第357話 塔のダンジョン攻略 6
九十七階層をノーラと聖女ティアのおかげで突破することができた。
ティアは、元々魔力が限界に来ていて、全員を守るために聖なる力を使いすぎた。魔力枯渇で意識を失ってしまった。
ノーラは逆に高濃度の魔力を吸収したことで、魔力過多に陥って、暴食の腕輪と共に眠りについた。
「ティアを一旦地上に戻す」
ボクはティアを迷宮都市ゴルゴンで待っていてくれるルビーに預けた。
暴食の腕輪を解放すれば、力になってくれるノーラを荷台に乗せて九十八階層に戻った。
残すはあと三つ。
最難関の九十九階層に向けて、ここはなんとしてでも戦力を減らすことなく突破しておきたい。
「九十八階層は何が待ち受けているというんですの?」
ボクを含めて戦闘ができるのは、アイリス、シーラス、ダン、オウキ。
ハヤセはサポーターとして考えるなら、五人で九十八階層を突破しなくてはいけない。
「最善を尽くすなら」
「問題ありませんの」
「えっ?」
「わたくしとリュークがいれば、どんな困難も問題ありませんの」
「そうですね。なんだかそんな気がします」
シーラスがアイリスの言葉に同調して、ダンとハヤセからはヤレヤレといった顔をされる。
二人の顔を見て、ボクは覚悟を決めることができた。
「そうだね。どんなことがあってもこの仲間なら」
「よし、扉を開けるぞ」
「待て、ダン」
「えっ?」
「ここは、ダンは休憩していてくれ」
「ここまでタンクとしての勤めを果たしてきたはずだ。俺を信用できないのか?」
ダンはここまでの活躍で、自分の力に自信を持ったようだ。
だが、この九十八階層のボスはダンとの相性が最悪だ。
聖属性が一切効果を発揮しない。
これまで、九十五階層は鏡。
これは己と向き合えという意味が込められており、己が発した力が何倍にもなって帰ってくるということを意味していた。
九十六階層のマグマは、火と出会ったことで人の発展がなされるという意味があり。
そして九十七階層は、闇。これは人が恐怖するものの総長として上げられている。
九十四階層が魔物による脅威だったのに対して、九十五階層からは人と関わりが深い物が増えていっている。
鏡、火、闇、と続き、より人が恐れ、塔のダンジョンが人を通さないために用意している。
「信用の問題じゃない。相性の問題だ」
「相性?」
「ああ、ここはダンやアイリスとの相性が悪い。だから、ボクとシーラスの二人でいく。タンクはバルニャンにしてもらう。突破するまでは絶対に入ってくるな」
ボクはダンとアイリスを真剣な目で説得した。
「あっ、ああ、わかった」
「わたくしもですの?」
「ああ、ノーラのことを頼む」
「仕方ないですの」
「アイリスには九十九階層を任せるつもりだ」
「役目があると言うことですの。わかりましたの」
アイリスとダンを下がらせて、見張りをハヤセとオウキに頼んだ。
ボクはシーラスの手を握って九十八階層に入っていく。
「何もいませんね」
九十八階層は、ある意味で心が大切な階層になる。
「いや、来たぞ」
そういって現れたのは、ボクにとっては最近まで出会ったばかりの熊だ。
「よう、ご主人様。こんな形で再開するとはな!」
「えっ? あれは? それにカー様?」
ボクの相手である怠惰な熊の横には、シーラスにそっくりなエルフの女性が現れる。
「ここは入って来た者の欲望とトラウマを出現させるんだ。ボクにとっては怠惰の化身である熊が、シーラスはお母さん?」
「はい。私が深淵を知るためのきっかけとなった人です」
目を閉じた美しい女性は、シーラスと同じ姿をしていながら、手には水晶を持っていた。
「大丈夫か?」
「ふふ、リューク」
シーラスはボクの問いかけに笑顔で返した。
「うん?」
「あなたが、私を選んでくれた理由がわかりました」
「すまない」
「いいえ、むしろ喜ばしいことです。すでに、私は母のトラウマを乗り越えました。ですが、欲望の化身と言うべきアイリス。未熟でトラウマの多いダン。確かに二人では、このフロアを突破することは難しいでしょうね」
アイリスのトラウマはわからないが、色欲はこのフロアでは最悪の結果を生むとしか思えない。
ダンのトラウマをボクは知らないが、もしも捉えられて戦闘にすらならないことも想定されてしまう。
このダンジョンを攻略する際に、ゲームでならそれぞれのキャラの苦手なボスキャラが登場する程度のフロアだ。
だが、ゲームの設定を思い出せばわかるのだが。
本来は、その人が持つ叶えたい欲望とトラウマを併せ持ったボスは脅威だと思えるのだ。そんなボスが出現したら、人によっては乗り越えることができないまま精神の沼にハマってしまう。
ボクにとってはこれから攻略したい相手の予行練習になる。
一方、シーラスにとってはすでに攻略した相手だ。
「ボクに力を貸してくれるかい?」
「ええ。もちろんです。私はリュークの妻ですから」
シーラスが張り切っているのが伝わってくる。
二人きりになると恥ずかしがりやな一面を出すシーラスは、それはそれで可愛いと思う。だが、こうして一緒に戦う相棒になれば頼もしさが伝わってくる。
この世界で一番の知識人はシーラスだとボクは思っている。
「まずは、母上から攻略しましょう」
「魔術師はサポートや支援系の力も使えるんだな」
「はい。母上は属性こそ違いますが、一つの魔法を極めた人です」
「一つの魔法?」
シーラスの言葉に応えるように、水晶が光を放ち部屋全体に瞳が浮く。
「なっ!」
「邪眼のカース。それがカー様の名前です。生まれながらに瞳を持たず、見たいと言う願望から魔力で瞳を作り出した。それはいつしか様々な能力を付与できるようになり《瞳》の属性魔法が後天的にカー様に宿ったことで、力の発動を促進しました」
いくつあるのかわからないが、大量の瞳がこちらを見ている。
「それぞれに魔力が付与されて、効果を発揮します。気をつけてくださいね。リューク」
どう気をつけるのかわからないが、どうやら厄介な相手であることはわかっている。
ボクの相手である熊はニヤニヤした顔で、こちらを伺っていた。
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