第九章 塔のダンジョンと孤独の乙女
第315話 継承の儀
《sideノーラ・ゴルゴン・ゴードン》
リュークがアレシダス王立学園の三年生として学園に戻ると言うので、わっちはお母様に相談事があり、迷宮ゴルゴンに戻ってまいりんした。
わっちが家へと戻ると、お母様は驚いた顔をされていんした。
「あら〜ノーラちゃんが戻ってくるなんて、意外だわ」
「お母様、リュークに会って来たでありんす」
「それで、どうだったのかしら?」
「ええ男はんどした。もうわっちはリューク以外の男は考えられんきに」
「ふふ、いいわね。ノーラちゃんが一人の男に惚れるなんて、さすがはリュークちゃんね。私は応援するわよ」
黄金宮殿と言われるお母様のお家でご飯を食べんした。
リュークとの旅がとても楽しかったことを話すと、お母様は嬉しそうな顔をしてくれんした。
「それで? どうして帰って来たのかしら? あなたなら夢中になって追いかけまわすと思ったのだけれど」
「それではダメでありんす。リュークはわっちに本の楽しさを教えてくれたでありんす」
「本? また意外な物ね」
「そうでありんすか? 最初はリュークが読み聞かせてくれたでありんす」
忠犬はっちゃんは名作でありんす。
「本はいいんでありんす。本を読むようになって、シロップも、ルビーも、エリーナも、リンシャンも、カリンとも友達になったでありんす」
「そう、あなたに友達ができたのね。それは凄く嬉しいことね」
お母様は本当に嬉しそうに笑ってくれたでありんす。
こうやってお母様とお話をするのも随分と久しぶりな気がするでありんす。
「それで? ここに帰ってきたと言うことは、何かしたいことがあるの?」
「全ての本を集めたいでありんす」
「本を集める? 図書館を作りたいと言うことかしら?」
「そうでありんす。わっちはこの迷宮ゴルゴンに図書館を作りたいでありんす」
「そう、そうなのね。あなたにしたいことができたのね。強さだけを求めるだけだったのに、リュークちゃんに会ったことでそこまで変わるなんて。女はやっぱり男に染められてしまうモノなのね」
お母様は楽しそうに笑っておられて、優しく微笑みかけてくれんした。
「私も覚悟を決める時が来たのかも知れないわね」
お母様の言っていることはわからなかったでありんす。その後すぐにお母様から、侯爵家を継ぐように言われんした。
「どうしてでありんす?」
「そうね。一つは図書館を作りたいなら、侯爵としてこの地をしっかり治めなさい。そうすればあなたのしたいことができるわ」
「それは嬉しいでありんす」
「ふふ、それともう一つは、私にもしたいことがあるからよ」
「したいこと?」
「ええ。ノーラちゃん、私はずっとこの地の管理をしてきた。それはひとえにあの化け物ダンジョンを、終わらせる時を待っていたの」
迷宮ゴルゴンに住んでいれば、どこからでも見える高い塔。塔の天辺は雲の上に在って、見ることはできない。あの塔は子供の頃よりも成長を遂げて、高くなっているかもしれない。
お母様をもってしても最上階に辿り着いたことはない。100階層と言われる高い高い塔のダンジョン。
「お母様はあれを攻略するんでありんす?」
「ええ、私の生きる意味と言ってもいいわね。それに友との約束かしら」
「友?」
「ええ、私にも一人だけ友人と呼べる人がいたのよ」
「その人はどうしているでありんす?」
「好きに生きて、好きに逝ったわ」
お母様は遠くを眺めて憂いに満ちた表情をしていたでありんす。
わっちはそれ以上、その人のことを聞いてはいけないような気がしたでありんす。
「さぁ、侯爵をノーラちゃんに渡すことを決めたんだから、派手にやるわよ!」
「何をするでありんすか?」
「決まっているんじゃない。パレードよ! 侯爵継承パレードを開くのよ!!! フゥ〜!!! 派手にいくわよ」
お母様が用意した衣装を着て、お母様が用意した乗り物に乗って、三日三晩迷宮都市ゴルゴンの街中を騒ぎ回ったでありんす。
スラム街も、鍛冶師街も、平民も、貴族も、奴隷も関係なく、みんなで騒いだでありんす。
そして、三日目の晩。
お母様から、武器を授かったでありんす。
「これは聖なる武器と呼ばれるものよ。使うかどうかはノーラちゃんが決めなさい」
それだけを残して、お母様は姿を消しんした。
きっと塔のダンジョンに向かったと思うでありんす。
誰も姿を見ていないでありんす。
それから一年。
わっちは迷宮都市ゴルゴンの領主として、街作りをしてきたでありんす。
だけど、ふとした時に思うでありんす。
一緒に喜んでくれるお母様も、リュークも側にいやせん。
「寂しいでありんす」
リュークはカリンのところにいて、今は皇国にいるとカリンが教えてくれんした。
わっちのことなど放っておいて、考えてもくれていやしやせん。
「わっちの方から会いに行ってもいいでありんす?」
巨大な図書館はもう少しで完成するでありんす。
「カリンでも呼びましょうか?」
そんなわっちの元に一通の手紙が届きんした。
「誰からでありんしょ?」
手紙を開けると。
『久しぶりだね、ノーラ。
近いうちにそちらにお邪魔しようと思う。図書館の完成を一緒に祝いたいけど時間は取れるかな? 忙しいと聞いたから先に手紙を送らせてもらったよ。
それとサプライズゲストを連れていくから、喜んでくれると嬉しいな。
会えるのを楽しみにしている。リュークより』
手紙の内容を読み終えて、わっちの瞳から涙が溢れんした。ふふ、本当に不思議な人でありんす。
図書館作りをしている時は忙しくて、考えてもいなかったでありんす。
だけど、ふと作業が立ち止まった時にわっちの寂しさを察知したかのように会いにきてくれると伝えてくれるなんて、さすがはわっちが惚れた男でありんす。
「わっちも楽しみにしているでありんす」
ふと、塔のダンジョンを見つめんした。
あの継承の儀から姿が消してしまいんしたお母様。
出来れば、もう一度お母様にお会いしたいでありんす。リュークと幸せですと伝えたいでありんす。
わっちはリュークからの手紙をギュッと胸に当てて涙を拭いんした。
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あとがき
どうも作者のイコです。
第九章 開始です。
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