第52話 剣帝との出会い

《Sideダン》


 課外授業では自分の無力さを思い知ることになった。

 ダンジョンボスは、シーラス先生が来てくれたから倒すことが出来た。

 自分たちだけでは倒すことができなかった。

 一人で勉強を続けていても限界なんだ。


 俺はシーラス先生に師事して、魔法学と属性魔法についての理解を深める勉強を始めた。

 シーラス先生は凄い。

 今まで、俺が使っていた属性魔法は基礎的な初歩魔法でしかなかった。属性魔法には可能性がある。今までの俺は全く理解していなかった。


 マーシャル家は、騎士として剣術や肉体強化に重点を置いている。

 己の肉体で戦闘をするので、それが当たり前だと思ってきた。

 だが、魔法を勉強すれば魔法騎士として、もう一段階上の存在へと自分を高められることを知った。


 属性魔法【増加】は肉体強化や他の魔法を倍にすることが出来る。

 仲間を強化したり、自分を強くするのに凄く便利な能力だ。


 それを発展させればどうなるのか……考えるだけで楽しい。

 魔法を理解するだけで、こんなにも可能性が広がって、強くなれるなんて思わなかった。


 シーラス先生がダンジョンボスを倒した魔法は、補助魔法の応用だった。

 属性魔法に補助魔法を追加することで強化して、ダンジョンボスへ魔法が通るように変化させていたそうだ。


 無属性魔法は、クリーンとライト、それに肉体強化ぐらいしか知らなかった。

 俺は属性魔法のブーストをより高みに上げるために補助魔法や回復魔法などの、無属性魔法の勉強を始めることにした。

 ブーストを使えば、それらの魔法効果を倍にすることが出来る。


 魔法は凄い……だけど、シーラス先生は肉体的な強さを落としてはならないとも教えてくれた。


 毎朝の素振りはやめていない。


 最近はリュークを見かけることがなくなった。

 たとえ、リュークが鍛錬をやめたのだとしても、俺は俺の道を進んで強くなるだけだ。


「よう、坊主。つまらん剣を振るっているな」


 早朝の誰もいない時間……黙々と剣を振るう俺に話しかけてきたのは、高身長のオッサンだった。


「なんだよあんた。人の剣術にケチつけるつもりか?」

「はっ、それが剣術?バカにするなよ。お前のしていることはオママゴトだろ?笑わせてくれるなよ」

「なっ!なら受けてみろよ」


 俺はバカにされたこともあり、剣をオッサンに向かって振るった。

 確実に捕らえたと思ったオッサンの姿が目の前で消えて、剣は空を切る。


「ハァ~マジで、この学園の生徒は才能ない奴ばっかりだな。多少マシな奴がいると聞いて見に来てみれば、所詮は……」

「バカにするな!肉体強化増加×5」


 俺は属性魔法を勉強してから五倍まで強化出来るようになった剣を全力で振るう。


 さっきの五倍の速度と力で振り抜くが、やはり空を切る。


「おっ、まともな攻撃じゃん。なんだよやればできるじゃねぇか」

「うるさい!」

「はは、マジかよ。今までの奴はここまで振れる奴はいなかったなぁ。それに気概も悪くねぇ」


 何やらニヤニヤとして剣を避けるオッサン、ジロジロと見られてる感覚は気持ち悪い。


「よし。合格だ」

「へっ?」

「本当はお前じゃないと思うけど……そいつは見かけないからな。お前でいいや」

「なっ、なんだよそれ」

「う~ん、なんでも毎朝訓練をしている有望な奴がいるって聞いてきてな。あっ、お前は有望じゃねぇぞ。平凡だからな」


 毎朝訓練している有望な奴と言われて、俺の脳裏にリュークの顔が浮かぶ。


「だけどな、元々有望な奴を鍛えるよりも、平凡な奴が有望な奴を上回る方が面白いと思わないか?」


 オッサンの言葉は……俺がリュークを越えることを意味しているように思えた。


「あんたは誰なんだ?」

「おう。まだ名乗ってなかったな。アーサーだ。人は俺を剣帝アーサーと呼ぶ」

「剣帝!!!」

「おう。ビビったか?」


 この人が剣帝?王国一!!!冒険者ランクSSS。最強の男と言われる剣帝!!!


「くくく、良い表情するじゃねぇか……おい、お前の名前はなんて言うんだ?」

「……ダンです」

「ダン。お前の剣は平凡だ。それに面白くもねぇ」


 剣帝に否定されて俺は俯いてしまう。


「だけどな、お前の気概は悪くねぇよ。それにお前の属性魔法、あれは使えるな」


 剣帝が俺を褒めてくれた?


「俺も強くなれますか!?」

「くくく、本当にいい目をしてやがる。ああ、成れるぜ。俺の修行に付いてこれるならな」

「強くなれるならなんでもします!」

「良い瞳をしてるじゃねぇか……よし。お前を強くしてやる。誰にも負けないほど強くな。その代わり条件がある」

「条件?」


 なんだ?俺はお礼をしたくてもお金は持ってないし……俺に渡せるものなんか何もないぞ。


「簡単だ。俺を越えろ」

「アーサーさんを?」

「そうだ。それと今から俺のことは師匠と呼べ。いいな」

「はい!師匠!」


 それから俺は師匠について、剣術を基本とした戦闘術を習うことになった。


 今までマーシャル流剣術で習ってきたことが、オママゴトだと言われたことの意味が分かるぐらい、剣帝アーサーの剣術は自由で、敵を倒すことに特化していた。


 朝は、アーサー師匠に稽古をつけてもらい、学園ではシーラス先生の魔法講義を受ける。

 週末には、アーサー師匠と共にダンジョンに赴いて、レベルを上げて魔物を倒す日々だった。

 学校と修行……心身共に疲労が溜まっているが不思議と充実している日々だった。


 そんな日々が半年ほど続いた頃……俺は強さを実感していた。


 いつもと同じようにアーサー師匠が来る前に一人で準備運動をしていると……リューク・ヒュガロ・デスクストスを見つけた。


「リューク!」


 そのときの俺はテンションが上がっていた。

 今ならリュークを倒せる。


「うん??ああ、ダンか……何か用か?」

「俺は剣帝アーサーに戦闘術を習って闘気を習得したぞ!!!それに魔法の深淵を知る魔女シーラス先生に師事して魔法も強化した。もうすぐ行われる剣帝杯では絶対にお前に勝つからな!」


 リュークに勝つ!絶対に倒すんだ。


「そうか……闘気か見てみたいな……そうだな。試運転にはいいかもしれんな。よし、ダン。模擬戦をしてやる」


 珍しくリュークの方から模擬戦を申し込んできた。

 俺のテンションは最高潮に達した。


「いいのかよ?お前でも、今の俺には勝てないぞ」

「ご託はいい。かかってこい」


 俺は剣を構えてリュークと対峙した。

 前のようにはやられたりはしない。

 肉体強化した身体に闘気を纏い、師匠から習った直感でから受ける攻撃を全て防ぐために全集中する。


「いくぞ!」

「ああ。こい」


 剣を振り上げ、今できる最速の一撃をもってリュークへ斬りかかった。


 だが、次の瞬間……俺は意識を奪われる。


 薄れ行く意識のなかで……「うむ。実験は成功だな。闘気は理解できたか?」とリュークの声が聞こえた。


 アーサー師匠が来るまで……俺は寝ていた……いったい何が起きたんだ?

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