第37話 リンシャン・ソード・マーシャル 後編
《Sideダン》
姫様と訓練をしていた週末が、チームとダンジョンに行くから行けないと言われて、予定が空いてしまった。
俺もエリーナにダンジョンに行かないかと声をかけた。
「ダンジョン?いいわね。みんなにも聞いてみましょう」
俺からリベラに言ったところで絶対に拒否されると思ったのでエリーナに言ってもらった。
リュークにランキング戦を挑んでから、ずっと嫌われていることぐらいは分かる。
だから、エリーナに声をかけてもらったのだが、リベラもアカリも承諾してくれた。
「ハァ~、リューク様もダンジョンに行かれているので本日はいいですが……私はリューク様を優先します。
リューク様がダンジョンに行かれない日は絶対にお付き合いできませんので」
リベラの発言に苦笑いしてしまう。
「はっ!」
俺が剣を振るって一匹を倒している間に、エリーナとリベラが魔法で何十匹も魔物を倒していく。
アカリは戦闘は得意ではないと言っていたが、魔導銃と呼ばれる魔力を攻撃手段に代える武器を使って、遠距離から攻撃をしていた。
俺よりも効率的で、どんどん魔物を倒していく。
「魔法って凄いんだな」
素直に関心している間にレベルが一つ上がった。
学園の魔物は、そこまで強くないので多くの経験値を得られるわけではない。
それでもこれだけの数を倒して行けばレベルアップ出来てしまう。
三人で50は倒しているだろう。
「今日はここまでにしましょう」
エリーナはリーダーとして指示も的確で、リベラやアカリとの連携も上手い。
俺はタンクとして敵を引きつける役目を言い渡されて、何とか仕事をしているような感じだ。
「やっぱり0クラスに選ばれるだけの実力は皆さんお待ちになっているわね。アカリも戦闘は苦手だと言っていたのにやるじゃない?」
エリーナが全員に労いの言葉をかければ、アカリが先ほどの武器を取り出す。
「まぁ、この子のおかげやで。うちが最近開発した《魔導銃アルファ》君やねん」
「魔導銃の開発は知っていましたが、すでに実装できるほどに開発が進んでいたんですね?」
「う~ん。それがまだやねん。これはうち専用に、うちが自分で開発した物やねん」
「えっ?アカリが自分でですか?」
アカリの話にリベラが食いついて、女子達が楽しそうに話をしながらダンジョンから帰宅していく。
どうにも場違いな雰囲気に感じるが、この三人は全く警戒を解いていない。
最後まで、危険なことがなくダンジョンを出られた。
緊張していた俺からすれば強い三人とのチームは安心する。
学園に魔石を納品して終了を告げると、他の生徒が不穏な話をしていた。
「なぁ、聞いたか?」
「なんだよ」
「リューク様に、リンシャン様がランキング戦を挑んだそうだぞ」
「マジかよ。あのリューク様だぜ。いくら戦乙女と言われるリンシャン様でも無理じゃねぇか?」
「俺もそう思う。だけど、同じ公爵家なら、リンシャン様も隠し技とかあるんじゃね?」
「マジか、見てぇな」
俺はチームとの別れも早々に済ませて、闘技場へ向かって走った。
どれ位前の話なのかわからないが……一つだけ分かることがある。
「リンシャン、早まるな。お前じゃ勝てねぇよ!」
闘技場に入る前の廊下で、俺はリュークの姿をみつける。その傍らにリンシャンの姿があった。
「……リューク・ヒュガロ・デスクストス。姫様は負けたのか?」
見れば分かることだ。それでも聞かずにはいられない。
「ボクにではないけどね」
「戦いを挑まれたんじゃないのか?」
「断ったよ。代わりにルビーが戦った」
「そうか」
「意外だな」
意外と言われて、俺は自分でも不思議なくらいリュークに敵意をもっていない自分に気づいた。
むしろ、姫様の行動や自分の行動の方が自分勝手で、申し訳なさを感じる。
「うん?ああ、デスクストスには迷惑をかけたと思っている。すまない」
「ふむ。どういう心境の変化だ?」
疑うような目で見られて、信用されていないことを実感する。
「別に何も心境は変わってねぇさ。元々、デスクストス公爵家は姫様の敵で、いつかはあんたを倒す」
倒さないといけない相手だ。
「だけど、あんたは思っていた嫌な貴族じゃない!
