第10話 アイテム作成
街で大量に糸巻きを仕入れて迷宮の事務室へと帰った日の翌日から、早速アリーナとラインハルトはレアアイテム「アリアドネの糸」を作りを始めた。
アリーナが魔法を使い、それをラインハルトの神通力で形代に込める。
最初の数日は、五個も作ればアリーナが魔力切れとなり、ラインハルトの神通力も枯渇する有様。
しかしめげずに二人で十日ほど作り続けた。
「いま出来上がった分、十個手元に残して、それ以外は入り口付近の宝箱に仕掛けたり、低級モンスターに持たせてくる」
数が溜まったところで、ラインハルトが迷宮の中に出ていくと言い出した。アリーナは同行しても足手まといになるだけだと留守番しようとしたが「そのまま迷宮を出て、街まで行こう」と誘われる。
「糸巻きも仕入れたいし、冒険者が集まる場所でレアアイテムの噂を流して来たい」
「たしかに……! この迷宮に、これまで世界のどこにもなかったアイテムが出現したことを、どうにかして冒険者の方に知ってもらわなければいけませんね」
「そうだ。いきなり大きな噂になってひとが押しかけてきても、生産が追いつかない。ただ、今よりほんの少しでも集客できれば、俺の神通力はそれに応じて強くなっていくから、作業がやりやすくなるはずだ」
ラインハルトはそこで話を終えようとしたが、アリーナは彼が何を考えたか、敏感に察した。神通力が強まっても、魔法はアリーナの領分。フォローしようと、口を開く。
「私も、以前より真剣に魔法に取り組んでいるおかげで、魔力が微量ですが増えているのを感じます。これからは一日十個、二十個と作っていけるようになるかもしれません」
ハハッとラインハルトは爽やかに声を立てて笑った。
「とても頼もしい。無理をさせたくはないが、できる範囲でぜひお願いしたい。君が元の世界に帰るまでの期間限定だとしても、このアイテムは多くの冒険者の助けになる」
特に含むところのない、当然のことを言っているだけという口ぶり。
(やっぱり……。私がいつか帰るのは、社長の中では決定事項。こんなにやり甲斐のある仕事初めてで、私はすごく楽しくなっていたけど。元の世界では珍しい魔法でもなんでもないから、この経験をもとに自分で一から会社を興すなんてこともできないし……)
こちらの世界で役に立てるなら、このまま残った方が自分のためにも良いのではないだろうか。
その思いはアリーナの中で日に日に大きくなりつつあったが、どうしてもラインハルトに言い出せないでいた。
必要とされているから残りたいと言っても、帰すつもりのラインハルトにとっては迷惑かもしれない。日頃、「働いているのだから、それに見合う対価を得るのは当然だ」と言って、食事をはじめとしたアイテムを何かと気前よくドロップしてくれるラインハルトだが、贅沢慣れしたアリーナが、それをあてこんで帰らないとごね始めた、などと思われたらいたたまれない。
(そんな方ではないと思うけど。そもそも私がこの場にいるのが、決して自然なことではないのよね。大丈夫とは言われているけど、この世界には無かった魔法を持ち込んだことが、将来的に世界のバランスを崩すことになりかねないとすれば、帰らないわけにはいかない)
そう思えばこそ、正直な気持ちは言えないし、悟られるわけにもいかない。
アリーナはくもった表情を見せないように、ラインハルトに精一杯の笑顔を向けて言った。
「街に行くの、楽しみです。美味しいものも食べたいです!」
「もちろんだ。この先、経営に余裕が出てきたら、他の土地の街や迷宮に視察に出かけるのもいいかもしれないな。世界は広いから……」
言いかけたラインハルトが、不自然なところで口をつぐむ。そんな先の話をすべきではないと、自戒したのかもしれない。
もしかしたら、ラインハルトも、自分に残ってほしいと考えているのではないか? そう思うこともあったが、やはりアリーナはそれを確かめることは、どうしてもできなかった。
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