第226話 火種
《sideダン》
森ダンジョンの一角に造られた墓石には、《リューク・ヒュガロ・デスクストスここに眠る》と書かれていた。
「なぁ、リューク。俺は騎士として、正式に騎士団に所属して働き出したぞ。まだ不慣れなことも多いが、お前がいっていたことが、今なら分かるんだ。戦いなんてやる意味はない。やるだけ無駄だってお前ならいいそうだ。だけど、騎士になるとわかるんだ。確かに戦争みたいな戦いは無意味かもしれない。だけど、弱くて戦えない者たちがいる。その代わりに戦うことはやっぱり俺たちの仕事なんだと思う」
俺は墓石に語り終えると、聖剣を手に立ち上がった。
騎士としての日々は、忙しくて大変だ。
俺が勤め始めた第一騎士団は、マーシャル公爵家が作った騎士団だ。
マーシャル騎士団との違いは、王都に存在していることぐらいだ。
昨年度までは、ガッツ・ソード・マーシャル様が団長を務めていた。
ガッツ様は、若手の騎士たちを集めて訓練をしていた。そのため次代の王国最強の騎士団としていわれている。
ガッツ団長が、マーシャル公爵様の後を継いで近衛騎士隊隊長となることが決まり、同時にユーシュン王太子の護衛となることが決まった。
そのため新たな団長として副団長を務めていた、ムーノ・バディー・ボーク様が団長に就任された。
ユーシュン様が王太子になられたことで、王位継承権を自ら手放してアレシダスの姓を返納された。
騎士隊へ入隊を希望したムーノ様は、ガッツ様の元で騎士として鍛えられていた。現在は一人の騎士として、男爵位を受けて第一騎士団の団長になられた。
「ダン、今日から君が私の相棒だ」
「よろしくお願いします! ムーノ団長」
ムーノとは友人関係でもあるので、何かとやりやすい。稽古ではこれ以上ないほどぶつかり合える。
第一騎士団は王都全土の守護を第一の仕事として、ダンジョンの間引きや、王都に近づく魔物の討伐などを行う。
だが、一番大事な仕事をムーノと共に行っていた。
ここにハヤセがいてくれたら、もっと仕事がスムーズに行くのだが、ハヤセがアレシダス王立学園を卒業するには、後一年間かかってしまう。
それまでに自分にできることをしなければならない。 レベルはカンストして、他の騎士たちよりも強くなっている自覚はある。
だが、リュークを見てわかった。レベルだけではない強さがある。俺は、レベルにとらわれない実力を身につけるために訓練を続けている。
「ハッ!」
「随分と、鋭い剣筋だな」
「ムーノ団長、俺はリュークの意思を継ぎたいって思っているです」
「デスクストス君の意思? 直接は彼に会ったことないんだ。彼はどういう人物だったんだい?」
俺は、最悪の出会いから語り聞かせることにした。
マーシャル家の敵だと言われていたデスクストス家。
俺は決闘を挑んだけど、コテンパンにされて。
その後も挑んでは負けて、何かを成したと思ったら、それ以上に凄いことをしてしまう。
リュークはずっと凄いやつだった。
俺の憧れで、心の友と書いて親友だ。
「リュークとの思い出はわかったよ。それじゃそろそろしっかりと働いてもらおうか」
「ええ、まかせてください」
「リューク・ヒュガロ・デスクストスの事件以降、貴族派と王権派の動きが激しくなってきている」
あの葬儀が様々な人々の動きを加速させている。
「カリビアン家の貴族派離反」
「そうだ。カリビアン家は貴族派にとって食糧管理、つまり兵糧を司っていた。リューク・ヒュガロ・デスクストスの死によって中立派として、カリビアン家はどの陣営にも属さないことを表明した。そのため貴族派は新たな兵糧を確保するために帝国と内通しているという話がある」
リュークの葬儀の際に、カリビアン伯爵となったカリン・シー・カリビアン様は、貴族派の皇国との戦争へ反対を表明した。
テスタ・デスクストスが表明した宣戦布告に対して、完全に貴族派から離反した。
貴族派はそれを責めようとしたが、ゴルゴン家のノーラ嬢も追従したことで、二つの家に挟まれているデスクストス家は沈黙することになった。
別件では、教会の聖女の動きも怪しくなり、戦争の火種がそこかしらで燻り始めている。
「リュークの死を悼む者。利用する者、そして、それに付け入る他国という感じだな」
「そうだ。どこで何が起きるのかわからない。リューク・ヒュガロ・デスクストスという人物は、私が知らなかっただけで、多くの人々に関与していたんだな」
第一騎士団は、王権派の軍隊としても機能しているので、貴族派の動きには注意を向けている。
葬儀の前から姿を消してしまった前デスクストス公爵、ゴードン・ゴルゴン侯爵などの行方の調査なども行われている。
調査をすればするほど、リュークの姿がどこかしらに関与している。
「俺が知らないだけで、リュークは様々なことをしていたんだな」
「そうだな。リューク・ヒュガロ・デスクストスの恋人たちに当たるだけでも、手間がいる」
「自称、彼女という女までいるそうだ」
「ハーレム王とは聞いていたが、アレシダス王立学園に入学してからの三年間で十名以上は名が上がるっていうんだ。それも我々が把握できているだけでその人数なだけで、把握できていない者もいることだろう」
王権派トップのユーシュン様は、現在は皇国への戦争に賛成していない。
だが、貴族派が優勢な状況では皇国に対して、いつ戦線が切られてもおかしくない。
出来るだけ、王権派に有利な材料を集め、貴族派の牽制をするためにムーノと二人で調査を続けいていた。
「ダン、貴族派の重鎮であるテスタ・ヒュガロ・デスクストスに動きはない。教会も怪しくはあるが、すぐではないと判断できる。ここは怪しい動きをしているアクージ家から調査をするべきだと思うがどうだ?」
「ああ、やろう。アクージ家はテスタ・ヒュガロ・デスクストスに一番近いと言われている。抑えれば大きいぞ」
王都に蔓延る火種の調査を最優先に、ムーノと二人で動く日々。
いつかリュークが望んだ平和を手にするため、俺は働き続ける。
それが聖剣やハヤセを俺に与えてくれたリュークに対しての恩返しだ。
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あとがき
どうも作者のイコです。
GWに読みたい!カクヨム人気作品ランキング TOP10【2022年度下半期投稿開始作品限定】に《あくまで怠惰な悪役貴族》がトップ3に選んで頂きました。
これも読者の皆様のおかげです。
本当にありがとうございました。
これからも頑張って書きますので、よろしくお願いします♪( ´θ`)
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