むしろ、努力して、俺よりもずっと先を歩いているスゲー奴だ。今の俺じゃあんたには勝てない。
それにあんたは敵だが、筋は通っていることは理解している」
俺の言葉を聞いて、リュークが笑う。
「バカに毛が生えたようだな」
「うるせぇよ」
「マーシャル嬢のことは君に託すとしよう」
奴は姫様に危害を加えることなく、優しく腕の中へと姫様を返してくれる。
やっぱり優しい奴なんだ。
「ありがとう。姫様はちょっと頭が固いかもしれねぇが、あんたは悪い奴じゃねぇと俺は思う。あんたを越えるために俺は鍛え続ける。
姫様は家の事情もあるから無理かもだけど、自重させるように言っておくよ」
姫様のことは俺が解決する問題だ。
リュークに対して行っているのは正々堂々とした戦いじゃない。
「……お前にボクの何が分かる?」
突然、魔力を放出させるリューク。
何か怒らせることを言ったか?対峙して分かる。
今まで出会ったどんな魔物よりも恐ろしい存在に思える。
立っているのがやっとで、足が震える。
それでも、今逃げることは許されない。
「嫌な奴じゃない?勘違いするなよ。下郎が!」
俺は貴族の逆鱗に触れたのか?殺される!
身体が紫色に光を放ち、瞳は魔物たちよりも恐ろしい。
「ボクは、あくまで怠惰な悪役貴族だ。それだけは忘れるな」
尻餅をついて力が抜けきった俺が倒れるのと、リュークが魔力を納めるのは同じだった。
「とんでもねぇな」
リュークはそれ以上何も語ることなく去って行った。
その背中は、遠いと思っていたが、全く自分とは次元が違う存在なんだと思い知らされる。
「腰抜けちまった」
姫様を医務室に連れて行こうと思っていたのに動けねぇや……
「うっ、うん。ここは?」
「よう。目が覚めたか、姫様」
「ダン、ツッ!!そうか……私は負けたのか……」
顎に残る傷跡、ルビーの蹴りを食らったんだろう。
模擬戦でやられたことがあるが、ルビーは戦闘の化け物だ。
「ああ。負けた。俺たちは二人とも負けたんだ」
「なんだ?お前は悔しくないのか?!」
「悔しいさ。悔しいから、俺たちは理解しなくちゃいけねぇ」
「……何をだ?」
姫様は自分の顔に腕をおいているので顔は見えない。
「俺たちは間違っていた」
「間違ってなど!」
「間違ってんだよ!!!!誰かに聞いた話を信じるんじゃなく、自分で見たことを信じろよ!!!」
否定するリンシャンに対して俺は怒鳴っていた。
「……ダン」
「いいか、リューク・ヒュガロ・デスクストスは強い。
それもとんでもなく強いんだ。あいつの家が悪さをしてる?そんなこと知らねぇよ。
あいつ自身は強さを手に入れるために努力してんだよ。それを認めて理解しろ。
俺たちは強くなる努力をあいつ以上にしないと勝てないんだ!
リンシャン!お前はあいつよりも弱い!」
言わずにはいられなかった。
マーシャル家のみんなはいい人ばかりだった。
皆必死に生きていた。
だけど、世界は広い。
知らないことが多すぎて、常識が違って、自分たちは知らなければならない。
本当に強いとは何なのかを……
「すまん。言い過ぎた」
「いい。私も……自分で考え始めていたことだ……」
リンシャンは考え始めたといいながら、顔は落ち込み沈んでいた。
「よし。寮に帰って美味い物食べようぜ。腹がへっちまったよ」
「ああ」
元気のないリンシャンに肩を貸して、俺たちは闘技場を後にした。
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