秋の夜長の恋愛小説
いざよい ふたばりー
case 1 新しい自殺の方法
この方法は誰にも迷惑をかけず、お手軽で、悲しむ人もおらず、むしろ誰かの励みにもなるかも知れない、とても安全な方法である。
それをここに書き記す。
昨日までの天気は知らん顔の、とても晴れた日の事。
ただし僕の心の中はそうはいかず、激しい大粒の雨が降り続けていた。
僕は物書きを生業とし日々を過ごしている。
でも最近、とても辛いことがあった。
たぶん大多数の人が一度は体験するであろう事。
そう、失恋だ。
長年の片想いは実らず、ついには花を咲かせる前に枯れてしまった。
僕の心の中を投影したかの様に、その日から大雨が続き、僕の気持ちを雨水の底に沈めた。
気分が底の底まで沈み、鬱々としてきていたからかな。もうこれは死ぬしかないと、そう思って色々思案していた。
自殺の方法を。
あれはどうだ、これはどうだ。うーん、やっぱりダメだ。
失恋の悲しみで夜はなかなか眠れぬため、寝不足の日々が続き、ぼやけた頭で今日の朝、外の穏やかな晴れた空を眺めていたらふと閃いた。
こんな方法はどの人生の手引き書にも書いてないだろう。いや、僕が思いつくくらいだからどこかには書いてあるのかも知れないが、僕は見たことがなかった。
また、いろんな対処法を調べたりもしたがお目にかかった事はない。
であればだ。僕が発明した方法だと言っても差支えはないはずだ。
僕は、いや、大勢の人がそうであるだろう。
僕も御多分に洩れず自分の命を自分で終わらせる度胸はない。
しかし、心がガックリ来て、もうソレしか道がないのならその方法を選ぶだろう。昨日までの僕だね。
でも、今日の澄み渡る青空を仰ぎ、やっちゃおうかなあ、でも怖いなあ、痛いのや苦しいの苦手なんだよなあなどと考えながらも仕事の事を考えていた。
それでピンと来た。
この方法でなら簡単に自殺もできるし、後始末もいらないから誰にも迷惑もかからず、万が一僕の死を悲しむ人がいたとしてもこれなら何も思うまい。
それどころか気づきもしないだろう。
僕はそれを実行し、それは誰にも悟られなかったら他の苦しんでいる人にも教えてあげよう。
そう、それはお話として書き記すこと。
自分の心の一部を文章に移し、その中の主人公を首吊りでもいい、睡眠薬でもいい、飛び降りでもなんでもいいから自殺させること。
そうすれば悲しい心は死んで、残ったのは元気な僕の体というわけ。
ね、簡単で、誰にも迷惑をかけず、主人公を天涯孤独としたらば悲しむ人もいない。
安心安全な自殺でしょ。
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