第327話 頼れる妻たち
ノーラの元で寝てしまったボクは朝から、動き出すことにした。
本当は本に囲まれて悠々とした迷宮都市生活を送るつもりだったのに、とんだ誤算が生まれてしまった。
ボクの怠惰な日々を奪った奴には絶対に報復してやる。
「ミリル、点滴と体力維持をお願いできるか?」
ノーラを塔のダンジョンに連れて行く前に、ボクはいくつか手を打っておく。
そのためにミリル、ルビー、シーラスにはノーラの延命処置を頼むことにした。
「点滴ですか?」
「ああ、今のノーラは食事が取れない。だけど、食べなければ生命維持は難しくなる。そこで点滴することで栄養を血液に打ち込んでほしい」
「なるほど! それなら多少は栄養が取れますね。用意します」
ミリルはアカリに作ってもらった医療器具を持ち歩いている。
ボクが知り得る医療道具の知識も提供しているので、点滴は中身が作れれば機材はあるはずだ。
「ルビーは、職人たちに点滴に必要な機材の発注を頼む。ミリルが道具を持ってきていたが数が足りないだろうからな」
「わかったにゃ」
数名の職人をノーラの名前を動かせば、今度の迷宮都市の発展にも役立つはずだ。
「シーラスは、回復魔法をかけ続けてくれ。ノーラ自身で魔力吸収の呼吸法をしているが、筋肉の再生が追いついていない。回復魔法をかけて筋肉の活性化をしてやってほしい」
「わかったわ」
シーラスにも魔力吸収の呼吸法は伝えてある。
魔力枯渇になることはないだろう。
三人に指示を出すと、ボクはヒナタとクウを見た。
「二人は三人のサポートを頼む」
「わっ、わかりました」
「主人様は、どうされるのですか?」
「ボクはエリーナたちに会いに行ってくる」
「エリーナ様に?」
「ああ、クロマに調べて欲しいことがあるからな。エリーナにも協力してもらうつもりだ」
「かしこまりました。ノーラ様の従者様方には昨日のうちに伝えてあります」
「ありがとう」
ボクは指示を出し終えて、もう一度ノーラを見た。
「ノーラ、少しだけ出かけてくるよ」
そっと口付けをして、ボクは屋敷を出た。
聖女ティアやアイリス姉さんも来ていることから、今回は全身を隠す衣装でバルに覆い被さってもらう。
街中は昨日の爆発で騒がしくあったが、ボクとしては目立たないで歩けるのでありがたい。
ふと、現場近くを通りかかると、アイリス姉さんの姿が見えた。
現場検証でもしているのだろうか? アイリス姉さんは、陣頭指揮をとって今回の事件を解明しようとしている。
どこにいても目立つ人だから、すぐに目に入ってしまうね。
ふと、一人の男がボクのことを捉えていた。
「ディアスポラ・グフ・アクージか、アイリス姉さんもよくアクージ家を側に置いてられるものだ」
ボクは視線に気づかないフリをして通り過ぎた。
エリーナたちが泊まっているホテルへとたどり着いて、スイートルームへと足を向ける。スリープが使えるボクを阻める者はいない。
「貴様! ここで何をしている」
そんなボクの行動に抵抗を見せた者が廊下でボクの道を塞いだ。
「ダンか、久しぶりだな」
「何? 貴様のような仮装をした奴は知らない!」
「ボクだ」
ホテルの中に入ったので、ボクはバルニャンを仮面だけにして、ダンがよく知っているスタイルに姿を変える。
「お前はバル? どうしてここにお前がいるんだ? お前は姫様の側に」
「リンシャン様の依頼だ。エリーナ王女に話がある。通してもらうぞ」
「待て、このような状況だ。確認が取れていないお前を通すわけにはいかない」
「何?」
急いでいる際に、こいつの邪魔はあまりにも鬱陶しい。
「邪魔をするなら殺すぞ」
「死んでも通さないぞ」
「何事?」
ダンの後ろから今年の剣帝であるフリーが姿を見せる。背中にある大剣に手をかけている。
「誰?」
「……ボクの名はバル。エリーナ王女に話をするために来たと伝えてくれ」
フリーがチラリと、ボクとダンを見て剣から手を離す。
「わかった。待ってて」
「おい! 信用していいのか!?」
「変態より、マシ。それに物凄く強い。二人でも勝てるかわからない」
どうやらフリーがまともに話を聞いてくれたようだ。
「ちっ」
「ダン、お前にも頼みたい仕事がある」
「何? 俺に?」
「ああ、後でな」
ボクは戻ってきたフリーに招かれて、エリーナの部屋へと入る。
「フリー、少しだけ部屋の外に出ていてくれるかしら?」
「大丈夫? あなたたちだけでは、この人に勝てないよ」
「大丈夫だから、信じて頂戴」
この場でボクを止められるのは自分だと言いたそうに、フリーがじっとエリーナを見る。
だが、エリーナの意志は変わらない。
「わかった。何かあったらすぐに呼んで」
フリーは部屋を出て行った。
「リューク!」
フリーが扉を閉めて足音が離れると、エリーナがボクの胸へと飛び込んできた。
「久しぶりだな」
「ええ、ずっと会いたかったわ。今回の爆発、リュークが絡んでいるの?」
「いいや、ボクじゃない。だけど、犯人はボクを怒らせた」
「ひっ!」
エリーナが悲鳴をあげ、後で控えていたアンナとクロマが腰を抜かす。
アンナだけはモジモジと内腿を擦り合わせていた。
「ほっ、本気で怒っているのね。そんな怖い顔をしたリュークを見るのは初めてだわ」
「すまない。気持ちが抑えられなかった」
ボクが謝罪を口にするとエリーナが抱きついてきた。
「何があったか教えて」
「ああ」
ボクはノーラに起きた出来事を伝えた。
そして、黒幕がいることを伝えて、エリーナに頼み事をした。
「クロマに働いてもらいたい。そして、エリーナには聖女ティアの味方として弁護側に回って欲しい」
「犯人は、聖女ティアではないのですね?」
「ああ、それは間違いない。論点としては、聖女ティアにメリットが無いということから話をしてほしい。クロマには、聖女ティアに罪を被せた際に得をする人物は誰なのか調べて欲しい」
ボクが三人に対して要求を口にすると、三人はボクの前で膝を折って頭を下げた。
王族であるエリーナも、二人と同じようにボクに対して礼を尽くした。
「旦那様の要求、委細承知しました! 私を頼ってくれたこと、心から嬉しく思います。相手がアイリス・ヒュガロ・デスクストスであろうと、引けを取らぬように相手してご覧に入れます」
「エリーナ様のサポートはお任せください」
「リューク様の望み。絶対に私が叶えます!」
三者三様に意気込みを伝えてくれる。
エリーナは普段はダメダメだが、人前に出た際にカリスマ性を発揮する力は、ボクの嫁たちの中で一番だ。
アンナはエリーナが取りこぼしそうなところを、補ってくれるだろう。
そして、クロマは世界をまたに駆ける大怪盗だ。
彼女ほど、様々な場所に潜入して情報を集められる者をボクは知らない。
「三人ともありがとう」
ボクは三人それぞれを抱きしめてキスをする。
本当にボクの妻たちは優秀だね。
「最後にダンを借りたい」
「ダンを?」
「ああ、今回だけはダンの力が必要だ」
ボクは初めてダンを必要な人間だと思った。
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あとがき
どうも作者のイコです!!!
昨日はたくさんの方にレビューを頂きありがとうございました!!!
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