第112話 ヒロインたちの会話 その8

《sideエリーナ・シルディ・ボーク・アレシダス》


 私は友人であるリンシャンにヒドイことを言った。

 いくら魔力が枯渇していたからといって、言って良いことと悪いことがあることぐらいは私にも分かる。

 それなのにあれから三日経っても、一週間経っても謝ることが出来ていない。


 どうして謝れないのか?一年前なら、簡単に言えたはずなのに…… 最近は全てが上手くいかない。


 王都では笑いもの、学園でも活躍するクラスメイトたちに隠れて、私は功績を残せていない。


 リュークからリーダーを任されても、初日に失敗して友人を傷つけた。


 少しでも役に立たなくちゃいけない。


 ダンジョンを攻略するための勉強をした。

 チームを助けることでしか、私は自分を証明することが出来ない。


 そう思ったから……


「エリーナ様」


 アンナはリンシャンに謝るように言ってくれたけど…… 

 一度逃したタイミングは時間が経つごとに難しいと思わせる。


 だけど、チャンスは突然やってきた。

 リュークがチームに参加したのだ。

 私はリュークにも強がるような態度を取ってしまう。


 内心では、リュークが戻ってきてくれてホッとしていた。

 これでリーダーをしなくても良くなる。

 私の表情が緩んだからか、リュークがいるからか…… リンシャンの方からやってきてくれた。


「リン…… もう、怒ってない?」

「ああ、エリーナのあれはいつものことだ」


 リンシャンは私よりもずっと大人で私のことを分かってくれている。


「ごめんね」

「いいさ」


 リンシャンの顔を見て謝ることが出来た。

 心が軽くなってダンジョンに挑むことができた。

 20階層まで順調に戦えて、これなら自分を許せるような気になっていた。


 そのはずなのに…… 私はまた失敗した。


 倒し急いで、フロアボスを攻略も出来ていないのに、みんなを危険にさらした。

 もしも、リュークがいてくれなければ…… みんなを死なせていた。


 どうして、私は上手く出来ないの?

 どうして、私は一番じゃないの?

 どうして、王族なのに…… 


 結局、私もお父様と同じで…… 泣いて謝る私にリュークは言った。


「お前は無能だ!」

「ヒゥ!」


 ヒドイ!


 そんなこと自分が一番分かっているのに、言わなくてもいいじゃない!


 もうやめてよ。


「だけど、お前は努力が出来る奴だろ?」


 えっ?努力ができる奴?そんなの当たり前じゃないの?みんな努力しているじゃないの?それが何?結局一番にはなれないじゃない。


「さっきも言っただろ。人は得意なことはあるが、苦手なことの方が多いんだ。

 だけど、お前は全部が出来るだろ?リーダーとして、みんなの気持ちが分かる奴になればいい」


 そんなこと誰も言ってくれなかった。


 勝たなくてもいいの?

 私の努力は無駄じゃないの?

 大変って言っても良いの?


 その後は、ダンが帰還して私たちは解散した。

 ダンは、何か自信に満ちあふれた顔をしていたけど、私は考える時間が欲しかった。

 だけど、アンナがやってきて、連れて行きたいところがあると言われた。


 私は一人で考えたかったけど、リュークに言われた言葉を思い出す。


《人のことが分かる奴に成ればいい》


 それを思い出して、アンナが私のことを考えて声をかけてくれたんだと思い直した。


「いくわ」


 アンナが連れてきてくれたのは、リベラのチームがいるラウンジだった。

 修学旅行生たちの中で一番先に進んでいるチーム。

 ライバルだと思ってきたチームに会いに来て、何をするんだろう?


「皆さん、本日はお招きありがとうございます」

「アンナさん、気にしないで。私たちにとっても話し合っておくべきことだから」


 リベラは真っ直ぐに私を見た。

 一年次では同じチームだったけど、少し苦手意識がある。

 リンシャンとの戦いは、私の記憶の中でも素晴らしかった。


 負けた気がしたから……


「エリーナ。まずは、メンバーの紹介をするわね。一年次で同じだったからアカリは分かるわね」

「ええ。もちろんよ」


 アカリは誰にでも上手く話を合わせてくれる、チームのムードメーカーのような存在だった。そしてリュークの妾で…… 何故か胸が痛い。


「次はルビー」

「ルビーにゃ。エリーナ様」

「エリーナでいいわ。私もルビーと呼ぶわね」

「はいにゃ」


 どこか愛らしさがあるルビーは、親しみやすい。

 その見た目とは裏腹に実技ではトップの成績を誇る。

 あのリンシャンですら、一度も剣で勝ったことがない。


「次はミリルね」

「ミリルです。エリーナ様、よろしくお願いします!」

「固くならないで、同じクラスメイトなのよ。ミリル、私のことはエリーナと呼んでほしいわ」

「はっ、はい」


 少し自信なさげな印象を受ける。

 だけど、学科トップの成績で、私は一度も彼女に勝てたことがない。


「自己紹介と顔合わせが終わったわね。それじゃあ本題を言うわね。

 エリーナ…… あなたリューク様をどう思うかしら?」


 リベラから投げかけられた言葉の意味が…… 私はすぐに理解出来てしまった。


 多分、昨日までの私は意味を理解できなかったと思う。


 だけど、今の私は…… 


 リュークに言ってもらえたから……


「あなたたちはリュークが好きなのね」

「そうよ。ここにいる女子は全員がリューク様を好き。多分、リンシャン様もね」

「そう…… 今なら分かる気がするわ」


 リンシャンは真面目な子だから、リュークを好きなことで、ずっと悩んでいたのだろう。なのに、私は自分のことばかりで分かってあげられなかった。


 リンシャンのことを考えてあげることが出来ていなかった。


「そうでしょうね。ねぇ、エリーナ。もう一度聞くわね。リューク様をどう思うかしら?」


 私は…… 一年次のとき、リュークをちょっと良い男性程度に見ていた。

 情勢が進み、リュークの権力や能力ばかりを見るようになった。

 婚約が断られて、学園の成績も振るわず、王族としての権威すら危ぶまれ、様々な状況が私を追い詰めていた。


 修学旅行でリュークと同じチームになって見返してやろうと思っていた。


 だけど、リュークは凄かった。

 私なんて比べられないほどにだった。


 命を助けられて、叱られて、励まされて…… 

 好きなのかと聞かれたら…… 

 正直、まだわからない。


「リューク様が、エリーナ様をほしいと言われたならどうされますか?」


 耳元でアンナが囁いた言葉を想像した。 

 リュークが私を求めてくれる?


「ふふ、もう十分ね」

「そうやね。またライバルが増えたわ」

「ニャハハ、リューク様にかかわったなら仕方ないにゃ」

「ハァ~、ドンドン私の影が薄くなっていくよ~」


 私は何も言っていないのに四人が納得してしまった。


「アンナ?」


 さすがに皆の気持ちがわからなくて、アンナを見る。


「エリーナ様が雌の顔をしていたからでございます。リンシャン様曰く、恋は落ちるものなのだそうです。まさに、その顔です」


 私はアンナに言われて、リンシャンの言葉を思い出して顔に触れる。

 凄く熱くなっていました。

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