3・想定外の遭遇

 哉太かなたは膝を抱え、人のまばらな海岸を眺めていた。ここに来ると思い出す、あの日の記憶。

 やはり自分は後悔しているのだと、改めて思う。


───もしあの時、もっと佳奈のことを考えてあげられていたなら。


 今さら後悔したところで何も変わりはしない。

 居るはずのない人を、こんなところまで探しに来てしまったのだから。

 哉太はポケットからBluetoothを取り出すと、ケースの蓋を開け、耳に嵌めた。


 変わったことと言えば、洋楽を聴くようになったことくらいか。

 スマホを操作し、音楽を再生する。別段好きと言うわけでもない。彼女が聴いていた曲だからだ。

 砂浜を眺め、考え事をしていると数人が脇を通り抜ける。

 哉太は会えるかどうかも分からない彼女にここで再会できたなら、何と声をかけようか悩んでいた。


───さりげなく、久しぶりと声をかけるのが妥当だろうな。


 ここへ来て、少し気持ちに変化が起きている。

 佳奈とどうなりたいか、曖昧だった気持ちが固まったのだ。もう一度初めからやり直したい。それが自分の本心だ。

 今度こそ、対等な恋愛をしたい。例え承諾されることが無くても、気持ちだけは伝えたいと思っていた。


「ん?なんだ?」


 不意に浜辺の方が騒がしくなる。

 哉太は何事かと思い、顔をあげた。

 逆光で良く見えないが、身長やシルエットから女性と想定できる二人に対し、男性が何か言っているようである。

 さっきまで、そんな組み合わせの客はいなかったように思えた。


───横を通り過ぎた人たちだろうか?


 哉太は学生時代にやんちゃをしていたこともあり、喧嘩には自信がある。

 もし、男が女性に手を挙げるようなことがあれば、止めようと思い立ち上がった。

 歩きながらBluetoothをウエストポーチにしまい、両手を使える体制にする。しかし、近づいてみて驚いた。


───なんでアイツがここに⁈


 そこには逢いたかった人と、逢いたくなかった人が居る。

 どうやら揉めているようだ。

 まだ付き合っていたのかと思うと複雑な気持ちになる。


「なあ、佳奈。俺にはお前しかいないんだよ」

 しかし、どうやらそうではなさそうだ。

「気持ち悪い! こっちに来ないで」

 ゆっくりと近づく一志。後ずさる、佳奈。

 佳奈の傍にいるのは、彼女の友人のようだ。

 一度だけ街中でばったり出会い、紹介された記憶があった。


「なんでだよ。俺たち上手くいってたじゃないか」

「上手くなんていってない。わたしが我慢してただけ。うんざりなのよ。もう、近づかないで!」

「佳奈!」

「いやああああああ!」

 さらに近づく一志。彼女は悲鳴をあげながら駆け出す。

 それを追いかけようとした彼の足を、友人が引っ掛ける。

「あら、あなた」

 そこで、佳奈の友人は哉太に気づいたのだった。

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