第243話 深海ダンジョン調査隊 2

 ボクは考える。


 海の中で戦うということは相手のホームで戦うことだ。

 ボクにとってはアウェイであり、倒せる気がしない。


 戦略や戦術を考える時、負ける戦いはしないというのが原則だ。

 負けないためはどうすればいいか? 自分の懐へ相手を引き込んで倒す。


 では、相手を自分の懐へ引き込むためにはどうすればいい? 相手は深海1000メートルの位置に沈むダンジョン。

 海に入って終えば、こちらは呼吸が止まり、魔力供給ができない。


 せっかく森のダンジョンで魔力の濃度が変わっても魔力の供給ができるように呼吸ができるようになったのに。


「ずっと海を眺めてどうしたんだ?」

「リンシャン、ボクはここ数日海の中へ潜っては、敵の位置を調査しようとしていた」

「ああ、それは知っている。そのためにこの街の者たちは道具を作り、海を調べ、リュークが動きやすいように用意をしてきた」

「だが、根本的な考え方を間違えていたんだ」

「根本的な考え方?」

「ああ、ボクは相手が海の中にいるから、海の中を調査しないといけないと思っていた」

「それは当たり前なんじゃないか? 地下迷宮ダンジョンの話を聞いた。相手の弱点を調べて、相手に勝つための戦略を模索する。それは戦略を考える上で当たり前のことだ」


 リンシャンは、立身出世パートで司令として役目を持つ。

 エリーナもそうだが、彼らは人を使うことに慣れており、全体を見る戦略を考える話ができる人間だ。


 だが、やっぱりリンシャンはリンシャンだ。

 固定観念に囚われている考え方は変わらない。

 

「違うんだ。リンシャン。相手の土俵に立って考えていては絶対に勝利はやってこない」

「相手の土俵? 海の中ということか?」

「ああ、見ていて」


 ボクは全身に魔力を循環させる。

 さらに、魔力吸収を続けながら、放出させる魔力を貯めていく。


「リューク?!」


 ボクは自身の魔力を放出したことがある。

 ダンを驚かせるために放った魔力は、ボク自身の内包できる魔力の限界だ。

 では、魔力を吸収しながら放出し続ければ一体どれだけの魔力を放てるのか?


「いくよ!」


 ボクは、溜め込んだ魔力を海に向かって放った。


「ふぇ?!ハァーーーーーーー!!!!!」


 リンシャンが驚きの声を上げた先では、海が二つに割れている。

 ボクが魔力を放出し続ける間、海は割れ続けている。


「ふぅ、魔力は使うけど、相手を引きずり出すことはできそうだね」


 深海に見えるダンジョンの入り口。

 それは海の中に作られた宮殿のような作りであり、ダンジョンマスターとして確認した場所と相違ない。


「無茶苦茶だな!」

「どれだけ効率的に相手を倒すか、前にもリンシャンには似たようなことを言ったよね」

「ああ、どれだけ命の危険を少なくして効率的にダンジョンを攻略するのか、私はあれからずっと考え続けている。だが、リュークのようにはできないぞ」


 割れた海が元の姿に戻るために集まっていく。


 大自然を破壊したいわけじゃないが、海を割って相手を確認することはできた。


「ボクはずっとどうすれば深海ダンジョンに到達してダンジョンを攻略するのか考え続けていた。だけど、相手を引きずり出して、ボクがいる地上で戦えばボクは負けない」


 海を割ることはできるようになった。

 次は、割った海を固定する方法を考えたい。


 時間とお金があれば、埋め立てて陸地を作った方が楽だが、今は早くダンジョンを手に入れたい。

 カリビアン領と王都のダンジョンを手に入れることができれば移動が楽になる。


「全く、貴方は考え方が他の者と違いすぎる」

「それは当たり前だろ。自分にできることはボクにしかできない。だけど、ボクはアカリのように発明はできない。ミリルのように頭も良くない。リンシャンのようにエナガに乗って飛ぶことはできない。カリンのように料理もできない。みんなはそれぞれができることをしてくれているよ。ボクはボクのできる方法で解決しようとしただけだ」


 シロップがいなければ、ボクは生きていない。

 グリコ師匠に出会えたこと、学園に入ってリベラが従者をしてくれことで、ボクは外での味方を得られた。


 ルビーがいて、エリーナがいて、アンナがいて、クウがいて、シーラスがいる。


「ふぅ、お前の解決の仕方は規格外だな」

「ボクは魔法が得意だからね。さて、海を手に入れるためにリンシャンにも協力してもらうよ」

「ああ、どんなことでも協力しよう。今の私は何も悩まない。リュークが言うことが例え悪いことでも付き合うぞ」


 本当にリンシャンはリンシャンだな。


 ボクはリンシャンを引き連れて、アカリとリベラ、メルロに海を割って、それを固定できる方法はないか考える話し合いをすることにした。

 そこへミリルとルビーも混じって、シロップとカリンが料理を持ってきてくれる。

 

 小さな円卓には料理が並んで、いつの間にか家族だけの食事が始まっていた。

 

「海を割ったのリューク!」

「ああ、魔力を吸収できれば、あとは放出するだけだからね」

「なるほど、リューク様は魔法を放ちながら、吸収もできますからね」

「いやいや、おかしいことしてるって、リベやん。ダーリンの信者すぎ!」

「いえ、リューク様ならばできて当たり前かと」

「そうにゃ。リュークはやると言ったらやり遂げるにゃ」


 好き勝手に話をしているようで、話題はボクの話をしている。


 夜が深まる時間。


 一人でテラスに出て涼んでいると、気配を感じる。


「お邪魔しますわ」


 ヒレのような耳に、美しい容姿。

 エメラルドに輝く髪が腰まで伸びている。

 体こそ人間だが、どこか特殊な雰囲気を感じる女性が現れた。


「ようこそ」


 ボクの目の前には、ある文字が浮かび上がる。


《侵略を開始しますか?》


 つまり。


《目の前に深海ダンジョンのダンジョンマスターがいます》


「ようこそ、深海ダンジョンのマスター殿」


 ボクは立ち上がって一礼をして出迎える。

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