第7話【クラフト国王サイド】兄弟の乾杯
「ジオンよ……どう思った?」
「アメリは格好はともかく、一段と可愛くなっていたな」
「違うわ!! イデアのことだ」
時は少し戻り、イデアが倒れて医務室へ運んで手当てをした日の夜。
アメリがしばらく滞在してもらう客室へジオンが案内したあと、クラフト国王とジオンの兄弟対談が始まった。
この時間が完全プライベートとなり、お互いに和気藹々と雑談をするのが日課である。
だが、この日に関してはクラフトは真剣だった。
「わかってるって。聖女なのに貧民街の者たちでも着ないような汚れた服装だし、身体もそうとうに痩せこけていたな。アメリが紹介してくれなかったら門前払いしてしまっただろう……」
「うむ、無理もない。噂に聞くブラークメリル王国の聖女とは全くの別人だったし……」
「アメリも信じられんようなボロボロの服装だった。少なくとも、アメリは優秀な御者だし使用人、護衛としても使える万能な人間だと同行していた大臣たちが言っていたではないか。一体ブラークメリル王国ではなにがあったのか兄上は知っているのか!? 」
ジオンはアメリの見た目の変貌を見て、戸惑いを隠せないでいた。
王宮の門でアメリを見たとき、本人かどうか一度疑ってしまったくらいだったのだ。
「詳しくは知らぬが、ロブリーと対談した日からなにかがあったことは間違いない。現にあのときの対談ですら、ブラークメリル王国の未来が心配になってしまうほどよくわからない発言をロブリーが繰り返していた……」
「全く……。苦しいのはホワイトラブリー王国だけにしとけっつうんだよ。長い年月かけて築き上げてきた世界最高峰の王国の王にはふさわしくないとは思ってしまうがな」
兄弟揃って大きくため息を吐いた。
ブラークメリル王国が逆境をむかえてしまうとホワイトラブリー王国にも悪影響がでてしまうのではないかと察していたからである。
二人は一旦ワインを飲み、一息ついた。
「実際のところイデアが聖女なのかどうか、力を見ているわけではないから確信は持てないのが現状だ。だが……」
「それにしても兄上は、力そのものを見てもいないのに、よく聖女をしないかと声をかけたよな。俺も驚いたよ」
「あぁ……。国王としての行為としては甘いかもしれないがな。だが、あの子が嘘をつくような雰囲気が微塵にも感じられなかった」
「弱々しく感じたが、真っ直ぐ前を向いているような感じだったもんな……」
二人はそれぞれイデアが意識を持っていた顔を思い出す。
ジオンは本当に聖女だったのなら今後に期待を抱き、クラフトはイデアのことを不思議な女の子という意識を持っていた。
「医師はイデアの意識はもう回復は見込めないと言っていたが、なんとしてでも目を覚ますように祈ろう」
「兄上がそこまで真剣になるのはまだあの時の記憶を……?」
「その話はしなくともよい。仮に目が覚めたら彼女の回復を最優先させる」
クラフトが普段の人助けをするときよりも必死だということがジオンに伝わってきていた。
ふと、ジオンはそういうことだったのかと確信に迫った。
「はいはい。兄上がそういうならば、俺も手を引くよ」
「お前にはアメリがいるだろう? って、そもそも私はそういうつもりでは……」
「いいからいいから! 兄上がするべきことは、とにかくイデアが目を覚ますことを祈ることだな」
ジオンにとっても、イデアはなんとか目覚めてくれないものだろうかと内面では必死である。
クラフトが大事にしてきた人間をこれ以上失わせたくない。
そう願いながら。
「く……ブラークメリル王国の有能な医療技術さえあれば……」
「まぁ気持ちはわかるけどよ、向こうの技術や医療に頼ってもしゃーないさ。この音声記録する魔道具だって、権限はあっちの国にあるんだし。こっちで販売したくてもできねーんだしさ。自国でできることをやっていくしか……」
「はぁ。ブラークメリル王国は素晴らしい国だがなににおいても独占し、その上妙に節約しようとする」
他国の文句を言っても仕方がないことくらいはお互いに理解はしている。
だが、イデアやアメリの状況を把握し、ブラークメリル王国への怒りで今回ばかりは文句を口にしていたのだった。
「どんなに優れていても、俺はあの国で暮らしたいとは思わねーけどな。貧乏国家でも、無理なくのんびり暮らせるこっちで生まれて俺はホッとしている」
「貧乏国家は余計だがな。せめて民たちだけでも貧しさから開放してあげたいものだな……」
「ま、なるようにしかならんさ」
二人は節約のため、二杯目は水で乾杯をして夜を過ごしていく。
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