第92話 ヒロインたちの会話 その5
《sideミリル》
私は、リューク様のお側にいられることがとても幸せです。
これ以上など……考えていませんでした。
学園を卒業した後は、医師の先生に弟子入りして医療を学び、リューク様、カリン様のお役に立つ……ただ、それだけでいいと思っていました。
ですが……メイドになって、リューク様のお側に仕えるようになったことで、少しだけ欲が出てきました。
ルビーちゃんは、リューク様にご褒美をおねだりするのが上手いので、よく頭を撫でられている姿を見ます。
シロップ様も、普段は厳しいのに、リューク様と二人きりでいるときだけは女性らしい振る舞いをしているのを見たことがあります。
アカリさんは凄く素直な性格で、してほしいことをハッキリとリューク様に伝えて甘えてしまいます。
カリン様は、リューク様の婚約者様として、全力でリューク様と愛を育んでおられます。
私だけ……何も出来ないまま……それを見ているだけなのです。
少しだけ……私もリューク様のお側に近づくことはできないでしょうか?そんな思いを抱える私にアカリさんが声をかけてくれました。
「なぁ、ミリルちゃん。今度うちの店に来うへん?」
「来うへん?」
「ああ、うちの店に来ない?」
「えっ?マイド大商店にですか?」
「そや。ルビーちゃんも誘ってるから、三人で女子会しよ」
アカリさんは私とは違って積極的な女性です。
見た目もエキゾチック美女という感じで……その強引さでリューク様の妾に成られました。
もう……同じ平民のクラスメイトという立場ではないのです。
「ミリルちゃん。めっちゃションボリした顔しとるな……ルビーちゃんが言うとったな。ミリルちゃんはたまに自分の世界に入って、表情が百面相でコロコロ変わるって」
アカリさんは何を言っているのでしょう?私は表情など変えていません……ただ、アカリさんを見ると……自分が何もないように思えるだけで……
「うわ~メッチャ落ち込んでもうた。あかん顔やで、それ。ほら、女の子は買い物したら気分が晴れるっていうやろ。だからおいでおいで」
そう言って手を引かれて、アカリさんとルビーちゃん二人と共に、一緒にマイド大商店に来ました。前に来たときはリューク様に連れてきてもらって、ドレスを買って頂きました。私のような平民が来て良い場所ではありません。
やっぱり帰った方が良いのではないでしょうか。
「ようこそ。ウチの店に!」
そう言って来客用の個室へ通してくれたアカリさん。
綺麗な部屋の中には、紅茶やお菓子がたくさん用意されていました。
凄く綺麗で場違いな感じしかしません。
「ほな、今日はここはウチの奢りやから、好きにお話をしよ」
「そんな!」
「ええねん。ウチな友達って呼べる女の子の知り会いがおらんねん。
発明ばっかりしとってな。大人とはよく話をするけど……同年代の友達が出来て嬉しいんよ。だから、今日は友達を家に呼んだ。そんなつもりで居てほしいんよ」
アカリさんの気持ちは私にも理解できる。
ルビーちゃんと知り合うまでは、私もあまり人と話すことができなくて、リューク様に仕える以外には何も考えていなかった。
「なら、ご馳走になるにゃ!でも、アカリ。覚えていてほしいにゃ。本当の友達は施しばかりされても嬉しくないにゃ。対等で居られるから友達同士なのにゃ」
ルビーちゃんは、たまにまともなことを言う。
「そうなん?う~ん、そやね。頼ってくるだけの子は確かに嫌やもんね」
「そうにゃ」
「うん。じゃあ、ルビーって呼んでもええ?」
「もちろん、いいにゃ」
「ミリルちゃんも、ミリルって呼ぶで」
「あっ、はい」
「うん。ウチのことは今からアカリって呼んでや」
ルビーちゃんは、誰とでも仲良くなってしまいます。
アカリさんは凄く明るくて……自分だけがダメなような気がして……
「アカリ、ミリルは頭がいいにゃ」
「そんなん知っとるよ。だって学科の首席やろ?」
「そうにゃ。だから、変なことまで考えすぎる性格にゃ」
「ああ、そういうことかいな」
私が落ち込んでいると、二人が私の話題で納得してしまいました。
「なぁ、ミリル。リューク様のこと好きやろ?」
突然、アカリさんが話題を変えてきて、私は……
「なっ!何を言って!」
「メッチャ分かりやすいやん」
「そうにゃ。ミリルは百面相にゃ」
なっ、なんで二人とも私は何も答えていないのに……
「う~ん、身分差がとか思とるなこれは」
「そうにゃ。リューク様はそんなこと気にしないにゃ。それなのにミリルは一歩が踏み出せないにゃ」
「なら、今日は丁度ええね」
「そうにゃ!ミリルを変身させるのにゃ」
何やら二人の会話が不穏な方向に向かっているように感じます。
変身?何を変えると言うのでしょうか?
「ええか、ミリル」
「はっ、はい!」
アカリさんは真剣な顔になり、その瞳が真っ直ぐに私を見ています。
「これからダーリンは、どんどん凄い人になっていく。それはダーリンが嫌がっても、周りがそうさせるからや」
リューク様が遠い存在になっていく……それは薄々感じていました。
「だから、リューク様と一緒におるウチらもレベルアップしなあかん」
「レベルアップ?魔物を倒すのですか?」
「ちゃうちゃう。それもするけど、女子力向上や」
「女子力向上?」
「そや、リューク様は毎日、身体の鍛錬、魔法の鍛錬、それに美容の鍛錬を子供の頃からしてきはってんて」
リューク様のモーニングルーティンは何度か見たことがあります。
動くのは嫌だと言いながら、リューク様は毎朝訓練を欠かしたことがないそうです。
「ウチらは女やけど美容でも、幼い頃から努力しているリューク様に負けとるんや。リューク様に劣る女が横におるって考えてみ」
私は……自分では……考えていませんでした。
あの美しいリューク様の隣にいるという恥ずかしさを……同じぐらい綺麗なシロップ様。愛らしさがあり、均整の取れたプロポーションをしたカリン様……二人はリューク様の隣に立っていても恥ずかしくはありません。
もしも、自分が二人の代わりになったらと思うと……
「許せません」
「せやろ。だから、うちらはリューク様が恥ずかしくないと思う程度に自分を磨いとかないとあかんねん。リューク様が好きなら……側にいたいなら綺麗になる。これは女の戦いや」
アカリさんの言葉に……私は納得しました。
ルビーちゃんは獣人族として、最大限自分を可愛く見せている。
シロップ様は、リューク様の前だけ女性を出している。
カリン様は、リューク様に愛されるために綺麗になったと言っていた。
……私は、何もしてこなかった。
アカリが衣装や化粧で綺麗にしているのも、リューク様の横に並ぶ為に……
「アカリ!私、頑張ります。綺麗になる勉強をします」
「そや!三人で綺麗になってリューク様に愛されるんや」
「にゃははは、ミリル。その意気にゃ」
私は自分の心に芽生えた欲を叶えるため、綺麗になる勉強をします。
待っていてくださいリューク様……私もあなたのお側にいて恥ずかしくない存在になって見せます。
そのときは……私のことも見てくれますか?
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