6 佳奈の行く先
納得なんて誰もが出来るわけじゃない。
恋愛ならなおさらだと思う。
一人でするものではないから。
まだ何か言いたげな哉太に、
「今度は素敵な恋をしてね」
と手を差し出す。
おずおずと差し出された彼の手。
きっと再会すれば、やり直せると思っていたのだろう。
──無理なんだ。ごめんね。
佳奈は元々アセクシャル。
つまり他人に性欲を向けない性志向。
これは先天性のものであり、後天的なものではない。
もちろん性被害などで他人と交わることを嫌悪する人もいると思う。
もし違いがあるとするならば、アセクシャルの人間は他人に対し性愛を向けないため、関心を持ち辛いということ。
そんな佳奈でも大好きな人はいた。
兄と弟だ。彼らは兄弟だからこそ、自分に性愛を向けることのない安心できる存在だった。
しかし、兄が大学を卒業と共に家を出て恋人と暮らし始めると、心のバランスが崩れ始める。兄が自分にとってどれほど大きな存在だったのかに気づく。
だが全く家に寄り付かないということはなく、たまに話せるだけでも安らぎを感じていた。
大学四年になると、三つ下の弟が同じく大学生に。
家を出て友人と暮らすという話を聞き、佳奈はどうしていいのか分からなくなっていた。
父も母も忙しく、一人で夕飯を取るようになると寂しさが募り始める。
毎日賑やかだっただけに、世界に独りぼっちになったような気がした。
そんな時に
趣味の話で盛り上がれば、兄弟といた頃の楽しさが蘇る。しかし自分は所詮当て馬でしかなかった。
就職と共に家を出ると決めた日。
父母にそのことを話すと、衝撃の事実を告げられた。
自分は雛本一族の人間であることは間違いないが、兄と弟とは本当の兄弟ではないという。
兄への気持ちがおかしなものではなかったと自分を認めることはできたものの、この想いはもう叶わないことを知った。
一志と付き合えば、変わる。そう思っていた。
けれど彼が自分にくれたものは、性暴行と束縛だけ。
──そんな中で、
変わらないで欲しかった。
あなたも一志のようになるのではと、怖くてたまらなかったの。
友人から佳奈の兄弟に連絡がいった時、すでに二人は自分と本当の兄弟でないことを知っていた。父母が話したらしい。
知ったことで今まで佳奈が一人で苦しんでいたと感じ、話したのだという。
弟は、
『別に血ぐらい繋がっていようが、いまいがお姉ちゃんに変わりないでしょ? それとも今日からお兄ちゃんなの?』
と言い。
兄は、
『俺と暮らそうか』
と手を差し伸べてくれた。
彼女のいるところになんていけないと断れば、
『いつの話しだよ』
と笑われたのだ。
叶わなくても、この想いをいつか兄に伝えようと思う。
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