第332話 いざ 塔のダンジョン 4
ノーラが目覚めて飛び立っていった光景は、本来のノーラを表しているようだった。
大人向け恋愛戦略シミュレーションゲーム内で、最強と言われたキャラは、その力を暴走させて本来の強さを披露する。
真っ黒な着物を着ているノーラは、いつもは頭を結い上げて簪で止めている。
だが、今のノーラは長い黒髪を下ろして、振り乱すように堕天使を殴り飛ばす。
狂気とも言えるが、彼女本来の美しさを表しているようにも思えた。
「おっ、おい! あれはなんだ! ノーラ・ゴルゴン・ゴードン先輩だよな?」
「そうっすね。あれはゴードン先輩っす」
ダンとハヤセが、ノーラの戦いっぷりに驚きながら、ボクの元へ質問を投げかけてくる。
堕天使の異常再生能力を上回る打撃で、ノーラは堕天使をボコボコにしている。
「ああ、ノーラに間違いない」
「おいおい! ここは九十階層だぞ! 俺やオウキが二人かかりで戦うのがやっとな相手なんだぞ」
「それがどうした? 九十階層は次元が違うと言ったのは、ダン。お前だろ?」
「いや! だからおかしいだろ! なんで圧倒してるんだよ!」
本来のノーラならば、これぐらいできて当然だ。
強すぎるが故に誰にも受け入れてもらえなかった少女、それがノーラだ。
闇落ちしたダンが唯一の理解者になるが、今のダンはサブシナリオに突入してハヤセを選んだ。
ノーラは、ボクと接触したことで、本を知り、教養と知識を得た。
ダンとノーラの運命は交差することなく、互いの道は動き出している。
「それがノーラ・ゴルゴン・ゴードンが本来持つ力だからだ」
「どう言うことだよ」
ボクの説明が理解できなかったのか、ダンが頭を抱える。
「ダン、もう考えるな。見たままを信じろ」
説明はやめだ。そろそろ堕天使の再生能力が追いついていない。
「ダン、ついてきたのなら準備をしろ」
「えっ? 準備」
ボクはシーラスとオウキに目配せをする。
オウキは最終手段だ。
シーラスには回復役に回ってもらう。
「うぉおおおお!!!!!!!」
巨大な闇が生まれて、堕天使が闇に飲み込まれた。
ノーラの属性魔法も最大化されている。
「あれに対抗しないといけないのか」
大罪魔法ではない。
自然系最大最強の威力を見せただけだ。
「おいおい、マジかよ。最強じゃねぇか」
「当たり前だ。ボクの嫁だぞ」
「はっ? 姫様は?」
ここまで来てもボクの正体に気づいていないダンに呆れてしまう。
「ハヤセ、面白いから何も言うなよ」
「もちろんっす。これがダン先輩の良いところっす」
「ふふ、お前らはラブラブだな」
「はいっす」
ハヤセはこの状況でも、親指を立てる余裕を見せる。
ダンを選んだだけのことはある良い女だ。
「来るぞ!」
髪を振り乱して、着物を着崩したノーラの両手から闇の爪を作り出し、闇の翼を生やして叫び声をあげてこちらに向かってくる。
「くそっ! バル! 後でちゃんと説明しろよ!」
ダンは絆の聖剣を構えてノーラを迎えた。
ハヤセが放つダーツによってダンの出力が増して、ノーラの猛攻を跳ね返した。
さすが主人公だな。
最強キャラに対抗できるだけの力を持っている。
「ヤベー!!! 今まで出会ってきた誰よりも強い!」
「そうか。だが、お前はそれを一度でも跳ね返したんだ。自信を持てよ」
一度跳ね返した程度で、ノーラの攻撃が止むわけじゃない。
だが、ダンは堕天使が圧倒されたノーラの攻撃を受けるに足る人物に成長を遂げている。
「うるせぇよ!」
ノーラは高い天井から急降下するように、ダンを獲物として定めた。
ボクはノーラを寝かせるためにオートスリープを発動しているが、ボクの攻撃よりもノーラの動きの方が早い。
それに一本が当たった程度では、今のノーラを止めることはできない。
アカリに作ってもらった特殊弾を使って魔弾を放っているが、ダンと肉薄した状況でも当てるのは至難の技だ。
「状況が悪いっす」
「ああ、どれだけの出力を秘めているのかわからない。だが、今はダンの体力に賭けることにする」
「グハッ!」
ダンが壁際まで吹き飛ばされる。
絆の聖剣のおかげで死ぬことはないだろう。
だが、三度目で押し負けて壁へと吹き飛ばされた。
ダンに興味を失ったノーラが、ボクらへ視線を向ける。
「ハヤセ、回復魔法が使えるなら、ダンの元に行ってやれ」
「バル様はどうするっすか?」
「決まっている。妻を受け止めるのは本来夫の役目だ。ダンがついてくると言うので肉壁に使わせてもらったに過ぎない」
「辛辣っすね」
「悪いか?」
「何も悪くないっす。バル様の肉壁に選んでもらえるダン先輩が誇らしいっす」
「だろ」
ハヤセとの会話を終えて、ボクはノーラを見る。
「さぁ、ノーラ。本番を始めよう」
ボクはバルを全身装甲に変えてノーラと相対する。
「塔のダンジョンは、ボクとの相性が良いようだ。魔力が潤沢に吸い込める。体力も無限に溢れてくるよ。だけど、全てが終わったらノーラの膝でゆっくり寝かせてくれよ」
「うおおおおおおーーー!!!!!」
ボクは二丁ある魔導銃をシーラスとハヤセに渡した。
暴走するノーラをバルの装甲と自部自身の体術と魔法で迎える。
「ノーラ、君が望んでいた本気の戦いをしよう」
全身に《怠惰》の大罪魔力を纏ってノーラに激突する。
闇は、自然系属性魔法最強と言われいる。
闇は、全てを飲み込み。
闇は、そこに無を生み出す。
「《怠惰》よ」
ボクから生み出された紫の魔力が、ノーラが生み出した闇の魔力とぶつかり合う。
堕天使やダンには打撃攻撃でぶつかり合い。
魔法が得意なボクには魔法で対抗する。
「面白いじゃないか! やってやるよ!」
ボクは全力で魔法を放ちながら、魔力呼吸で周囲の魔力を吸収していく。
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