7・佳奈の友人

 佳奈は何も流されるままに流され、一志に屈したわけではない。

 無駄だと思いながらも、一応抵抗はしたのだ。


────所詮話を聞かないやつに、何言ったって無駄なんだよね。


「は?」

 佳奈には一志に出逢う前から一人、とても仲の良い友人がいた。

 本音で話すことはあっても、彼女は忙しく頻繁に会えるようなことはなかったが。


「彼氏出来たって言ってたけど、上手くいってるわけじゃなかったんだ」

「どう転んでも、上手くいきそうにはないわね。何せ言葉が通じないし」

と佳奈が深いため息をつくと、

「運命的な再会を果たしたって言ってたけど、外国の方?」

「いや、どっちかというと宇宙人」

「なにそれ、グローバル過ぎない?」

と友人が吹き出す。

「うーん、むしろ村って感じかな」

「村? 狩猟民族ってこと?」

 友人の中の一志像が段々とおかしくなっていく。

「上手に妬けた試しはないけど」

「ん? 黒焦げ?」

「まあ、あながち間違っちゃいない。飛び火もする」


 ”メンドクサイ男なのよ”といったところで、注文の品がテーブルに届く。

 二人は行きつけの喫茶店にいた。

 彼女と待ち合わせするときは大抵ここだ。珈琲メイン喫茶店だが軽食も出していて、中でも自家製ミートソースパスタが人気である。


「頭の中がお花畑なのよ。相手を美化してしまうというか」

「へーえ」

「好き好き煩いしさー」

「可愛いを連呼する女子みたいだね」

「それも言う」

 佳奈は、再びため息をつくとホッとサンドに手を伸ばした。

 チーズがとろりと滴り落ちそうなほど、たっぷり入っている。

「朝ご飯は?」

「まだだったの。一志が朝っぱらから電話してきて」

「大変ねえ」

 彼女が注文したのは、人気のショートケーキ。

 いちごがぎっしり詰まった写真映えするスイーツだ。

「電話、なんだって?」

「休日出勤の報告。別にどうでもいいし、勝手に行けばいいのに」


 SNS用に写真を撮る客が多い中、彼女はスマホに触れることすらしなかった。

「冷めてるわねえ」

と、彼女。

「熱かったことなんてないわ」

と返事をしながら、佳奈は彼女の手元を見つめる。

 その視線に気づいた彼女は、

「ん?どうかした?」

と不思議そうな顔をする。

「撮らないの?」

 以前の彼女なら、食べる前の写真を撮っていたはずだ。

 しかし彼女は、スマホに触れるどころか、カバンにしまったまま。


「んー。必要ないし」

「まあ、自分で作ったわけじゃないしね」

 彼女たちが写真を撮るのは、自分が注目を浴びたい心理が含まれるだろうが、店側からした良い宣伝になる。

 しかも、無料で。

 レビューが何故宣伝より重視されるかと言えば、自分で自分を宣伝するよりも他人に宣伝してもらったほうが信頼できるから。

 いうなれば、”自称素敵”はナルシストのように感じてしまうが、”あの人素敵”は人が注目しやすい。

「なんか最近、店の宣伝になるだけなのがしゃくだなって思ったの」

 彼女はケーキを口に運びながら。

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