第17話 休暇の使いかた

 ホワイトラブリー王国へ来てから職業『聖女』に就いた。

 そして今日は初めての休暇である。

 ところで、休暇ってなにをすればいいのだろうか。


 今まで働くことしかしてこなかった私にとっては、なにもしなくていい日はなにをしたらいいのかよくわからない。

 ひとまず、今後王宮で迷わないように散策をしてみる。


「イデアよ、今日は休みだったな?」

「あ、クラフト陛下。お疲れさまです」

「普段は堅いあいさつはしなくともよいぞ。ところで、なにかしていたところか?」


「はい。なにをしたらいいのかわからなかったので、ひとまず王宮内を散策してました。仕事中に迷うことが無いようにしたくて」

「それも仕事ではないか……。休暇とは仕事のことは忘れて好きなことをしてくれて構わないのだよ?」


 クラフト陛下は軽々とそんなことを言うが、私の社畜生活だったころのルーティンはそう簡単に消せるものではない。


 ブラークメリル王国のころと違うことといえば、仕事をイヤイヤやっているわけではない。

 むしろ楽しくなっている。

 だから楽しく仕事ができるように、あらかじめ下準備を整えているのかもしれない。


 このことをクラフト陛下に詳しく話した。


「そうか……。気持ちは大変嬉しい。だが、休むときは休んだほうがいい」

「先ほども言いましたが、なにをすればいいのかがわからなくて……」

「よし。私が人肌脱ぐとしよう」

「はい?」


 気持ちは大変嬉しい。

 だが国王ってそんなに自由気ままに行動していいものなのか?


「さぁ、きたまえきたまえ」

「え……あの……?」


 段取りが非常にスムーズだ。

 まるで、最初から私と行動するつもりで動いているかのようだ。


 一体クラフト陛下は私をどこへ連れて行ってくださるのだろう。



 護衛や警備が周りにたくさんいる中、馬車に乗って街へ案内された。


「まだ王宮以外を散策したことはなかったのだろう?」

「はい。そうですが」

「美味しい店に案内しようと思っている」

「クラフト陛下自らですか!?」

「そうだ」


 これは間違いなく事前に計画していたものに違いない。

 国王という立場の人間が容易に街に出歩いたりしないだろうし、そもそも国務はどうしたんだ?

 きっと、私のことを気遣ってくださり事前に打ち合わせをしていて、王宮内で偶然会ったと見せかけて私のことを気遣ってくださっている。

 そう私は確信した。


「ありがとうございます! とっても嬉しいです」

「そうか。私も普段よく行く店で馴染みのある場所なのだ。楽しみにしててくれたまえ」


 私は嘘はついていない。

 行為自体はとても嬉しいし、ありがたい。

 同時に街のことも少しは知っていけるだろう。


「ここだ」

「は、はい……」


 案内された店は、王族が通う店というイメージとは少し違うような、予想外の感じだった。

 こじんまりとした感じで全部で六人分の椅子しか設置されていない。

 店主も一人だけで切り盛りしているような雰囲気だ。

 クラフト国王が紹介してくれるお店なのだしさぞかし美味しいお店なのだろう。


「美味しい……!!」

「そうだろう。ここが一番美味しい店だと個人的には思っているからな」


 クラフト陛下に対して驚いた。

 広い王都の中でよくこんなに素晴らしい店を見つけたものだ。


「満足してくれたか?」

「え……えぇまぁ。それよりも驚いたというか意外です。本当に美味しかったです。どうやってこのお店を?」

「簡単なことだ。王都にある店は全て自分の足で入ってチェックしてある」

「クラフト陛下自らですか?」

「そうだ。自ら回ることで国の情報を確認することができるからな。……ということを建前としてだな、美味しいものを巡るのが私の趣味なのだよ」


 ニコリと微笑む表情がカッコ良すぎる。

 私は、ブラークメリル王国にいた頃は忙しすぎて街を回るなんてことがほとんどできなかった。

 比較的自由に回れて、しかも美味しい店を色々と知っているのだから、クラフト陛下に対して興味が出てしまったことは言うまでもない。


「このあと、もう一箇所連れて行きたい場所がある……」

「美味しいお店に案内してくださるのは大変嬉しいことではありますが、二軒目は私のお腹がさすがに……」

「いや、このあとは食べる場所ではない……」

「失礼しました!」


 とんだ勘違いだ。

 クラフト陛下が行きたい場所へなら、どこへでもついていきますとも。

 まだ短い付き合いではあるが、完全にクラフト陛下のことに惚れてしまっている。


 だが、釣り合うわけもない。

 ここへ連れてきてくださった理由も、おそらくはこれから聖女としての活動を期待してくれているためご褒美的なものだろう。

 私は絶対に勘違いをするんじゃないぞと自分に言い聞かせておいた。


 ご飯を食べたあと、再び馬車に乗って移動した。

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