第75話 アカリの提案

 船上パーティーで何か仕掛けてくるかと思っていたのに、兄上の大罪魔法を他家に見せつけただけだった。

 あれ以降は、警戒はしていたけど、仕掛けてくることは無かった。

 ただ、タシテ君のネズール家と、カリンのカリビアン家が警戒を強めている。


 伝書鳩代わりのコバトちゃんが、タシテ君からの連絡をもって屋敷にやってくるようになった。

 彼女はタシテ君の小間使いで、コバトちゃん以外にも多くの耳と口がタシテ君の情報源になっているそうだ。


 タシテ君が今回の事件で完全にボクの陣営に加わったことを、テスタ側に宣言することにもなっている。


 ボク……権力争いとかする気ないんだけどね。


 なんで対立形式みたいになっているのかな?ボクの意志どこにあるの?君はいつも「お望みのままに」っていうよね?それウソなの?ハァ~考えるのがめんどうだ。


「主様、本日は来客が二名いらっしゃいます。身支度をさせて頂きます」


 珍しいことだ。


 新年が明けたことで、王都には貴族が集まって王様への謁見やら、各家族との会合やらが増えている。

 カリンも最近は忙しい様子で、夕食を共にはしてくれる以外はすぐに仕事に戻ってしまう。


「来客?誰が来るんだっけ?」

「はい。一人はマイド大商店のアカリ・マイド様です。なんでもカリン様の言伝を預かっていらっしゃるそうです」

「カリンの言伝?」

「はい」


 シロップが困った顔をする。

 耳が可愛いので、ボクはシロップの頭を撫でる。


「とりあえず、カリンが判断したことなら問題ないでしょ。それで?もう一人の来客は誰?リベラでも来るの?」

「いえ、第一王女であらせられるエリーナ・シルディ・ボーク・アレシダス様です」

「えっ?」


 あまりにも意外な人物の名前が出て驚いてしまう。


 船上パーティーが盛大に行われたことでも分かる。

 貴族派は現在大盛り上がりだ。

 それは王権派に対して面白いことではなく、王権派であるはずの王族が、貴族派の筆頭であるデスクストス公爵家にやってくるのは随分と不審に思える。


「マジ?」

「マジでございます」


 ボクの問いにシロップが真剣な顔で答えてくれる。


「ふぅ~めんどうな気しかしないね」

「表情には出さないようにお願いします」

「わかったよ。どっちから?」

「午前中にアカリ様が先にいらっしゃいます。午後にはエリーナ様が」

「了解」


 会う準備を済ませて、アカリを出迎える。

 アカリはいつもとは違ってラフな姿でやってきた。


「お邪魔します」

「邪魔するなら帰れ」

「ほな、失礼します……なんでや!今来たところですわ」


 うん。定番のやりとりだ。


 ボクはバカなやりとりに疲れてバルに身を委ねる。


 アカリはシロップが勧めてソファーへと座った。


「それで?カリンからの言伝ってことだけど何のよう?」

「はい。言伝いいますかぁ〜ご報告に参りました」

「報告?」

「そや、この度リューク様専属メイド隊を設立することになりました」

「はっ?」


 アカリが発した言葉の意味が分からなさすぎて唖然としてしまう。ボクは視線をシロップへ向ける。

 シロップは何故かキリッとした良い顔をしていた。


 あぁ~これは知ってたな。知らないのはボクだけか……


「費用は、ウチとカリン様がご用意させて頂きました。すでに教育環境も整えさせて頂いております。あとはリューク様に承認してもらうだけです」

「承認って、別にボクは今は必要ないけど?」

「ダメです!リューク様は絶対に大きなことを成す方です。今の状況に甘んじるなど!」


 アカリよりも、シロップが熱くなっちゃったよ。

 完全に君もグルなんだね。


「ボクは何もしないよ?」

「それでええです。リューク様のお世話をするのが、メイド隊の仕事ですから」

