の人間がここへやってきているのではないかというくらいの勢いだよ」
ロブリーの政策が無茶すぎて嫌気がさしたのかもしれない。
しかも結界もない状態だろうし、いつモンスターに発見されてもおかしくない状態だ。
毎日怯えて暮らすくらいならどこかへ避難した方が無難だというのも容易に想像できる。
「それとは別として、イデアよ。今日ここに連れてきたのは理由がある」
「はい……?」
「イデアは元々ブラークメリル王国の人間だし、ここがどういう場所か知らないだろう」
「そうですね。綺麗で静かで居心地はいいなぁとは思いましたけれど」
「ここは、民衆の間ではプロポーズをする場所として有名なのだ」
「はい!?」
プロポーズするような神聖な場所に私を連れてきて何の意味があるのだろうか。
まさかではないが、将来私がここへ来たときの相手に失礼のないようわざわざ教えてくださったとも思えない。
かと言って、クラフト陛下という立場のお方が、私のような他国からきたばかりの人間にプロポーズをするなんてことも考えられないのだ。
「イデアよ、きみの周りに気遣う優しさがいい。さらに、私に対しても欲望に溺れるようなこともなく接してくれた者は初めてで嬉しかった……」
「なにを言っているのです……?」
「つまり、イデアよ。キミが欲しい」
「へ!?」
「聖女としてではない。ありのままのイデアを私のそばに置いておきたいのだ」
まさかのプロポーズをされてしまった。
私としては断る理由など全くない。
しかも聖女としてではなく、別のところで認めてくださったことがとても嬉しかった。
「ありがとうございます……」
「受け入れてくれるのか?」
「正直、まだクラフト陛下のことはよくわかっていません。ですが、今このような場所まで連れてきてくださった上にそんなことを言われて、とても嬉しいです。これからクラフト陛下のことをよく知っていきたいと思っております」
「ありがとう! 急ですまない。だが、そうでもしないとイデアが別の男に奪われてしまうのではないかと心配でな……」
「私、そんなにモテませんからね……」
「それはブラークメリルにいた頃の話だろう? この国でキミの魅力に気がつく者は大勢いるだろうし」
ブラークメリル王国では基本的に王宮から外へは滅多にでることはなかった。
出会いという機会がとにかく少ない。
誰かと恋に落ちることもなく、聖女勤務だけで一生を終えてしまうんだろうなと考えていたくらいだ。
だが、クラフト陛下がそんなことを言ってくださるのだから、私はますますクラフト陛下にドキドキしてしまう。
気がついたら陛下の腕にギュッとしがみついていた。
「私は幸せ者かもしれんな……」
「いえ、私も今幸せです」
私たち二人の時間はこのまましばらく止まって欲しいと思うくらい貴重で嬉しいものだった。
だが、こういうときに限って珍しい事が起きるもんだ。
「おや……、あれはモンスターではないか?」
クラフト陛下が上空を指差す。
私も指のほうへと視線を向けると、珍しい光景を目撃したのだった。
「あぁ……。しかも滅多に見ることもできないレッドドラゴンですね」
ドラゴンとは王宮と同じくらい大きいため、かなり遠くからでもよく見える。
結界の外側から光線のようなものを放っているが、結界によって全てかき消されている。
さらに、ドラゴンが体当たりのようなことをしているようにも見えるが、結界さえあれば国に侵入することはできない。
そのための結界なのだから。
「こんなにレアな光景を安心しながら観れるとはな。しかも、ドラゴンの攻撃を軽々と防いでしまう結界をたった一人で作っているなんて……」
「いえいえ、むしろ元気にさせてくれたおかげでもありますよ。クラフト陛下や仲間の聖女たちに感謝ですね」
「そう言ってくれるとこちらとしても嬉しい」
安心しながらレッドドラゴンを見学していた。
諦めたようで、レッドドラゴンは飛んでいってしまった。
しかも、向った方角はブラークメリル王国だ。
嫌な予感しかしない。
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