第76話 エリーナの願い
《Sideエリーナ・シルディ・ボーク・アレシダス》
新年は、多くの貴族が王城内を出入りするので、王族と従者だけが出入り出来るプライベートルームに引きこもり、嵐が過ぎ去るのを待つばかりだった。
下兄様のようにリンシャンの元へ遊びに行けばよかったと思ってしまう。
上兄様は雑務に追われている。
他の弟妹たちも、それぞれ動きがあるようだが、私は自分の部屋を出て、お父様からの呼び出しに向かわなければならない。
外を見れば新年を祝う街並みが見下ろせる。
白い息を吐いて、扉の前へと到着した。
「エリーナ、参りました」
「入れ」
謁見を終えたお父様は、疲労が色濃く出た表情で私を出迎え入れました。
「良く来てくれた。エリーナ」
「はっ。お呼びに応じ参りました」
「うむ。娘よ……すまん」
疲労しているお父様は、娘の私に深々と頭を下げた。
お父様……王は……優秀な人ではない。
凡王……そう呼ばれている人だ。
貴族たちが好き勝手していても、手を出すことも出来ない。王族に対しての尊厳が失われると分かっていても、動ける人ではない。
だからこそ、お母様はお父様の代わりに働き過ぎて亡くなってしまった……
上兄様が王へ代われば、多少はマシになるかもしれないが、その地盤を固められるだけの時間が残されていない。
せめて、デスクストス公爵家のアイリス嬢と上兄様の結婚が成立していれば、状況はもう少しマシになっていたはずだった。
それもデスクストス公爵家から正式に断られてしまった。
「いえ、王が仰せのままに」
「すまぬ」
ただ、謝罪を口にするだけの王……崩壊はすでに始まっていたのだ。
私たちが生まれたときから、貴族派の力が強く。
王族はお飾りとして生かされているだけ……上兄様は生まれながらに優秀であったため、デスクストス公爵家のテスタ、マーシャル公爵家のガッツ、二人と交流を持つようにして、友人関係を築いた。
下兄様はあまり頭が良くはなかったが、武芸が好きだった。剣帝杯を機にマーシャル家の騎士見習いダンと交流を持つようになり、年越しをマーシャル家で過ごせるまで仲を深めた。
王族とは卑しく生き永らえる方法を模索する。
ただ、高貴な血を残すため……上の兄たちがそれぞれの陣営と仲良くして祭り上げられる存在になったとき、アレシダスの血を残す第三の方法は何か?
「こちらへ」
私は現在、第三勢力として注目を集めている人物の元へ訪れている。
それはお父様である王からの願いであり、私自身が選んだ答えだ。
「いらっしゃい。よく来たね」
そう言って私を出迎えたのは、王国一の美しい顔をした男性であり、私と同い年の同級生リューク・ヒュガロ・デスクストス。
デスクストスを名乗りながらも、家族と共に行動することはなく。
家族から認められていない者。
然れど存在を誰も無視できない者。
第三戦力として外部からも、内部からも注目を集める者。
それが現在のリューク・ヒュガロ・デスクストスという人物だ。
彼がどう動くのか……貴族だけでなく、王族や市民にまで注目を集めている。
剣帝杯、あの大会は様々な思惑が絡み合ったものだった。
武だけで勝ち上がった者。
裏工作を使って、力を示した貴族。
そして、どちらも使って勝ち上がった存在。
リューク・ヒュガロ・デスクストスは裏工作で準決勝まで昇りつめ貴族としての力を示した。
そして、力を見せつけたアクージ家の者を己の実力で圧倒することで示してから、準決勝敗退を選んだ。
それは力ある貴族達ならば意味を理解出来る行為であり、またデスクストス公爵家への配慮もなされており、己の力を侮る者はどうなるのか、裏からも、表からも示したことになる。
「この度はお会い頂きありがとうございます」
私は自分でも思っていた以上に緊張をしていた。
学園生活で、リューク・ヒュガロ・デスクストスと交流をほとんどもってこなかった。
入学時に取った自分の行動は、リュークへの敵対行動に近いため悪い印象を持たれているだろう。
声をかけた時も不満そうだった。
唯一の思い出がそれだけ、思い出らしい思い出もない。
「ああ、今の状況を理解してこの場に来たということは随分と度胸があるんだね」
まるで、自分の喉元に剣が向けられているような恐怖……得体の知れない相手を前にして、私はどうすればいいのか思案していた。
様々な貴族から注目を集めるカリスマ性……見た目は……男性とは思えないほどの美しさ。魔法は私でも理解できない属性魔法を使う圧倒的な魔力量……
「だからやってきました」
「だから?」
「はい。単刀直入に申し上げます。私と結婚してほしいのです」
私は覚悟を決めてプロポーズを口にしました。
それは彼の意表をつけたようです。
ふふ、私でも驚いています。まさか、王女である私が男性にプロポーズする日がくるなど……ですが、これも王国……いえ、アレシダスの血を絶やさないために……
「普通に断るけど」
はっ?
「ボクには婚約者であるカリビアン令嬢がいるからね」
今まで多くの貴族たちが私を手に入れたいと告白してきました。家柄、地位、見た目、権力、様々なステータスを私に示して求婚してきました。その中には他国の王族もおりました。
アイリス・ヒュガロ・デスクストス公爵令嬢と並ぶ美しさであると言われ、王国の華と言われる私の告白ですよ!それも王族が告白するなどありえないことです。
「物凄く自信があったんだね……ごめんね」
リューク・ヒュガロ・デスクストスは立ち上がって話は終わりだと言わんばかりの態度で部屋から出て行こうとする。
「待ちなさい!」
「何?話は終わりでしょ?」
「何がダメなのですか?……私は男性が好む美しい見た目をしていると思います。あなたの横に居たとしても負けぬほどに!それに王族として血も高貴で、魔力量も多いのですよ!」
私が話せば話すほどに……リューク・ヒュガロ・デスクストスから熱が失われていく。
感情が抜け落ち、その表情は無表情になっていた。
「君はつまらないね。見た目も、高貴な血も、魔力量も、君の魅力だろうね。だけど、それだけが君自身の価値なの?これ以上、君と話したいと思えないよ。失礼するね。シロップ、お客様のお帰りだ」
「はっ!」
本当に彼は私の話を断って部屋を出て行ってしまった。
何が?何がいけないのですか?私はこれまで王族として勉学に、魔法に、政治に、と励んで来ました。
私自身の価値?見た目、血、魔力以外に何があると言うのですか?男性は私の能力や見た目に興味を持つのでしょ?それ以外など……私にはわからない。
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