第313話 サブシナリオ の 母娘
ボクは皇国の事変を片付けて、ゆっくりと寝て起きた朝方。
庭で寝ているオウキの姿を見てふと思うことがあった。
「オウキ、体が大きいから目立つね。もっと小さく成れないのかな?」
無茶な要求をしていることはわかっているけど、ソリを引くような大型の馬よりもさらに大きい。
「ブルルル!」
麒麟は要望に応えるように小さく変貌を遂げた。
見た目は小型犬程度まで小さくなり、七色に光鱗が美しい。
バルの上で胡座をして座っているボクの膝の上へと乗って眠り始めた。
「撫でろというのかい? 怠惰なボクを使うとは、お前も傲慢なやつだな」
鱗は硬い感触がするけど、なでてやると満足そうに「フン」と息を出す。
「気持ちいいの?」
ボクの問いかけに目を閉じて満足そうな顔をする。
♢
そんなバルとオウキにサンドイッチされて過ごした午前中を終えて、ボクは目的の人物たちの元へとやってきた。
古屋の玄関が開かれ、ヒナタが掃除をしている。
「待たせてしまったね」
「あっ! バル様! お待ちしていました」
「随分と顔色が良くなったね」
「はい! バル様がくれた食糧で大丈夫です」
元気に返事してくれるヒナタの頭を撫でてやり、家の中へと入っていく。
横になっている母上が体を起こそうとするのをヒナタが助けた。
「バル様、よくぞきてくださいました」
「無理はしなくていいよ。まずは回復魔法をかけよう。それと食事は取れているかい?」
「不思議なものですが、バル様に回復魔法をかけて頂き、お粥を食べさせてから凄く体が軽くなったのです」
カリン特製のお粥はバフ効果をもたらしてくれるからね。
病人の弱った体に元気を取り戻させることができるんだから、最高の病人食だね。
「それはよかった。顔色が良くなり体力が戻ったなら、本題に入りたいと思います」
「本題ですか?」
「はい。私と一緒に王国に来ていただけませんか? 生活の全てを私が見させていただきます。もちろん、体調面のケアも含めて」
ボクの申し出にはだけていた胸元を隠す。
ヒナタは驚いた顔をして、ボクと母を見た。
「わっ、私は病人です。それにヒナタを生みました。バル様のような若くお綺麗な男性には多くの女性おられるのでしょう。それなのにどうして、わっ私なのでしょうか?」
「誤解させてしまったならすみません。好意を持っていますが、それは家族愛だと思っていただきたい」
「家族愛ですか?」
「はい。私の妻があなたの血縁であり、あなたが病で苦しんでいるのを救いたい。そう思ったんです」
「バル様の奥様?」
ボクに20人の妻がいること、そして皇国人の妻がいて、血縁者であること。
ボクが知るゲームの世界では、本来は母を病で亡くした状態の少女ヒナタだけを知っている。
立身出世パートが始まり、数々の王国内乱を乗り越え、皇国や帝国との争いの中でダンが知るサブシナリオ。そこに隠された真実は、あまりにも悲しかった。
「そうだったのですね」
残念そうな顔をさせてしまう。
「あなたの病は私が治めるリューに来てくれれば」
治せるのかどうかはボクでは判断できない。
だけど、ミリルなら治してくれるかもしれない。
「わかりました。バル様のご厚意お受けしたいと思います」
「お母さんは助かるの?!」
「約束はできない。だけど、一日でも長く生きられる手伝いはできると思う」
「ありがとう。ありがとうございます。バル様! わっ、私はお母さんが死んだら、どうしようって、毎日不安で」
ヒナタは泣き出して喜んでくれた。
彼女は不安のままに皇国の争いに巻き込まれ、生贄の巫女としての役目を担うことにある。
生贄に捧げられ、死んだのちにノーラの血縁者であることがわかるのだ。
それは、物語の終盤にノーラという最強の戦士を、さらに覚醒させてゲームのボスとして進化させる役割を持つ。
だが、ノーラがボスになることも、ヒナタが生贄になる未来も訪れる未来は来ない。皇国の闇は取り払い。
ノーラはダンと敵対関係をとってはいないのだから。
「ヒナタ。君に会わせたいモノがいるんだ」
「会わせたい?」
少女のあどけない顔が不思議そうに首を傾げる。
ボクは空に合図をしてオウキを呼んだ。
「うわ〜凄く綺麗でカッコいい生き物ですね」
「ああ、彼は麒麟のオウキ。ボクのペットだ。そして、君にこの子の世話係をお願いしたいんんだ」
「えっ? 私にお世話係?」
「そうだ。君と、君の母君の世話をしよう。だから、君に仕事を与えたいんだ」
「そういうことなら喜んで引き受けます!」
自信満々にオウキへ近づいていくヒナタ。
ヒナタの不思議な魅力にオウキも戸惑いながら、惹かれる物があって受け入れる。
そうだ。本来の皇国では皇王が暴走して麒麟をラスボスとして召喚する。
ヒナタを生贄にして麒麟を召喚するのだ。
全てはゲームとは違う結末を迎えることができた。
もう誰もヒナタを犠牲にすることも、麒麟を縛ることもない。
皇王だけが許された麒麟との契約は、息子であるハクによって破棄されたのだから。新たな皇王との間に麒麟との契約は存在しない。
「ヒナタ、君は麒麟の巫女だ」
「えっ?」
何を言われたのか分からなかった少女の頭に手を置いて撫でてやる。
「麒麟のオウキ。その世話役だから、麒麟の巫女だ」
「ふふ、なんだか偉くなった気がします!」
元気いっぱいに受け入れる彼女に、母親も笑顔を浮かべてボクを受け入れてくれた。
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