第145話 二年次 剣帝杯 6

 ハヤセからダンへと力が流れ込んでいく。

 確かな絆が結ばれた光が繋がっていた。


 ボクの願いは成就した。


『心から大切なものを守る時、相手と心を通わせられたなら真なる力を与えよう』


 ゲームの画面に現れるセリフ通りなら、ダンはハヤセとの間に絆を結んだことになる。ダンがハヤセを守りたいと思い。ハヤセがそれを受け入れて、両思いになったことで真なる力を得られたはずだ。


「さぁやろう!ダン!」


 金色の光に包まれた真なる力に目覚めたダン。

 どれほど強いのか想像もできない。

 ゲームの世界では、もちろん最強クラスのキャラへと昇華していく。


 今のダンがどれほどのものなのか、ボクの力はどれだけダンに通用するのか楽しみで仕方ない!!!


「リューク!殺しはしない。きっと話し合えば分かり合えるはずだ」

「どうだろうな?御託はいいよ。おいで」

「いくぞ!」


 シンプルで直線的な攻撃は、今までなら単調で動きを見てからでも避けることできた。だが、次の瞬間にはボクの前にダンが現れて反応が遅れる。


「ふん!」


 ダンの剣を紙一重で躱せば、ボクの毛先が少し切れた。

 手入れはきちんとしているから、剣で乱雑に切られたくはない。


「はっ!」


 ダンの攻撃は剣だけでなく、徒手空拳を混ぜることで変化をつけてくる。

 一年次の時に戦った時は瞬殺できた。

 随分と強くなったものだ。


 ダンの後ろで再生を終えたガッツが、マルリッタに支えられて座っていた。


 あっちの二人も上手くいったのか?


「どこを見ている!」


 ダンが横薙ぎする剣に足の裏を合わせて、振られる勢いに乗って距離を取る。


「相変わらずの体術だな」

「ダンの剣術は随分と荒々しくなったね」

「マーシャル流剣術だけじゃお前には勝てない!アーサー流戦闘術は全身を使って戦うんだ!」


 剣帝アーサーを師事して、シーラス先生に魔法を習った結果が、今のダンなのだろう。そこに聖剣の力が加わり、速度も攻撃力も防御力も格段に上がっている。


「リューク、俺は強くなったぞ」

「それはボクに勝ってから言うんだな」


 金色の魔力が柱となって吹き上がる。

 ボクも自分の魔力を高めて紫の柱を作る。


「ダン、決着をつけよう」

「ああ。お前に勝ってみんなと仲直りしてもらう」

「ボクが勝てばお前は彼女たちから真実を聞けよ」

「真実?」

「これ以上、話すことない」


 全力でやるならバルニャンを呼びたいところだ。

 聖剣の力に全力で力比べをしてみたかった。


「リューーーーーーーーーーーーーーーーク!!!!!」


 金色の光が聖剣へ集約されていく。

 ボクも魔力を全身に纏わせダンを迎え打つ。


 ぶつかり合う力は互いに均衡して削り合いながら消耗戦になる。


「ハヤセがくれた力を全て込める!!!」


 決着をつけるために、ダンが剣へと力を集約させていく。


 次の一撃に全力が込められる。


「エターナルエンゲージ」


 爆発的な力が、ダンから発せられる。



「終わりだ!」



 時間の流れがゆっくりと流れ始める。



 ダンから溢れた光の刃がボクを襲う………



 はずだった………



「バカ正直なのとネーミングセンスは最悪だな」

「なっ!」


 思いっきり見え見えのタメが長い必殺技。


 放たれる瞬間にボクは残像を残して、ダンの背後へ移動した。

 全力を使い果たして肉体強化もできていない。

 振り向いたダンの顔面を殴り飛ばした。

 絆の力を使い切っても、ボクの攻撃は《不屈》によって耐えられる。


「お前の心が折れるまで殴ってやるよ!」


 ボクはこれまでの鬱憤を晴らすために、全力でダンを殴り続けた。


 不屈はダンの心が折れない限り攻撃に耐えて死ぬことはない。

 ゲームでHP1になっても死なない踏ん張りスキル。

 不屈はそのスキルの上位版といったところだ。


 だが、それは永遠ではない。


 この世界は現実なんだ。耐えられるからといって、顔が腫れないわけでも、痛みを感じないわけではない。

 全身が傷だらけになりボロボロになるほど攻撃を止めない。


 特別闘技場として使われていた場所は、ボクの攻撃の余波で吹き飛んでいく。

 闘技場が破壊され、ダンが割れた地面に横たわる。


 すでに意識は刈り取った。


「ふぅ~ここまで我慢してたからスッキリした!!!」

「りゅっ。リューク様。やり過ぎっす」


 ボロ雑巾のように地面に横たわるダンの顔は原型を留めていない。

 それでもHP1で耐えているから凄いぞ、聖剣。


「ハヤセ、お前の望みを叶えてやる」

「えっ?今っすか?」

「ああ、そうだ。お前とダンに絆は結ばれたのを確認した」

「え~でも~」


 チラチラと横たわるダンを見る。


「ハァ~なんだか百年の恋も冷めそうっす」

「そうか?お前は元々ダンのことを思って学園に来たんだろ?ダンのお嫁さんになるのが目的だって言ってたから」

「それはそうっすけど」

「ちょっと待て!!!」

「うん?なんだガッツ?」


 ボクがハヤセと話していると、ガッツが割り込んできた。

 マルリッタも驚いた顔して、ボクらを見ていた。


「なんだって………俺がおかしいのか?ハヤセは俺たちの味方で、この戦いを仕組んだ奴で………え?」

「ハァ~バカには説明するのがめんどうだ。そろそろ出てきたらどうだ?」


 ボクが呼びかけると、銀髪の高身長イケメンが姿を見せる。


「戦いは見させてもらった」


 暗闇から姿を見せた王子に、ハヤセとマルリッタは片膝を突き、ガッツは驚いた顔していた。


 ボクはやっと面倒な計画の種明かしができることに安堵する。

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