第91話 派閥

 いよいよ学園の二年次が始まる登校日……ボクの前には列を作るメイド達が立ち並んでいる。

 一年前にはシロップと、シロップママに見送られて、シロップが運転する馬車で登校したはずなのに、一年で随分と状況が変わったものだ。


「主様、本日も馬車は私が御者を勤めさせて頂きます。また、学園での従者としてクウを同行させてくださいませ」


 シロップの横に並ぶ小柄なウサギメイドが前にでる。


「本日より、リューク様専属メイドを任命されました。クウです!学園でのお世話はお任せください。よろしくお願いします」


 元気なのはいいが……ハァ~ボクは別に専属とかいいのに。


「うん。よろしくね」

「ミリルとルビーは、本日よりメイド隊を脱退して、本来のクラスメイトに戻ります。本日は共に登校をさせますがよろしいですか?」

「いいんじゃない」

「リューク様、ありがとうございます」

「ありがとうにゃ」


 シロップが御者、クウが横について、ルビーとミリルがボクと共に馬車の中へ乗り込む。


「「「「「ご主人様、いってらっしゃいませ」」」」」


 メイドたちは全て亜人だ。

 獣人や精霊族によくわからない種族も交じっているけど、まぁどうでもいいや。

 みんなでボクの世話をしてくれるならボクは《怠惰》に過ごせるだろうからね。


「到着しました」


 馬車のクッションはバルがフォルムチェンジしているので、一切揺れを感じない。

 ルビーとミリルが楽しく話しているのを聞きながら学園に登校するのは悪くない。


「ありがとう」

「ダーリン!」

「リューク様」


 馬車を降りると、アカリとリベラが校門前でボクを待っていてくれたようだ。

 タシテ君の姿も見えるけど、彼女たちに場所を譲って遠くで頭を下げている。

 カリンは登校する日時が違うので姿は見えない。


「主様」

「うん?」

「昨年は、主様をお見送りしたのは私一人でした。そのとき主様は、「ボクを信じて待っていて」と言ってくださいました」


 言ったかな?まぁ言ったんだろうね。


「主様はたった一年で大きく成長され、大勢の人々から慕われるようになって帰ってこられました。

 今年も信じてお待ちしております。どうかお体をご自愛ください」

「ありがとう。ボクのいない間、家のことは頼むね」

「かしこまりました……お帰りを心からお待ちしております」


 皆が見ている前だけど、ボクはシロップを抱き寄せて口づけをした。


「んん……こんなところで……」


 シロップは恥ずかしそうに顔を赤くして、それでも抵抗はしなかった。


「家のことはシロップに任せるよ。冒険に出てもいいけど、ボクがいない間の屋敷の主は君だ」

「……はい」


 少し放心状態だったシロップが返事をしてくれたので、ボクは学園に向かって歩き出す。


「行ってらっしゃいませ!!!」


 シロップへ答えるために後ろを振り返る。

 ボクの後ろに続いてヒロイン達が歩いて付いてきていた。

 まぁ向かうのは同じ方向なんだからいいけど……タシテ君は、その姿を見て感動していた。なぜか、涙ぐんでいる。

 君、ボクの友達であって老執事とかじゃないよね?感動するところおかしくない?


「なぁ、ダーリン。さっきのええなぁ〜メッチャ注目されとるな」


 アカリに言われて、辺りを見れば、同学年である二年生だけでなく、入学式を終えて新しく学園に入ってきた一年生もボクを見ていた。


「どうでもいいさ」


 そう、人の目なんてどうでもいい。


 ただ、学年が二年になったことで様々なことに変化が訪れる。

 一年のときは成績によって決められていたチームが、自由に仲間を選択出来るようになる。最大6人のチームを組めるが、基本は四人……そして、一年生の中にもヒロインが数名いる。


 メインヒロインは同級生たちだが、隠しヒロインとサブヒロインが数名存在する。

 そのうち、厄介なサブヒロインが一つ下の学年に入ってくるのだ。


「お待ちになって!」


 そう考えて居ると……めんどうな相手がやってきた。


「あなたがデスクストス公爵家のリューク様ですのね」


 縦巻きロールのTHEお嬢様!三大侯爵家の最後の一家であり、第一王子の婚約者候補第一位セシリア・コーマン・チリスだ。

 一応サブヒロインであり、攻略は可能だが、メインルートであるエリーナルートに姉妹のように仲の良い妹として登場する。


「私のお姉様を悲しませたこと、私は絶対に許しませんわ!」


 宣戦布告のように、もっていたペロペロキャンデーを突きつけてくる。

 縦巻きロールのお嬢様は、ロリ要素満載のツルペタさんだ。

 しかも好物は飴で、ペロペロキャンディーが一番のお気に入りというから……ハァ~合法ロリという奴だ。


「セシリア様……どうやらデスクストス殿は怯んでおられるようです」

「そっ、そうなんですのね!やりましたわ。これでお姉様の仇をとれましたわ」


 セシリアの専属メイドが何やら囁いているが、もう面倒になってきた。

 ボクはリベラに視線を送る。


「チリス侯爵家のセシリア・コーマン・チリス様とお見受けしますが?」


 リベラはボクに代わって相手の名前を尋ねる。


「ふぇ?そっ、そうですわ!」

「ここは学園ですので、礼儀は最低限のものにさせて頂いてよろしいでしょうか?」

「かっ、構いませんわ」

「それでは……失礼します。ここは学園で、リューク様は上級生です。まずは挨拶をしなさい。そして、あなたは王権派なのでしょ?貴族家筆頭であるデスクストス家のリューク様に宣戦布告をして、戦争を仕掛けるおつもりですか?」


 少し物騒な言い回しだが、この場には様々な派閥の者達が見物しているのだ。

 ボク自身はめんどうだと思っているけど……思惑が絡みあっている以上黙っているわけにもいかない。


「ふぇ!?せっ、戦争?!そっ、そんなこと考えていませんわ!」


 うん。そうだと思ったよ。見た目と同じくおつむも成長して居ないように感じるからね。


「でしたら、エリーナ様にご迷惑がかかるとお考えください。慕うのであれば、相手に不利益になることはしてはいけません」


 最後の方はリベラも口調を和らげて諭すように言ってあげていた。


 今にも泣き出しそうな顔をされるのはズルいよね。


「わっ、私は……エリーナお姉様のことを思って……失礼しますわ!うわ~!!!」


 あっ、最後は泣いた。


「失礼します……ポッ」


 多分同い年のはずのメイドさんは無表情のまま、ボクを見つめて赤くなって立ち去って行った。


「ふぅ~」


 リベラはばつが悪そうに息を吐く。


「お疲れ、リベラ。ありがとう」

「あっ、いえ。リューク様のためであれば」


 リベラ以外の子は平民なので、こういう貴族同士で話をするときはリベラが居てくれると助かるね。

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