第324話 式典参加者 3

《sideアイリス・ヒュガロ・デスクストス》


 会場中が騒がしくなり、爆発が起こっていく。


「これは演出ですの?」

「アイリス様、どうやら変な集団が爆発を起こしているようです」


 レイの報告に私は鬱陶しさを感じながら立ち上がりましたの。


「キキ、余計な物を排除してきなさい。ディアスも行ってきて」

「ウキ!」

「はいはい」

「チューシン、会場を出るわよ」

「かしこまりました」


 チューシンが張った結界によって火の手を避けながら会場から出ていけば、逃げ惑う他の人々が邪魔で前に進むことができない。


「邪魔ね。レイ、窓から出ましょう」

「よろしいのですか?」

「優雅に美しくよ」

 

 わたくしは窓から飛び降りて、魔力で作り出した足場を使って優雅に着地しましたの。レイとチューシンが続いて、ディアスとキキが、別の窓から変な仮面をつけた男を捕まえて飛び出して来ましたの。


「なんですのそれは?」

「ウキ!」

「こいつが爆弾を投げておりました。他は逃げられました」

「そう、あなたが犯人ですの」


 わたくしは魅力の魔法を使って、相手を籠絡しましたの。


「あなたは何者ですの?」

「わっ、我は預言者!」

「預言者?」


 私が問いかけると、避難してきた者たちの注目を集めるように両手を広げて、派手な衣装のせいで余計な注目が集りますの。


「そうだ! 我は預言者ヒルカラス! 聖女ティア様のために式典に惨劇をもたらしにやってきた者なり! ヒュ!」


 声高々に叫んだヒルカラスは、何者かの手によって頭を撃ち抜かれて突如倒れて息を引きとりました。

 わたくしたちにも狙撃が来るかと思ってチューシンが結界を張り直しましたが、何も起きませんの


「何事ですか?」


 避難してきた貴族や、来賓たちが声を発した人物へ視線を向けましたの。


「聖女ティア様」


 わたくしは面倒なタイミングで現れた、聖女ティアを出迎えますの。


「これは一体? その派手な衣装を着た者は誰ですか?」

「あなたのお知り合いではないんですの? 聖女ティア様」

「どういうことですか?」

「この者は先ほど、会場に爆弾をばら撒いていた者ですの」

「なっ!」

「そして」


 レイが派手な衣装を取り払い顔を晒しましたの。


「あなたは!」

「やはりお知り合いでしたの?」

「通人至上主義教会の信徒の方です!」

「……そうですの」

「彼がどうして?」


 わたくしは深々とため息を吐き、周りの避難してきた貴族や来賓が、白い目で聖女ティア様を見ましたの。


「なっ? なんですか?」

「彼はあなたのためにこの騒ぎを起こしたと言っていましたの」

「わっ、私のために?」

「はい。預言者ヒルカラスと名乗ってですの」


 真犯人が聖女ティアであろうと、なかろうとどっちでもいいですの。

 面倒な犯人探しをわたくしにさせたことが腹立たしいですの。


「わっ、わたくしは何も知りません!」

「そうですの。ですが、そんなことはどうでもいいですの」

「なっ!」

「この場に集まった方々は、ヒルカラスの証言を聞きましたの。その後にヒルカラスは何者かの手によって狙撃を受けて殺されましたの。その後に、あなたが現れましたの」

「そっ、そんなのって」

「それに主催者のノーラがいないのも不可解ですの」


 ノーラは強い子ですの。こんな騒ぎぐらいで動じるような子ではありませんの。それなのに現れないというのはおかしいですの。


「アイリス様。よろしいでしょうか?」


 わたくしが思案していると、ムキムキな体をしたノーラの執事が話しかけてきましたの。


「あなたは確か」

「ノーラ様の執事をしております。マッスルと申します」

「執事さんがわたくしに何の用ですの?」

「この場を取り仕切られているのが、アイリス様だと判断させていただきましたので、ご報告があります」


 そう言って執事がわたくしに告げたのは、ノーラが襲撃されて意識不明であり、この場の指揮をわたくしに一任したいということでしたの。

 本当に面倒なことが重なりますの。先ほどの預言者ヒルカラス如きにノーラが負けるとは思いませんの。

 

 それに、聖女ティアが現れると同時に殺されたヒルカラス。

 これは、他にも手引きしている者がいると考えた方が良さそうですの。


「皆さん! 主催者ノーラ・ゴルゴン・ゴードン氏が襲撃を受けた模様です。どのような意図があるのかは未だに掴めていません。ですが、疑われた者、襲撃を受けた者がいる以上。今回の事件にご協力いただければ嬉しく思いますの! わたくしの名はアイリス・ヒュガロ・デスクストスですの! デスクストス家の名に不満があれば出てきて欲しいですの?」


 王国に住まう者で、デスクストス家を知らない者はいない。


「誰もいませんの? それではこの一件、アイリス・ヒュガロ・デスクストスが預かりますの。皆さんは安全なホテルへお帰りくださいませ」


 わたくしの言葉におずおずと人々が避難を開始しましたの。


「聖女ティア様、並びに十二使徒のミカ様にロリエル様。あなた方は拘束させていただきますの」


 わたくしの発言に抵抗しようとしたミカだったが、聖女ティア様が止めましたの。


「大人しく従います。我々は無実ですから」

「良い心がけですの」


 ノーラは心配だけれど、わたくしはわたくしにできることをしてあげますの。



《Sideエリーナ・シルディ・ボーク・アレシダス》


 やっとの思いで私は爆発が止んだ会場から飛び出すことができました。


「みんな無事かしら?」

「エリーナ様、どうやら避難してきたのは我々が最後のようです」

「本当最悪」


 私の問いかけにアンナとクロマが周囲の警戒をしてくれました。


「エリーナ、逃げ遅れた人はいないようだ」

「人の声は聞こえないっす」


 ダンが絆の聖剣の力で、避難遅れを確認して戻ってきました。

 彼なら炎に当たっても平気なため、避難が遅れた人を確認してもらっていました。私たちはフリーが切り開いてくれた道を通って逃げてきました。


「フリーご苦労様。後で甘い物をたくさんご馳走するわね」

「甘い物!」


 フリーは年頃の少女らしく甘い物に目がない。

 私も好きだけど、食べすぎると太ってしまうので控えめにしている。


 会場でリュークを待っていたけれど、現れることなくこのようなことになってしまった。


「エリーナ。あちらで何かあったようだぞ?」

「何かしら?」


 ダンに言われて向かっていけば、アイリス・ヒュガロ・デスクストスが、名乗りを上げて聖女ティア様を連れて行ってしまった。


「いったい何が起きていますの?」

「どうやら、エリーナ様は出遅れたようですね」

「えっ?」

「あ〜、エリーナ様ですからね」

 

 アンナとクロマが何やら不穏なことを言い出した。


「すまない。エリーナ! 俺がもっと早く中を確認していれば」

「そうっす! ダン先輩が鈍いのがいけないっす! 駄犬っす!」

「ハァハァハァ」


 二人の変態に引きながら、私は最後に残されたフリーを見ました。


 無言で、視線を逸らされてしまいましたわ。


「とにかく今は状況が分かりませんから、今夜のホテルへ避難いたしましょう」

「それが良いでしょうね」

「無闇に動くべきではないですね」


 アンナとクロマに賛同を受けて、私たちは避難を開始しました。

 アイリスと聖女ティア様の間に何があったのでしょうか?

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