「なら、承認するよ。多分、カリンがボクのことを思って作ってくれたんだろうしね」

「そや、後な……リューク様」

「うん?」

「改めてウチのことを妾にしてください!」

「その話は断ったはず……カリンが承諾したのか?」


 アカリが満面の笑みを浮かべる。


「カリン様には許可を頂きましたよって!今回のメイド隊の提案と資金作り、それにこれからのリューク様の未来のプランを持参して口説き落としました」


 いったいどんなプレゼンをしたのか、頭が痛くなりそうな話だ。


「どうしてそこまでボクの妾になることにこだわるの?正直、メリットはあまりないと思うけど?」

「打算的な話でもええですか?」

「うん。むしろ、その方が好ましいかな」

「おおきに。それじゃ話します。理由はいっぱいあるねんけど、一番の理由は自由やからやね」

「自由?」


 意外な答えに聞き返してしまう。


「そや。リューク様は他の貴族様たちと違って、ウチを縛ろうとはせえへんやろ?」

「縛るの意味によるが、行動と言う意味なら、好きなことをすればいいと思うね」


 人の行動を縛るほどめんどうなことはない。

 カリンがいないのは寂しいが、カリンが楽しそうなのが一番いい。


「やろ。ウチ、夢があんねん。発明家として、自分が発明した商品だけを置く店を持ちたいねん。

 そのためには自分の発明する時間がいるねん。

 そんで、店をやるためのお金を稼ぎたいねん。

 だから旦那に時間を取られるのは少なくしたいんよ。

 あっ、もちろん求めてくれるなら応じるで!ウチ、子供好きやし」


 アカリは楽しそうに夢を語る。


 打算的と言いながら、したいことは自分の店を持つことと、発明する時間がほしいってこと、まるで子供が将来を話すようにキラキラとしている。


「あっ!めっちゃ話してもうた。すんません」

「いいや。面白かったよ。夢は理解した。だが、断る!」

「なんでや!!!人の夢を聞いといて、それはないんちゃう?!」


 立ち上がって盛大にツッコミを入れるアカリ。

 シロップもボクが断ると思っていなかったようで、驚いた顔をこちらに向けている。


「今の理由は、確かにアカリの夢だ。時間に余裕がもてて、縛られない。それなら結婚しない方が自由だろ?矛盾しているな。まぁ隠れ蓑にしたいのは分かるが、都合良く使われるために、めんどうそうなメイド隊を作られるのも嬉しくない。ボクはカリンとシロップだけ居れば良いのだから」


 ボクの言葉を聞いて、アカリはストンと腰を下ろす。


 グッと奥歯を噛みしめて、スカートを握り締める。


「ほ……や……ん」

「うん?」

「リューク様に惚れてもうたんやから仕方ないやん!!!」

「はっ?」

「ウチは平民や!上位貴族のリューク様に妾にしてもらうには、めっちゃ綺麗になるか、自分の能力を売るしかないやろ!リューク様の周りにはシロップはんも含めて綺麗どころはようさんおる!ウチじゃ勝てへんねん!だから、ウチは能力を売る!ウチは発明が出来る!お金を稼げる!それを武器にしてリューク様の側におりたいんや!」


 それは告白というには……カッコイイ啖呵だった。


「ウチをお嫁さんにしてや!」


 顔を真っ赤に染めて、涙目で告白したアカリは十分に魅力的な女性だ。


「主様の負けですね」


 何故か、ボクが答えるよりも早くシロップがジャッジを口にする。


「ハァ~そうだな。負けだ、負け」

「ふぇ?」

「ボクは怠惰だぞ。自分のことも禄にしない。ボクの妾になるということは、ボクの世話をするということだ。いいのか?」

「ええに決まってるやん!!!」

「なら、ボクのモノになれ」

「はい!!」


 ハァ~カリンもこの情熱に負けたのか?その時点で答えは出てるけどな。

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